「社会保障・税番号(通称:マイナンバー)制度に関するアンケート」調査
「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(マイナンバー法)が2016年1月に施行となった。2015年6月~7月に実施した同様のアンケート調査では「メリットなし」、「情報漏洩リスクへの懸念」がクローズアップされた。導入が告知されてから各企業では対応を進め認知度も高まったが、施行されてもなお、業務面の負担が増すため「メリットはない」、または「わからない」とし、利活用も進んでいない実態がわかった。
- ※本調査は2016年1月19日~1月29日の期間にインターネットによるアンケートを実施し、有効回答を得た7,887社の回答を集計・分析、一部は前回調査との比較も行った。
「マイナンバー法の認知度に関して」
Q1.マイナンバー法の内容について、どのくらいご存知ですか?
~認知度、約9割~
「概ね知っている、よく知っている」が5,046社(構成比64.0%)で約6割を占めた。「少し知っている」は2,513社(同31.9%)で、この両方を合わせた「知っている」と回答したのは7,559社(同95.8%)あり、9割以上に認知されていることがわかった。「あまり知らない、ほとんど知らない」はわずか328社(同4.2%)にとどまり、認知度の高さが目立った。
「マイナンバー制度のメリット・デメリットに関して」
Q2.貴社にとってマイナンバー制度の一番のメリットは何ですか?
~メリットなし、約7割に増加~
「メリットはない」が最多の5,881社(構成比74.6%)で約7割を占めた。次いで、「情報管理の利便性向上」が637社(同8.1%)、「公平性が徹底される」が552社(同7.0%)、「業務の効率化」が481社(同6.1%)、「その他」264社(同3.4%)、「業務の削減」65社(同0.8%)、「コストダウン」7社(同0.1%)と続く。
「メリットなし」は前回調査(同65.9%)より8.7ポイント増加していて、マイナンバー制度の導入とともに、メリットなしと判断した企業の比率が高まっている。一方、「その他」の中には「まだ(社内で運用されていないから)わからない」「始まったばかりで、わからない」旨の回答が145社あり、一部ではまだ把握できていないことも垣間見える。
Q3.貴社にとってマイナンバー制度の一番のデメリットは何ですか?
~情報漏洩のリスク、約4割~
「情報漏洩のリスク」が最多の3,194社(構成比40.5%)で約4割を占めた。次いで「業務の煩雑化」が1,809社(同22.9%)、「業務の増加」が1,802社(同22.8%)、「コスト増加」が548社(同6.9%)、「デメリットはない」が344社(同4.4%)、「その他」が156社(同2.0%)、「公平性が解消できない」が34社(同0.4%)の順だった。
前回調査でもデメリットは「情報漏洩のリスク」(同53.3%)が最多だったが、構成比は12.8ポイント下がった。各企業がセキュリティ強化に努めたことや、行政による広報活動で安全性への認識が広がっていることがうかがえる結果となった。
また、「業務の煩雑化」、「業務の増加」といった業務面への負担を指摘する回答は3,611社(同45.7%)で、構成比は前回(同27.3%)より18.4ポイント増加した。実務が始まってから現場での負担増加を実感してきたことに対して、会社の認識が進んできたことが考えられる。 反面、「その他」の中では「まだ始まったばかりで、わからない」旨の回答が65社(「その他」中の構成比41.6%)あり、デメリットについても、実際の把握までには多少の時間がかかるケースがありそうだ。
「マイナンバー制度導入状況に関して」
Q4.マイナンバー制度の導入状況について教えてください。
~過半数が完了~
「概ね完了、すべて完了」が4,180社(構成比53.0%)で最多だった。次いで「検討中」が1,699社(同21.5%)、「システム設計・改修中」が1,225社(同15.5%)、「未検討」が424社(同5.4%)、「不明」が359社(同4.6%)の順。前回調査では「概ね完了」の構成比が2.8%にとどまったが、今回は過半数を占め、制度導入とともに対応が進められていることがわかった。
