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「企業価値担保」の時代、ファイナンス領域の拡大に向けた取り組み ~ ゴードン・ブラザーズ日米幹部に聞く ~

 動産評価や換価、投融資を手掛けるゴードン・ブラザーズ・グループが、日本法人を設立して20年が経とうとしている。この間、日本における動産ビジネスの先駆けとしてプレゼンスを発揮してきた。
 今回、Gordon Brothers Group,LLC(アメリカ、GBG)と、日本法人である(株)ゴードン・ブラザーズ・ジャパン(TSRコード:296732150、千代田区、GBJ)の経営幹部が東京商工リサーチ(TSR)の単独インタビューに応じた。
 その中で、GBGノーマ・クンツCEOは「日本法人が企業の資産価値を十分に活かすことができるよう導くパートナーであってほしい」と述べ、日本市場でのノンバンクによるファイナンスの成長余地に言及した。国内倒産が増加を辿り、窮境企業への支援が課題に浮上するなか、どのようなソリューションを提示するのか。一問一答で聞いた。



インタビュー出席者は以下の通り。

Gordon Brothers Group,LLC

 ・(CEO)ノーマ・クンツ氏
 ・(アジア太平洋地域責任者)ティム・スチュワート氏

(株)ゴードン・ブラザーズ・ジャパン

 ・(代表取締役社長)堀内秀晃氏
 ・(キャピタル部門責任者)後田太盛氏
 ・(評価部門ディレクター)アリ・タマット氏 ※今回通訳

-GBGのグローバルにおける事業内容は

(クンツ氏)主に3つの事業を展開している。入口になる評価事業は、我々の培ってきた高い専門性をもって、動産を中心にクライアントの資産を評価している。換価事業では、評価した資産をキャッシュ化する。これによって、クライアントは運転資金や負債の返済に充てることができる。店舗閉鎖や設備売却、在庫売却など、あらゆる種類の資産の換価をサポートしている。また、評価した資産の価値に着目し、これらを担保とした融資も手掛けている。これらを一手にまとめて手掛ける唯一の企業と自負している。


ノーマ・クンツCEO(左)とスチュワート氏

ノーマ・クンツCEO(左)とスチュワート氏


-同業他社と比較した場合のゴードン・ブラザーズ・グループの優位性は

(クンツ氏)グローバルで資産に関する幅広く、深い知識を有している。また、競合他社は融資のみ、評価のみ手掛ける企業が多いなかで、我々は資産の評価から資金調達、処分という企業のビジネスライフサイクル全体に渡り、ソリューションを提供している。一気通貫で顧客に寄り添い、顧客に応じて柔軟に対応できることが我々の強みだ。

―日本政策投資銀行(DBJ)と合弁で日本法人のGBJを設立した。その後、GBJはGBGの完全子会社となった。ジョイントベンチャーとしてGBJを設立した背景と、100%出資に移行した経緯は(※1)

(スチュワート氏)日本市場への進出を検討した際、多面的な調査をした。すると、課題に直面している日本企業は、メインバンクの関与が強いことや、市場が閉鎖的であることが分かった。そのため、外資系企業として単独で日本市場に参入するのではなく、信頼できる日本のパートナーと共同出資して設立することに決めた。パートナーとして、政府系金融機関との背景を持ち、当時ABL(※2)を積極的に推進していたDBJと巡り合った。
 日本進出からほぼ20年が経ち、その間に日本の金融市場と事業再生の領域で、ゴードン・ブラザーズの認知度が着実に向上した。このため、独立してビジネスを維持・拡大していくことができると判断し、完全子会社化に至った。ただ、DBJは今も強力なパートナーであることに変わりはない。

※1 GBJは2006年6月設立。2022年12月にDBJの出資が外れた
※2 Asset Based Lending=動産・債権担保融資

-グループ全体で見たとき、現在の日本法人であるGBJの立ち位置は

(クンツ氏)ゴードン・ブラザーズ・グループは世界30カ国に展開している。グループ売上高のうち約65%は北米で、ほかは日本、オーストラリア、ニュージーランド、東南アジアのアジア太平洋、イギリス、ドイツを含む欧州、中東、アフリカで構築している。アジア太平洋はグループ全体の約20%だ。人員でみると、グループ全体のスタッフ数は2023年で250人だった。ただ、最近の買収を経て現在は600人に拡大している。今後さらに拡大していくとともに、日本のシェアも広げていくつもりだ。

