旅館・ホテル1,569社 業績動向調査
旅館・ホテル運営企業1,569社の48.2%が増収だった。全体の総売上高は2年連続で増収を達成、増益企業も41.0%を占め、売上・利益ともに好調だった。特に、大都市圏や人気観光地で増収率が高く、好調な国内旅行やインバウンド(訪日観光客)効果が、各地の旅館・ホテル業界に活況を呈していることがわかった。
日本政府観光局(JNTO)の発表では、2015年の訪日外客数(年間推計値)は前年比47.1%増の1,973万7,000人で、45年ぶりに訪日外客数と出国日本人数が逆転した。2015年の訪日外客数は、JNTOが統計を取り始めた1964年以降、最大の伸び率を記録した。また、円安で日本人旅行者の海外旅行から国内旅行へのシフトが進んだことや、東日本大震災後の旅行自粛からの回復などで国内旅館・ホテル業者に追い風が吹いているようだ。
- ※本調査はTSR企業データベース(281万社)から主業種が「宿泊業」の「旅館・ホテル」で、3期連続で売上高と利益が判明した1,569社を抽出し、分析した。
- ※「最新期」は2014年月9月~2015年8月で、利益は「最終利益(当期純利益)」とした。また、「旅館・ホテル」にはシティホテル、観光ホテル、ビジネスホテル、駅前旅館、割ぽう旅館、民宿などを含み、カプセルホテルやベッドハウスなどの「簡易宿所」、ウィークリーマンションや貸別荘などの「貸家業」は含まない。
- ※「▲」はマイナスを示す。
増収企業が48.2%
旅館・ホテル運営企業のうち、売上高が3期連続で判明した1,569社の最新期の売上高合計は、2兆6,405億300万円(前期比3.0%増)だった。
前々期からの2年で全体の売上高は1,666億8,200万円の増収(6.7%増)を実現している。
1,569社のうち、増収は757社(構成比48.2%)で約半数だったが、前期の862社(同54.9%)と比べ105社減少した。
一方、減収は238社(構成比15.2%)で、前期の186社(同11.9%)から52社増加した。横ばいは574社(同36.6%)で、前期の521社(同33.2%)から53社増加した。
1,569社の売上高伸長率は、「0~5%未満」が582社(構成比37.1%)と最も多く、次いで「▲5%~0%未満」が309社(同19.7%)、「5~10%未満」が205社(同13.1%)、「10~100%未満」が200社(同12.7%)の順となった。
全国の旅館・ホテル運営企業の売上高伸長率は、横ばい又は5%未満が4割近くを占め、全国的には微増であるが客室稼働の好転が売上高を押し上げていることがわかった。
増益企業が41.0%、減収企業35.8%を上回る
旅館・ホテル運営企業のうち、利益が3期連続で判明した1,569社の最新期の利益合計は1,105億8,300万円だった。前期の1,310億1,600万円から15.6%減益となった。
最新期での黒字は1,234社(構成比78.6%)、赤字は335社(同21.4%)で、黒字企業は前期の1,233社から1社増加した。
1,569社の総売上高は連続増収だったが、利益は中堅ホテルで本業の好調を背景に建物改修に伴う除却損や減損処理などを実施して特別損失を計上した企業もあり、売上高推移に連動しなかった。
増収増益は454社(構成比28.9%)で前期の521社(同33.2%)から67社減少した。増収減益は235社(同14.9%)、減収増益は190社(同12.1%)、減収減益は327社(同20.8%)。1,569社のうち「増益」は644社(同41.0%)で、「減益」の562社(同35.8%)を82社上回り、利益をあげられる企業が増加した。
地区別 関東・近畿の増収・増益が顕著
地区別では、近畿・関東の旅館・ホテル運営企業で増収、増益の企業が多かった。
増収企業比率のトップは近畿で、増収企業は64.6%を占めた。次いで関東の59.5%、北海道の51.1%と続いた。京都、大阪神戸、奈良などの観光地が多い近畿や、東京、横浜などの大都市圏、さらに国内旅行客だけでなく訪日観光客にも人気のある北海道で増収が目立った。
都道府県別の売上高増加ランキングは、沖縄県が増収企業率87.0%で断トツのトップだった。外国人に人気の高い大阪府、京都府、富士山がある山梨県などが上位に入った。東京都は増収企業率66.9%で6位だった。
一方、減収企業率は、岩手県が減収企業率80.0%で最下位。次いで、茨城県、富山県、高知県の順だった。大都市圏から離れ、観光資源やインバウンド効果が乏しい地域で減収企業が多かった。
赤字企業が最も多かったのは北陸で、赤字企業率37.8%だった。約4割の旅館・ホテル運営企業が赤字で、北陸新幹線開通前の実態がうかがわれる。次いで、東日本大震災の被害が大きかった東北30.2%、中国27.9%の順で、インバウンド効果で明暗を分けたようだ。
売上高別 5億円未満が6割以上
売上高別では、1~5億円未満が533社(構成比34.0%)と最も多く、次いで1億円未満が462社(同29.4%)だった。
売上高5億円未満が995社(同63.4%)と全体の6割以上を占め、旅館・ホテル運営企業は中小・零細企業が半数を占めている。
売上高100億円以上は44社(構成比2.8%)、50億円以上100億円未満は51社(同3.3%)で、売上高50億円以上は全体の6.1%と1割に満たなかった。
業歴別 100年以上の老舗が6%
業歴別では、10~50年未満が665社(構成比42.4%)と最多。次いで50~100年未満487社(同31.0%)、100年以上98社(同6.3%)と続く。業歴50年以上が37.3%、同100年以上も6.3%と、旅館・ホテルは歴史ある老舗企業が多いことがわかる。
景気回復による国内旅行者や訪日外客数の増加で、旅館・ホテル運営業者の業績は好調なことがわかった。今回調査した1,569社のうち、ほぼ半数の48.2%が増収、41.0%が増益だった。特に、大都市圏や人気の高い観光地の沖縄県、山梨県などで増収が目立った。ただ、大都市圏から離れ、インバウンド効果が得られにくい岩手県、茨城県、新幹線開通前の富山県などは減収企業の割合が高かった。
政府は平成28年(2016年)度予算で観光庁関連として前年度比2.36倍の245億4,500万円を計上し、旅館・ホテル業を後押しする。東京オリンピック開催を控え、宿泊施設の不足から「民泊」への注目も高まっている。ただ、現状の民泊需要は、東京都や大阪府などの大都市圏と人気観光地に限定されるだろう。「地方創生」には、地方の旅館・ホテルも一体となり一過性でない地域の魅力向上への取り組みが必要だ。
旅館・ホテル業者は売上高5億円未満の小・零細規模が多い。また、地方ほど赤字企業が多い実情を踏まえ、観光資源をどう地方活性化に繋げられるか国、自治体、企業の取り組みが注目される。