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2014年度「東証1部・2部上場企業 不動産売却」調査

 2014年度に国内不動産を売却した東証1部、2部上場企業は77社で、3年連続して前年度を上回った。景気の先行き期待と円安、金融緩和を背景にして、保有資産の効率的運用や財務体質の強化を目的とした不動産売却が増加している。

  • 本調査は、東京証券取引所1部、2部上場企業(不動産投資法人を除く)を対象に、2014年度(2014年4月~2015年3月)に国内不動産(固定資産)の売却契約または引渡しを実施した企業を調査した(各譲渡価額、譲渡損益は見込み額を含む)。
  • 資料は『会社情報に関する適時開示資料』(2015年5月12日公表分まで)に基づく。東証の上場企業に固定資産売却の適時開示が義務付けられているのは、原則として譲渡する固定資産の帳簿価額が純資産額の30%に相当する額以上、または譲渡による損益見込み額が経常利益または当期純利益の30%に相当する額以上のいずれかに該当する場合である。

調査概要

不動産売却企業は77社 3年連続で前年度を上回る

 会社情報の適時開示ベースで2014年度に国内不動産(固定資産)の売却契約、または引渡しを実施した東証1部、2部上場企業数は、77社(前年度76社)で、2011年度を底にして3年連続で前年度を上回った。
国土交通省が発表した2015年1月1日時点の全国の公示地価は、景気回復を背景に商業地が7年ぶりに横ばいに回復した。この一方で、首都圏などの大都市圏では、事務所や商業施設等の取引価格が高止まりしていることや、マンション建築費の高騰で、デベロッパーの土地購入の様子見もみられるが、上場企業では保有資産の上昇から財務体質の改善を目的とした遊休資産の売却意欲が高まりをみせている。

公表売却土地総面積 67社で94万平方メートル

 2014年度の売却土地総面積は、内容を公表した67社合計で94万5,403平方メートルだった。単純比較で前年度より26.0%減少(前年度:公表63社、127万8,449平方メートル)した。売却土地面積が1万平方メートル以上は25社(前年度25社)だった。

公表売却土地面積トップは日本研紙

 公表売却土地面積トップは、研磨布紙総合メーカーの日本研紙の9万4,784平方メートル。新工場建設予定として約30年前に取得した広島県尾道市の遊休地や、本社移転で大阪市西区の事務所ビルを資産効率化を図るため売却した。次いで、長野県東御市の工場用地8万3,648平方メートルを売却した自動車部品メーカーの日信工業。自動車業界の事業環境の変化を踏まえ工場建設を延期していたが、国内の既存事業所を活用する方針に転換し売却した。また、印刷インキの世界トップメーカーのDIC(旧商号:大日本インキ化学工業)は7万5,333平方メートル。2012年に閉鎖した大阪府吹田市の工場跡地を売却した。

譲渡価額総額、54社合計で4,490億円

 譲渡価額の総額は、公表した54社合計で4,490億200万円(見込み額を含む)。個別トップは三菱地所の1,590億円。資産ポートフォリオ戦略の一環として、投下資金を回収して今後の事業資金に充当するため、保有資産のみずほ銀行前本店ビルの信託受益権をみずほフィナンシャルグループに譲渡した。次いで、ソニーの528億円。企業体質の強化に伴う保有資産の見直しの一環で、東京都港区の本社土地を連結子会社のソニー生命保険に売却した。明治ホールディングスが329億円。保有資産の見直しから川崎市にある賃貸オフィスビルの信託受益権を、国内の特別目的会社(SPC)に譲渡した。譲渡価額100億円以上は9社(前年度12社)だった。

譲渡損益、61社合計で2,131億円

 譲渡損益の総額は、公表した61社合計で2,131億7,100万円(見込み額を含む)だった。内訳は、譲渡益計上が46社(前年度51社)で合計2,185億1,100万円(前年度1,593億5,100万円)。
譲渡益トップは、三菱地所の365億円。次に、電通が198億円、明治ホールディングスが171億円、ブラザー工業が163億200万円と続く。これに対して譲渡損を公表したのは15社(前年度16社)で、譲渡損の合計は53億4,000万円(前年度113億9,300万円)だった。

業種別 最多は小売業と電気機器の各8社

 業種別社数では、小売業と電気機器が各8社で最も多かった。次いで卸売業が7社、建設業が6社、化学とサービス業が各5社と続く。業種別売却土地面積では、輸送用機器が13万2,637平方メートルでトップ、次いで、ガラス・土石製品が13万439平方メートル、電気機器が9万5,143平方メートル、建設業が9万3,745平方メートルの順だった。

 2014年度の東証1部、2部上場企業の不動産売却は、3年連続で前年度を上回った。事業見直しで工場、店舗の集約などによる遊休資産が増加傾向あることに加えて、景気の先行期待や金融緩和を背景とした地価上昇もあって不動産取引が活発化した。さらに、円安に伴う外資による不動産投資の増加やメーカーの国内回帰の動きも一部影響した。今後も円安基調と金融緩和が続く見込みのなかで、上場企業の不動産売却は増勢する可能性が高い。

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