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2024年度の「不適切会計」開示は67社・67件 4年連続で増加、業種別では製造業が最多

2024年度 全上場企業「不適切な会計・経理の開示企業」調査


 2024年度に「不適切な会計・経理」(以下、不適切会計)を開示した上場企業は、67社(前年度比13.5%増)、件数は67件(同6.3%増)で、4年連続で社数、件数とも前年を上回った。
 2008年度に集計を開始以降、2019年度の74社、78件をピークに、2020年度は48社、50件まで減少したが、再び緩やかながら4年連続で増勢に転じ、2024年度は社数・件数とも過去2番目の高水準だった。

 67件の内訳は、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」の35件(前年度比16.6%増)。
次いで、従業員などによる着服横領が22件(前年度同数)、子会社で不適切会計処理などの「粉飾」が10件(前年度比9.0%減)だった。
 業種別の社数は、最多が製造業の20社(同53.8%増)。以下、サービス業の17社(同13.3%増)、情報通信業の8社(同14.2%増)、建設業の7社(同133.3%増)、卸売業(同33.3%減)と小売業(同14.2%減)が各6社と続く。
 上場会社の会計監査人は、監査工程の増加などで、大手監査法人から準大手および中小規模監査事務所への交代の動きが継続しており、監査品質の向上が急務となっている。
 公認会計士・監査審査会では、会計監査人に対し、不正会計等を見抜くような適切な職業的懐疑心の発揮や事業上のリスク等を注視して重要な虚偽表示リスクを評価し対応しているかなど、監査の品質の確保・向上を求めている。監査法人の交代で不適切会計を見逃すケースも予想されるだけに、監査法人の監査機能がどこまで高まるかも注目される。

※本調査は、自社開示、金融庁・東京証券取引所などの公表資料に基づく。上場企業、有価証券報告書の提出企業を対象に、「不適切な会計・経理」で過年度決算に影響が出た企業、今後影響が出る可能性を開示した企業を集計した。
※同一企業が調査期間内に内容を異にした開示を行った場合、社数は1社、件数は2件としてカウントした。
※業種分類は、証券コード協議会の業種分類に基づく。上場の市場は、東証プライム、スタンダード、グロース、名証プレミア、メイン、ネクスト、札証、アンビシャス、福証、Q-Boardを対象にした。 



 証券取引等監視委員会は2025年2月26日、受託開発ソフトウェア業のピクセルカンパニーズ(株)(東証スタンダード)に対し、有価証券報告書等の虚偽記載等の検査結果に基づき、課徴金6億2,984万円の納付命令を勧告。金融庁はこれをうけ同年4月25日、同社に対し課徴金納付を命じた。同社の連結子会社が、実体のない前渡金計上により売上の前倒しによる損失不計上の不適正な会計処理を行い、虚偽の記載や記載すべき重要事項の記載が欠けている有価証券報告書を提出したためだ。
 このほか、国内外連結子会社などの役員や従業員による着服横領が目立った。

不適切会計開示企業 年度推移(4‐3月)

内容別 「誤り」が最多の35件

 内容別では、最多は経理や会計処理ミスなどの「誤り」で35件(構成比52.2%)。次いで、子会社・関係会社の役員、従業員の「着服横領」が22件(同32.8%)だった。
 「会社資金の私的流用」など、個人の不祥事も監査法人は厳格に監査している。「架空売上の計上」や「水増し発注」などの「粉飾」は10件(同14.9%)だった。
 証券取引等監視委員会は2025年2月26日、 Shinwa Wise Holdings(株) (東証スタンダード)が金融商品取引法の開示規制に違反したとして、2,100万円の課徴金納付命令を出すよう金融庁に勧告。金融庁は4月25日、同社に課徴金納付を命じた。

不適切会計 内容別

発生当事者別 「会社」が24社でトップ

 発生当事者別では、最多は「会社」の24社(構成比35.8%)だった。「会社」では会計処理手続きなどの誤りが目立った。次いで、「子会社・関係会社」は20社(同29.8%)で、売上原価の過少計上や架空取引など、見せかけの売上増や利益捻出のための不正経理が目立った。
 「従業員」は18社(同26.8%)で、外注費の水増し発注を行ったうえで、その一部をキックバックし私的流用するなどの着服横領が多かった。

不適切会計企業 発生当時者別

市場別 「東証プライム」が30社で最多

 市場別では、「東証プライム」が30社(構成比44.7%)で最も多かった。次いで、「東証スタンダード」が29社(同43.2%)、「東証グロース」が7社(同10.4%)と続く。
 2013年度までは新興市場が目立ったが、2015年度以降は国内外に子会社や関連会社を多く展開する旧東証1部が増加。2024年度も「東証プライム」が最多だった。

不適切会計企業 市場別

業種別 最多は製造業の20社

 業種別では、「製造業」の20社(構成比29.8%)が最も多かった。製造業は、連結子会社での国内外の子会社等による製造や販売管理の体制不備に起因する「誤り」や従業員の不適切取引などによる「着服横領」が増えた。次いで「サービス業」の17社(同25.3%)。連結子会社の不適切会計に伴う「粉飾」や雇調金の受給を巡る「誤り」などが目立った。

不適切会計企業 業種別



 2025年3月4日、証券取引等監視委員会は一般管工事の(株)アクアライン(東証グロース)に対し、投資有価証券評価損の不計上および偶発損失引当金の不計上等の不適正な会計処理を行ったとして4,206万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告した。
 また、同委員会は同年3月28日、情報提供サービス業の(株)イメージワン(東証スタンダード)に対しても、減損損失の不計上および売上の過大計上等の不適正な会計処理を行ったとして6,507万円の課徴金納付命令を発出するよう勧告を行うなど、同委員会からの勧告が相次いでいる。

 一方、上場会社の会計監査を担う大手監査法人は、監査業務にAI(人工知能)の導入を進め、業務の効率化を進める動きが本格化している。AIは監査業務を効率化するだけでなく、仕分けデータなどの不正検知にも利用され始めている。AIの活用により不適切会計の発見が進むかどうか、また未然に防げるかどうか、監査法人と上場企業の攻防も注目される。

 コロナ禍が落ち着き、企業活動は平時に戻り、2024年度は過去2番目の67社、67件の不適切会計が判明した。依然として売上、利益拡大など業績優先の意識やステークホルダーに対する情報隠蔽などを起因とする不適切会計の開示が相次いでいる。不適切会計を根絶できない背景には様々な要因が隠れているが、不適切会計が判明後の再発防止の仕組みづくりは容易ではない。
 上場企業は、改めてコンプライアンス(法令遵守)やコーポレートガバナンス(企業統治)に対する取り組みを精査、地道に継続することが求められている。

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