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「地方公共団体・中小企業等向け貸出金残高」調査

 銀行112行の2015年3月期の貸出金残高のうち、地方公共団体向け貸出金残高は27兆4,439億円で、前年同期より4.5%(1兆2,010億円)増加した。112行のうち、79行(構成比70.5%)が地方公共団体向け貸出金残高を伸ばした。調査を開始した2010年3月期以降、3月期としては5年連続で前年同期を上回った。
  また、中小企業等向け貸出金残高は285兆1,418億円で、前年同期に比べ2.4%増(6兆8,143億円増)と、3月期としては4年連続で前年同期を上回った。112行のうち101行(構成比90.1%)で中小企業等向け貸出金残高を伸ばした。
 金融機関の2015年3月期の総貸出金残高(419兆1,686億円)に占める地方公共団体向け貸出金残高の比率は6.5%、中小企業等向け貸出比率は68.0%で、それぞれ前年同期比0.1ポイント上昇した。
 金融庁は金融機関に対して中小企業向け貸出を促しており、中小企業向け貸出は増加基調にある。しかし、増加率は中小企業等向け貸出に比べ、リスクの低い地方公共団体向け貸出が上回っており、リスクを回避した金融機関の貸出姿勢に大きな変化がみられない。


  • 本調査は、銀行112行の2015年3月期決算の「地方公共団体向け」および「中小企業等向け」貸出金残高を前年同期と比較。
  • りそな、沖縄銀行は信託勘定を含む。

銀行112行 貸出比率推移

地方公共団体向け貸出金、前年同期比4.5%増

 銀行112行の2015年3月期での地方公共団体向け貸出金残高は27兆4,439億円で、前年同期(26兆2,429億円)より4.5%(1兆2,010億円)増加した。112行のうち、地方公共団体向け貸出金残高が前年同期を上回ったのは79行(構成比70.5%、大手2行、地銀50行、第二地銀27行)で、前年同期(78行)より1行増加(大手同数、地銀2行増、第二地銀1行減)した。
 地方公共団体向け貸出金残高の最多は北洋銀行の1兆3,356億円(前年同期比3.7%増)で、総貸出金残高に占める貸出比率は24.0%だった。次に、三井住友銀行1兆708億円(同4.6%増)、みずほ銀行9,927億円(同9.5%減)、福岡銀行8,079億円(同0.4%減)、常陽銀行7,987億円(同1.1%増)の順。貸出金残高5,000億円以上は14行で、前年同期(9行)より5行増加した。
 総貸出残高に占める地方公共団体向けの貸出比率は平均6.5%で、前年同期比0.1ポイント上昇した。3月期では、2010年3月期以降で貸出比率は最高となった。112行のうち、地方公共団体向け貸出比率が前年同期を上回ったのは63行(構成比56.2%)で、前年同期と同数だった。
 地方公共団体向け貸出比率のトップは青森銀行で34.5%(前年同期32.6%)だった。次いで、北都銀行33.9%(同32.8%)、北洋銀行24.0%(同22.9%)、岩手銀行23.5%(同21.3%)、鳥取銀行22.9%(同23.5%)の順。地方公共団体向け貸出比率の上位10行のうち9行は、前年同期より貸出比率が上昇しており、リスク回避の傾向が一段と強まっているようだ。

中小企業等向け貸出金、9割が前年同期より貸出を伸ばす

 銀行112行の2015年3月期の中小企業等向け貸出金残高は、285兆1,418億円だった。前年同期(278兆3,274億円)より2.4%(6兆8,143億円)増加し、3月期としては4年連続で増加した。銀行112行のうち101行(構成比90.1%)で、前年同期より貸出を伸ばした。
 中小企業等向け貸出金残高は三井住友銀行が33兆4,985億円(前年同期比1.2%増)でトップ。次いで、三菱東京UFJ銀行が33兆4,871億円(同0.9%減)、みずほ銀行が30兆5,123億円(同0.7%増)、りそな銀行が15兆858億円(同3.1%増)、横浜銀行が7兆8,971億円(同2.6%増)の順だった。貸出金残高1兆円以上は64行で、前年同期(63行)より1行増加した。
 総貸出残高に占める中小企業等向けの貸出比率は平均68.0%。前年同期より0.1ポイントアップし、2011年3月期以来、4年ぶりに貸出比率が上昇した。112行のうち中小企業等向け貸出比率が前年同期を上回ったのは51行(構成比45.5%)、前年同期(54行)より3行減少した。
 中小企業等向け貸出比率のトップはスルガ銀行の95.3%(前年同期95.7%)。次いで、大正銀行93.7%(同92.9%)、南日本銀行93.4%(同92.8%)、静岡中央銀行92.0%(同92.5%)、関西アーバン銀行92.7%(同92.3%)と続く。

地区別貸出比率、中国地区で地方公共団体向けが唯一の2ケタ増

 本店所在地で分けた地区別では、地方公共団体向け貸出金は全国10地区のうち東京と北陸を除く8地区で前年同期を上回った。増加率は、中国10.6%増がトップ。次いで、四国9.5%増、東北8.1%増と続く。貸出比率は、北海道22.9%を最高に、東北20.7%、北陸17.8%、中国12.6%、九州11.2%の順で、東京、北陸、九州を除く7地区が前年を上回った。
 中小企業等向け貸出金は全国10地区のうち北海道を除く9地区で前年同期を上回った。増加率は、九州6.5%増を最高に、中国4.8%増、関東4.2%増と続く。貸出比率では、近畿の78.7%をトップに、関東76.5%、中部74.0%、九州73.5%、四国73.3%と続く。
 貸出金が前年同期を下回った北海道は、北海道銀行が1兆9,095億円で前年同期比1.8%(350億円)増えたが、北洋銀行が3兆3,963億円と同3.6%(1,290億円)減少したことが影響した。
 東京、北陸、九州を除く7地区では「地方公共団体向け」貸出の増加率に比べ、「中小企業等向け」貸出の増加率が下回り、貸出姿勢に温度差がみられた。


 2013年3月に中小企業金融円滑化法が終了したが、その後も金融機関は返済猶予の要請に弾力的に応じており、支援姿勢に大きな変化はない。
 金融庁は金融機関に中小企業向け貸出を促し、大手行、地方銀行、第二地銀ともに中小企業等向け貸出金を伸ばしている。しかし、貸出金に占める割合は、地方銀行が伸ばす反面、大手行、第二地銀が縮小するなど、業態によって温度差が生じている。
 また、中小企業等向け貸出に比べ、地方公共団体向け貸出の増加率は大きく、リスク回避の貸出姿勢に変化はない。こうした状況から、金融機関は企業の将来性や事業内容を重視して融資を決める「事業性評価」を求められている。中小企業の成長には、財務内容だけでなく、「目利き力」など中小企業のキラリと光る魅力を見抜く力も欠かせない。今、金融機関の審査能力が改めて強く問われている。

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