• TSRデータインサイト

2014年3月期 単独決算ベース「銀行114行 預貸率」調査

 国内銀行114行の2014年3月期決算では、預金と貸出金の差額である預貸ギャップが前年同期より9兆9,702億円(4.6%増)増加し224兆円に拡大した。ただし、アベノミクスによる大胆な金融緩和もあって、個別では過半数の銀行で前年同期より預貸率が上昇し、変化の兆しもうかがえる。


  • 本調査は、銀行114行を対象に2014年3月期単独決算ベースの預貸率を調べた。預貸率は預金残高に対する貸出残高の比率のことで、銀行の預金の運用状況を示す経営指標の1つ。一般的に預貸率が100%を下回る状態は、貸出残高を上回って資金に余裕のあることを示す。
  • 預貸率(%)は、貸出金÷(預金+譲渡性預金)×100で算出し、「貸出金」は貸借対照表の資産の部から、また「預金」と「譲渡性預金」は、貸借対照表の負債の部から抽出した。
  • 2012年4月1日に住友信託銀行・中央三井信託銀行・中央三井アセット信託銀行の合併で発足した三井住友信託銀行は、過去データとの比較ができないため、調査対象に含まれていない。

2014年3月期の預貸率は67.90% 全体の低下傾向に歯止めがかからず

 銀行114行の2014年3月期単独決算ベースの預貸率は、67.90%(前年同期68.00%)だった。最近の半期(6カ月)推移をみると、2011年3月期が68.59%、同9月期68.54%、12年3月期68.40%、同9月期68.35%、13年3月期68.00%、同9月期67.99%と推移し、低下傾向には歯止めがかかっていない。

224兆円に拡大した預貸ギャップ

 銀行114行の2014年3月期の総貸出金残高は、474兆8,246億8,200万円(前年同期比4.1%増)だった。これに対し、総預金残高(譲渡性預金を含む)は699兆2,920億3,800万円(同4.3%増)にのぼり、貸出金の伸びを上回った。
これは、企業が収益改善の持続について依然として慎重なスタンスを崩さず、企業の現金・預金が膨らんでいることや、年金等による高齢者預金の増加、個人向け国債満期償還金の流入などで預金が増えていることによる。
このため、2014年3月期の「預貸ギャップ」(預金+譲渡性預金-貸出金)は、224兆4,673億5,600万円に達し、預金の貸出金に対する大幅超過が続いている。
最近の「預貸ギャップ」の半期推移(6カ月)をみると、2011年3月期が194兆6,804億4,100万円、同9月期が195兆3,859億8,500万円、12年3月期が201兆7,380億5,400万円、同9月期が202兆9,116億7,300万円、13年3月期が214兆4,971億1,100万円、同9月期が217兆4,268億7,500万円と年々拡大を続け、銀行資金が貸出に回っていないこと浮き彫りにした。

預貸ギャップと預貸率の推移

個別では、114行のうち60行で預貸率上昇

 114行全体の預貸率は低下を続けているが、個別では前年同期より比率が上昇したのが60行(構成比52.6%)と過半数を上回った。比率が上昇したのは、関西アーバン銀行の4.76ポイント上昇(89.50→94.26%)を筆頭にして、トマト銀行3.33ポイント上昇(79.19→82.52%)、山形銀行3.15ポイント上昇(63.56→66.71%)など。個別では預貸率が前年同期よりアップした銀行が多くなっていることから、今後の預貸率の下げ止まりも期待される。
一方、前年同期より預貸率が低下したのは54行(構成比47.3%)だった。預貸率の低下が目立ったのは、みずほ信託銀行の前年同期比23.12ポイント低下(122.70→99.58%)を筆頭に、北九州銀行8.32ポイント低下(105.27→96.95%)、富山第一銀行4.70ポイント低下(77.91→73.21%)など。

地銀と第二地銀の過半数で預貸率が上昇

 業態別の預貸率をみると、地銀(64行)が70.31%(前年同期70.48%、前年同期比0.17ポイント低下)。第二地銀(41行)は73.34%(同73.44%、同0.10ポイント低下)。大手銀行他(9行)が65.51%(同65.52%、同0.01ポイント低下)だった。
地銀(64行)は、預貸率が前年同期より上昇したのが36行(構成比56.2%)、低下が28行(同43.7%)。第二地銀(41行)は、上昇が21行(同51.2%)、低下が20行(同48.7%)と、地銀、第二地銀はともに預貸率の上昇行が過半数を占めた。一方、大手銀行他(9行)は低下が6行、上昇が3行と預貸率の低下行が上昇行を上回った。

地区別 10地区のうち6地区で預貸率が低下

 本店所在地の地区別の預貸率では、北海道(2行)が75.18%で最も高く、次いで九州(21行)が74.16%、近畿(11行)が73.52%、中部(14行)が72.94%、北陸(6行)が72.31%、関東(東京を除く、19行)が71.51%、中国(9行)が67.71%、四国(8行)が67.06%、東京(11行)が65.29%、東北(13行)が58.36%の順。
預貸率の前年同期比では、全国10地区のうち6地区で預貸率が低下した。内訳では北海道(上昇行1、低下行1)、東北(上昇行8、低下行5)、関東(上昇行9、低下行10)、東京(上昇行6、低下行5)、中部(上昇行8、低下行6)、北陸(上昇行2、低下行4)、近畿(上昇行4、低下行7)、中国(上昇行5、低下行4)、四国(上昇行5、低下行3)、九州(上昇行12、低下行9)だった。東北、東京、中部、中国、四国、九州で上昇行が低下行を上回った。


 アベノミクスによる大胆な金融緩和もあって銀行貸出は増加している。しかし、主な牽引役は大企業を中心とした合併・買収や、電力会社向け、地方自治体向け、住宅ローンなどである。文中の改行
一時に比べて中小企業向け貸出も広がりをみせているが、まだ力強さに欠け、全体の預貸率を上昇させるまでには至っていない。預貸率の上昇には、貸出増加とともに、企業・個人ともに手元流動性を確保する動きを緩和させることも必要である。このためには、本格的な景気回復を実現して、先行きを明るくすることにかかっている。

預金と貸出金の推移

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