• TSRデータインサイト

「人材派遣業」倒産、1-3月は過去最多の29件 ~ 「円高」、「トランプ関税」でさらに増加も ~

 人手不足で人材の獲得競争が厳しさを増すなか、人材派遣会社(労働者派遣業)の倒産が急増している。
 2025年1-3月は合計29件と前年同期の約3倍に急増し、1997年以降で最多を更新した。
 29件はすべて破産で、約7割を売上不振が原因だった。また、負債1億円以上は7件で、小・零細事業者を中心にしながら徐々に中堅クラスも目立ち始めた。
 2月に東京地裁から破産開始決定を受けた(株)エルピースタッフ(TSRコード:028502019、掛川市)は、製造業や物流業向けに主に外国人スタッフを派遣していた。時流に乗って採用強化を進めると同時に、拠点を増やすなど投資にも注力した。しかし、競合激しく派遣先の開拓が進まず、業績不振で行き詰まった。
 人手不足で追い風が吹くようにみえる派遣業界の厳しい現実がある。

景気動向を受けやすい派遣業

 「派遣切り」が問題となったリーマン・ショック後の2009年(1-12月)、倒産は過去最多の95件を記録した。1-3月だけでみると規制強化の2014年に26件が発生した。
 2015年以降は落ち着き、なかでもコロナ禍の資金繰り支援に支えられた2021年は10件にとどまった。だが、コロナ禍が落ち着くと、人手不足が広がり様相が一変した。
 2025年は1月6件、2月8件、3月15件と月を追って増勢をたどり、1-3月合計は29件と過去最悪ペースをたどっている。
 2025年の倒産を原因別でみると、売上不振が20件(構成比68.9%)と約7割を占める。
 負債は、1千万円以上5千万円未満が16件(同55.1%)で、小・零細事業者が半数を超えた。一方で、1億円以上も前年同期の2件から7件に急増、中堅クラスも増えている。
 都道府県別では、最多が大阪府の8件(前年同期3件)。次いで、東京都の4件(同4件)、埼玉県の3件(同ゼロ)で、近畿圏と首都圏に集中している。

労働者派遣事業の倒産推移(1-3月)



 人材派遣業界は人材が豊富な大手に対し、中小事業者は劣勢に立たされている。また、正社員ニーズも高く、中小の人材派遣会社は有卦(うけ)に入るどころか人手不足が直撃する皮肉な事態が進行している。
 今後、円高やトランプ関税の影響が出ると、主力の製造業の需要が落ち込み、年間初の100件超も現実味を帯びてくる。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年4月30日号掲載「取材の周辺」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月の「人手不足」倒産が過去最多 「従業員退職」が前年の1.6倍増、初の年間300件超へ

2025年9月に「人手不足」が一因となった倒産は、調査を開始した2013年以降では月間最多の46件(前年同月比109.0%増)を記録した。また、2025年1-9月累計も、過去最多の285件(前年同期比31.3%増)に達し、人手不足はより深刻さを増していることがわかった。

2

  • TSRデータインサイト

ケーキや和菓子は「高値の花」に、スイーツ店が苦境 倒産は過去20年で最多ペース、競合商品も台頭

街のスイーツ店が苦境に陥っている。材料コストの上昇、酷暑、人手不足が重なり、商品値上げによる高級化も購入機会の減少につながったようだ。2025年1-9月の菓子製造小売の倒産は、過去20年で最多の37件に達した。

3

  • TSRデータインサイト

2025年1-9月「後継者難」倒産が過去2番目 332件 高齢化が加速、事業承継の支援が急務

代表の高齢化が進み、後継者が不在のため事業に行き詰まる企業が高止まりしている。2025年1-9月の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は332件(前年同期比4.5%減)で、2年ぶりに前年同期を下回った。だが、2025年は過去最多だった前年同期の348件に次ぐ、過去2番目の高水準だった。

4

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

5

  • TSRデータインサイト

2025年度上半期の「円安」倒産30件 仕入コスト上昇が卸売業を直撃

2025年度上半期(4-9月)の「円安」関連倒産は、30件(前年同期比31.8%減)だった。上半期では、2022年度以降の円安では前年度の44件に次いで、2番目の高水準になった。

TOPへ