しかし今回でも「検討中」や「システム設計・改修中」、「未検討」との回答が3,348社(構成比42.4%)あり、まだ様子を見ていたり制度の導入が浸透しきっていない側面もみられた。
Q5.マイナンバー制度導入に際して行った(現在進めている)対応策を3つまで教えてください。
~社内での管理面、約7割~
回答総数1万9,472のうち、制度導入に際して行った(進めている)対応策は「社内での周知」が回答数5,370(構成比27.6%)で最多だった。次いで「従業員などのマイナンバー把握・管理方法策定」が同4,188(同21.5%)、「人事・給与・経理システム更新」が同2,454(同12.6%)、「情報取扱関連規定の作成・改訂」が同2,372(同12.2%)、「情報漏洩セキュリティ体制強化」が同2,141(同11.0%)、「業務担当者向け研修」同1,567(同8.0%)、「関連業務の外部委託」同831(同4.3%)、「何も実施しなかった」同440(同2.3%)、「その他」同109(同0.6%)と続く。
前回調査(回答総数1万2,501)でも、「従業員などのマイナンバー把握・管理方法策定」が同2,260(同18.1%)で2位にランクし、引き続き社内管理体制に力を入れていることがわかった。一方、「情報セキュリティ体制強化」は前回、同2,463(同19.7%)でトップだったが、今回は構成比がほぼ半減し、企業側の対応の優先度が下がっている可能性も考えられる。
「法人番号制度の認知度に関して」
Q6.法人番号制度について、どの程度ご存知ですか?
~認知度、約6割~
「ある程度知っている、よく知っている」が4,437社(構成比56.3%)で最も多く、約6割を占めた。反面、「名前だけ知っているが利用方法はわからない」は2,317社(同29.4%)、「あまり知らない、ほとんど知らない」は611社(同7.7%)で、約4割(37.1%)ではまだよく認知されていないことがわかった。
前回調査より認知度は増えているが、まだ認知に至っていない企業も一定層あることがうかがえる。
「法人番号制度の活用に関して」
Q7.貴社の法人番号の活用について教えてください。
~利活用、1割にとどまる~
「検討中」が3,079社(構成比39.0%)で最多だった。次いで、「未検討」が2,580社(同32.7%)、「検討したが、利活用はしていない」が917社(同11.6%)と続き、「活用・利用している」は789社(同10.0%)と1割にとどまった。
大半の企業では、検討はしているものの特に対応していないという現状がみえる。
Q8.法人番号の主な活用内容(検討を含む)は何ですか?2つまで教えてください。
~活用予定なし、過半数~
総回答数8,543のうち、「活用の予定はない」が最多の回答数4,653(構成比54.4%)で、過半数を占めた。次いで、「取引先の管理」が同2,004(同23.5%)、「従来顧客向け新商品・サービスの提供」が同357(同4.2%)、「その他」が同337(同3.9%)、「新規営業開拓のリスト作成」が同311(同3.6%)、「従来顧客向け従来商品・サービスの提供拡大」が同290(同3.4%)、「新規顧客向け新商品・サービスの提供」が同258(同3.0%)、「新規顧客向け従来商品・サービスの提供」が同198(同2.3%)、「新規市場への参入」が同135(同1.6%)と続いた。
「その他」では、「これから考える」「利活用方法がわからない」というコメントも目立ち(回答数129)、導入から半月を経過しても具体的な活用には至っていない企業が散見された。
前回は、「活用する予定はない」の構成比が14.6%だったが、今回の調査では39.8ポイントの大幅増加となった。利活用方法を進めるために、具体的事例などさらなる広報が待たれる。
「法人番号制度のメリット・デメリットに関して」
Q9.貴社にとって法人番号の一番のメリットは何ですか?
