前回の記事「企業リスクは“止まる”と“違反する”の二層で捉える ―取引先リスク管理の新しい視点―」では、主に取引先に潜むコンプライアンスリスクについてご説明しました。今回の記事では、サプライチェーン管理におけるリスクとソリューションについてご説明いたします。

中東情勢の緊迫化と日々、変化する情報戦で地政学リスクが高まっています。企業を取り巻くリスクは、輸出規制や自然災害の頻発、サイバー攻撃など、複雑かつ多様化しています。しかし、従来のBCP(事業継続計画)の策定だけでは対応が不十分な事態が増えています。サプライチェーンも、従来の「価格」「品質」「納期」を重視した調達管理では対応できなくなってきました。

今後は、直接の取引先(Tier1)だけでなく、その上流に位置する2次取引先(Tier2)、3次取引先(Tier3)まで幅広く捉え、供給網全体を可視化することが重要です。

効率化が生んだ“脆弱性”

これまで企業は調達コストの削減、在庫圧縮、グローバル最適調達などを通じて、サプライチェーンの効率化を追求してきました。製造業では、JIT(Just In Time)による在庫最適化や、生産拠点の集約、専門性の高いサプライヤーへの依存によって競争力を高めてきた企業も少なくありません。

しかし、この効率化は同時に、サプライチェーンの構造的な脆弱性も生み出しました。特定地域や特定サプライヤーへの依存は、平時には合理的に機能する一方で、ある一点が目詰まりを起こすと、影響はサプライチェーン全体に即座に波及します。

主要サプライヤー自体に問題がなくとも、その先のTier2・Tier3で発生した障害が、生産停止や納期遅延につながるケースも増えています。

サプライチェーン管理の課題は、「見えないリスク」の存在です。

供給網の多層化・グローバル化がサプライチェーン全体の把握を難しくしていることに加え、サイバー攻撃など、リスクの種類も広範化しています。また、原材料価格の高騰や人件費上昇、為替変動などを背景に、取引先の経営状態そのものが不安定化するケースもあります。こうしたリスクや変動を完全に把握し、消し込むのは不可能でしょう。

サプライヤー情報を氷山で表現した図
サプライチェーンの可視化イメージ

このため、“止まらない”ことを前提としてきたサプライチェーンを、“止まる可能性を前提に備える”段階へ移行する必要があります。

サプライチェーン管理は「経営課題」へ

サプライチェーン管理は、調達部門単位の課題から経営レベルで取り組むべきテーマへと変化しています。従来のBCP(事業継続計画)は、自社拠点の復旧や代替手段の確保が中心でした。しかし現在は、自社単体ではなく、サプライチェーン全体が継続的に機能するかどうかが問われています。

具体的には、平時からサプライチェーンの依存関係を把握し、特定地域・特定企業への依存やリスク変化を継続的にモニタリングする視点が求められています。国内企業では、東京商工リサーチが提供するリスクスコアが活用できます。完全に把握することは出来なくても、把握しようと努めることが肝要です。加えて、代替調達先の検討や調達戦略の見直しを含め、サプライチェーン全体のレジリエンス(回復力・弾力性)を高めていく必要があります。

効率性からレジリエンスへ:サプライチェーン管理シフト
効率性からレジリエンスへのシフト図
従来の管理から可視化管理へ

サプライチェーン全体のリスクを把握、安定供給と事業継続性を強化

サプライチェーン管理の比較図

サプライチェーンリスク管理の実装

こうした取り組みの実現には、サプライヤーの財務状況や信用リスクだけでなく、所在地情報や企業情報を含め、供給網全体を継続的に把握する仕組みが不可欠となります。また、単にリスクを把握するだけではなく、リスク兆候を早期に検知し、代替調達先の検討や調達戦略の見直しなど、経営判断につなげていく視点も重要です。

サプライチェーンリスク管理の実装を支援する手段の1つが、D&B Risk Analytics - サプライヤー・インテリジェンスです。 同サービスでは、サプライヤーの信用変化や所在地情報、企業情報などを可視化し、リスク兆候を継続的にモニタリングできます

また、今後12カ月間の当該企業の倒産リスクを予測したFailure Score のようなリスク指標を活用することで、サプライヤーの倒産リスクや支払遅延リスクを定量的に把握し、継続的な分析につなげることも可能となります。

加えて、制裁リストやメディア情報とのスクリーニングなど、従来の財務情報だけでは把握しきれない非財務リスクも含め、多面的なサプライヤー分析を支援します。

サプライチェーンリスク管理は、単なる調達最適化の延長ではありません。変化の激しい環境下で、事業継続性を左右する経営そのものです。“止まるリスク”への対応は、企業の競争力とレジリエンスを左右する重要なテーマとして、今後さらにその重要性を増していくでしょう。