―日本と他国を比較して感じることは

(クンツ氏)各国、法制度や商慣習は異なる。GBJは、企業規模や法制度・商慣習に適応し、非常にローカライズして運営されている。また、日本法人はサマリー作成やレポーティングスキルなどにおいて、テクノロジーの活用が進んでいる。クライアントとの連携も非常に上手くいっている。「コーヒートーク」という、社員同士が知識共有をする場をオンラインで設けているが、日本チームの優れた点を、海外のチームへ展開していきたいと思うほどだ。

―これからの日本法人に期待することは

(クンツ氏)評価事業で素晴らしい成果を上げている。また、海外に進出する日本企業をサポートすることにも熱心だ。そのうえで、今後はリテール・ディスポジション(卸・小売業務向け換価)やインダストリアル・ディスポジション(製造業向け換価)での価値提供を期待している。資産売却の面でも、パートナーである金融機関とともに企業が自らの資産価値を十分に活かすことができるよう、日本法人が今後も成長を続けていくことを期待している。

(スチュワート氏)日本国内でのビジネスの強化のみならず、クロスボーダーのインバウンド、アウトバウンドビジネスも重要だ。日本企業は東南アジアに拠点も持っているケースも多いため、その地域でのビジネス拡大や撤退について、サポートしていきたい。また、グループ全体でみたときに、直近で拡大しているビジネスを日本で役立てていきたい。

―どのような事業を日本で役立てるのか

(スチュワート氏)ここ数年でいうと、機械設備向けのリースファイナンス事業をアメリカで拡大している。(※3)このビジネスを日本でも展開できないかと模索している。
 もう1つは不動産サービスだ。アメリカでは企業が撤退する際に、契約書の整理や事業所の整理などをサポートしている。日本でも同じようなサービスがあるため、事業を拡大したい。

※3 最近、GBGは旧Signature Bank(アメリカ)の機械設備向けファイナンスの責任者を迎え入れている


―日本では、昨年6月に「事業性融資推進法」が成立し、企業価値担保権(※4)が規定された。来年から運用される予定だが、GBJのビジネスに影響が見込まれるか

(堀内氏)日本における企業価値担保権は、アメリカの手法を参考にしつつも、日本独自の法的枠組みが構築された非常に興味深い取り組みだ。まだ運用開始前であるため、その影響は定かではない。私自身、この制度の研究会メンバー(※5)であるため、積極的な制度利活用に向けて、信用金庫や地方銀行など、まだノウハウを持たない企業へ積極的に情報発信をしていきたい。

※4 英語名称はEnterprise Value Charge (EVC)

※5 堀内氏は、金融審議会「事業性に着目した融資実務を支える制度のあり方等に関するワーキング・グループ」の委員

―今年4月、三菱UFJ銀行の再生ファイナンス部門のフロントを統括していた後田氏がGBJに転じ、キャピタル部門の責任者に就任した。期待することは

(スチュワート氏)部門責任者として最適な人物だと考えている。人としての魅力はもちろん、日本の最大手金融機関で勤務し、築き上げた独自のネットワークを有している。こうした知見を基にクライアントと密な連携を期待している。

(後田氏)日本における当社のABLの伸びしろはかなりあると感じている。前職で再生ファイナンスに従事するなかで、金融機関が扱えないゾーンが存在すると実感した。金利が高くても金融機関がファイナンスできないゾーンについて、我々の認知度が向上していけば、自然と声がかかるようになると考えている。評価と換価、ファイナンスを一気通貫でできるユニークな企業である点をアピールしていきたい。


堀内社長(左)と後田氏

堀内社長(左)と後田氏



―雑貨販売のオーサム(株)(※6)など、GBJがファイナンスした企業の倒産が発生した

(堀内氏)残念な結果となった。この経験を今後の融資業務に生かしたい。一点申し上げると、本件企業が属していた業種に対する融資や評価などを今後制限するものではない。

(スチュワート氏)堀内の意見に完全に同意する。今回の企業は、(GBJが支援決定する前に)すでに事業継続が難しい状況にあり、我々の融資がラストチャンスという状況だった。うまくいかなかったのは残念だ。ただ、GBGのフィロソフィーは「挑戦」であり、それにはリスクは伴う。リスクは必ずしも利益になるとは限らない。失敗もあるなかで、私たちのフィロソフィーを忘れず、絶えず挑戦していきたい。

※6 オーサム(株)(TSRコード:293540152、インテリア・雑貨販売)、2023年5月破産


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年6月4日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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