~メリットなし、約6割~
「メリットはない」が5,162社(構成比65.4%)と約6割を占めた。次いで、「情報管理の利便性向上」が1,112社(同14.1%)、「業務の効率化」が439社(同5.6%)、「その他」が297社(同3.8%)、「公平性が徹底される」が281社(同3.6%)、「業務の削減」が58社(同0.7%)、「コストダウン」が16社(同0.2%)と続く。
「その他」の中では「わからない」「これから検討する」「利活用方法がわからない」とのコメントも目についた(214社)。利活用方法がない、わからない、等が原因でメリットが見出せない側面もみえ、利活用事例の提示など、浸透に向けての案内が求められる。
Q10.貴社にとって法人番号制度の一番のデメリットは何ですか?
~業務面への負担、約4割~
「デメリットはない」が2,250社(構成比28.5%)で約3割を占めトップだった。以下、「情報漏洩のリスク」が1,684社(同21.4%)、「業務の煩雑化」が1,448社(同18.4%)、「業務の増加」が1,436社(同18.2%)、「その他」が269社(同3.4%)、「コスト増加」が249社(同3.2%)、「公平性が解消できない」が29社(同0.4%)の順だった。
最多は「デメリットはない」だが約3割にとどまり、まだ、情報漏洩に対する根強い懸念も払拭しきれていないようすがみえる。また「業務の煩雑化」と「業務の増加」の合計が2,884社(同36.6%)と約4割にのぼり、業務面への負担増加に対する不満が集まっている結果となった。
「その他」では「メリット」と同様、「わからない」「これから検討する」等のコメントが大多数(211社)を占め、メリット・デメリットを判断する材料が少ないとみる企業もあるようだ。
Q11.法人番号制度の導入対応状況について教えてください。
~検討中もしくは未検討、約6割~
「検討中」が2,407社(構成比30.5%)で最多。次いで、「未検討」が2,105社(同26.7%)、「すべて完了」が1,056社(同13.4%)、「不明」が973社(同12.3%)、「システム設計・改修中」が824社(同10.4%)と続く。
「検討中」と「未検討」を合わせると4,512社(同57.2%)で、約6割の企業が実際に対応を進めていなかった。今後の推移を見てから判断しようとする姿勢がうかがえる結果となった。
Q12.マイナンバー、法人番号制度導入に伴う投資金額(予定を含む)はいくらですか?
~50万円未満、約3割~
「50万円未満」が2,152社(構成比27.3%)と約3割を占めトップ。次いで「不明・回答できない」が1,915社(同24.3%)、「投資予定なし」が1,611社(同20.4%)、「50万円以上100万円未満」が779社(同9.9%)、「100万円以上500万円未満」が673社(同8.5%)、「500万円以上1,000万円未満」が84社(同1.1%)、「1,000万円以上5,000万円未満」が54社(同0.7%)、「5,000万円以上」が10社(同0.1%)の順だった。
「50万円未満」と「投資予定なし」合計が3,763社(同47.7%)と約5割を占め、できるだけ費用を掛けたくなかった、あるいは掛けたくないという、負担を抑えようとする姿勢が浮き彫りとなった。
政府が強力な姿勢で制度を決めたマイナンバー法だが、自由回答欄に回答した599社のうち、「不要」「企業側にだけ負担」「(今からでも)やめてほしい」といった否定的なコメントが89社(構成比14.9%)から寄せられた。また、当初から言われていた「情報漏洩に懸念」も59社(同9.8%)が回答、さらに「経費や運用面への支援や補助が必要」との指摘は15社(同2.5%)あり、企業側に責任や費用、手間など一方的に負担が押し付けられている、という認識がうかがえる。業務の効率化や税・所得の透明性・公平性向上などを掲げて導入された今回の制度だが、受入側への負担増加が不満となっている。
一方で、実施するからには徹底してほしい、今後の制度の適用範囲の拡大に期待、将来的な利活用が楽しみ、といった前向きな意見も少数ながら聞かれた。
今回の調査では、マイナンバーの普及に関して認知度は高まっているものの、受け入れには相対的にまだ否定的な意見が多かった。受入側となる企業から導入への賛意を得て幅広く浸透させるためには今後、政府が、導入に関する一層の広報を行うとともに、受入企業側の不満解消に結び付く施策や利活用のアイデアを示していくことが求められている。