加藤・轟木法律事務所 加藤博太郎弁護士 単独インタビュー ~ 集団訴訟や債権者破産による事実究明で被害者を支援 ~
詐欺の被害者だけが苦しい思いをすることは許されない――。
強い想いを語るのは、大型詐欺や消費者問題の事件を数多く担当し、集団訴訟の代理人として被害者を支援してきた加藤博太郎弁護士(加藤・轟木法律事務所)だ。
詐欺を追求して被害者を支援する姿はマスコミでも多く取り上げられている。詐欺事件では、被害者の代理人として相手方の破産を申し立て、多くの破産開始決定を得たことでも知られる。
東京商工リサーチは、加藤弁護士に単独インタビューした。これまでに手掛けた案件や集団訴訟に取り組む意義などを聞いた。
加藤博太郎弁護士
2007年慶応義塾大学法学部単位取得退学(飛び級のため)、2010年同法科大学院。
2014年弁護士登録。大手監査法人勤務などを経て、加藤・轟木法律事務所代表弁護士に就任。
「かぼちゃの馬車集団訴訟」、「スルガ銀行不正融資」、「熱海土石流集団訴訟」、「デンタルオフィスX歯科矯正、トラステール社債事件」、「L&A Investment・ブリッジ事件」、「ジュビリーエース事件」、「BUONO事件」、「リプラス事件」などを担当。消費者被害、投資詐欺などの救済を専門としている。
―現在の事務所の特色は
加藤・轟木法律事務所は、消費者問題や大規模紛争などを取り扱う私と、企業のスタートアップ支援から米国上場対応などを取り扱う轟木博信弁護士の事務所が合併する形で2024年7月に誕生した。
私と轟木弁護士は、学生時代に同じ憲法ゼミに所属していた同期で、「社会正義のための法律家」というモットーをともに持っている。現在は、大型の詐欺や消費者問題の事件を特に取り扱っている。被害者が多数に及ぶ大型の集団訴訟の実績を多数持つ弁護士事務所はあまり多くない。今後も被害者の支援を念頭に、積極的に集団訴訟に対応しようと思っている。
―詐欺事件を手掛けるようになった経緯は
私は28才の時に弁護士となった。弁護士になって3~4年目の頃に扱ったのが「かぼちゃの馬車集団訴訟」だった。この事件は、消費者問題や詐欺事件を担当するようになった原点だ。多くの苦しむ被害者の姿をみて憤りを感じた。以降、消費者被害や詐欺事件などの集団訴訟の相談を受けることが多くなり、ここ数年は集団訴訟の案件を担当することが増えた。担当する度に、被害者ばかりが苦しい思いをしている姿をみて、やりきれない気持ちになった。
かぼちゃの馬車以外だと、無登録の金融商品を募集し、マルチ商法により650億円を集めた投資詐欺の「ジュビリーエース事件」だ。大学を出て働き出したばかりの女性が被害者となり、自殺に至るなど胸が痛い事件だった。
他には、歯科矯正のモニター契約を結び矯正費用を払えば、モニター報酬が月々支払われるとし、「実質無料」を謳い患者を勧誘していた「デンタルオフィスX歯科矯正被害・トラステール社債事件」。デンタルオフィスXの運営を行っていたTHE GRANSHIELD(※1)やトラステール(※2)は、モニター報酬以外にも自社の社債を一般投資家に「年利20%、元本保証確定」などを謳い発行していた。だが、モニター報酬や社債の利息も支払いが停止すると患者はその後、クリニックの予約が出来なくなり治療も中断される。支払いと治療中の歯だけが残ってしまう事態となった。単に集金が目的だったポンジスキームとして、私は被害者358名の代理人として集団訴訟に臨んだ。そして、トラステールに破産を申し立て、トラステールの破産開始決定を契機に一連の首謀者の詐欺が発覚し、首謀者は詐欺罪で起訴され、有罪判決が下された。
また、ファクタリング事業名目で投資家などから約150億円を集めていた「L&A Investment(※3)・ブリッジ(※4)事件」や2021年7月に発生し、28人が犠牲となった「熱海土石流事件」、電気料金削減サービスを謳い集金していた「BUONO(※5)事件」、首謀者の一人を投資のカリスマと仕立て詐欺を行っていた「リプラス(※6)事件」なども担当した。
ジュビリーエース事件とリプラス事件の首謀者に対して勝訴判決が得られ、またTHE GRANSHIELDとトラステールほか一連の首謀者、L&A Investmentとブリッジ、BUONOに対しては集団で破産を申し立て、裁判所から破産開始決定を得ることができた。
※1 (株)THE GRANSHIELD(TSRコード:017491819)。2023年12月破産開始。
※2 トラステール(株)(TSRコード:012942588)。2023年10月破産開始。
※3 (株)L&A Investment(TSRコード:130968196)。2024年10月破産開始。
※4 合同会社ブリッジ(TSRコード:698366824)。2024年10月破産開始。
※5 BUONO(株)(TSRコード:294582657)。2024年8月破産開始。
※6 現在の商号は(株)Lugaro26(TSRコード:298113210)
加藤・轟木法律事務所
―なぜ破産を申し立てるのか
加害者の金銭の動きが追えることが理由の一つだ。集団訴訟は提訴してから勝訴するまでだけでなく、その後の金銭回収も本当に大変だ。詐欺加害者は、金銭などを集めた後、隠し財産を作ったり、海外に逃がすのが常套手段だ。そのため、加害者の破産は金銭の動きを掴むのに適している。破産手続きが開始されると、裁判所から選任された破産管財人が破産者の財産調査を行う。
取材に応じる加藤博太郎弁護士
現金から預貯金、過去に出ていった金銭の動きも調べるため、加害者の隠し財産や海外に逃がした資金なども明るみになる。そこで明るみになった加害者の財産を被害者に配分することが一番の狙いだ。
加害者自身が海外への逃亡を企てることもあるが、破産手続き中は海外への移動を制限される場合などもあるため、それを縛ることもできる。
詐欺事件は、やりとりが当事者間のみで証拠が集めにくいことに加え、加害者が単に運用の失敗などを主張し、加害者側の法人内の実態が掴みにくく、詐欺の実態がブラックボックス化し、非常に事件化が難しい。しかし、破産手続きにおける調査はそうした点も明るみにし、ブラックボックスが開かれる。そうして出てきた証拠から、事件化が可能となり、加害者の責任追及などの意味も込めて、徹底的に刑事告訴も行っている。
―集団訴訟の取り組みは
集団訴訟が一般的に難しい点は、大きく2つある。破産は詐欺事件のブラックボックスを明るみにすることは先に申したが、一つは破産を申し立てる際の予納金が高額となることだ。1,000~2,000万円以上に及ぶことはざらで、被害者がそこまでの対応を行うことは難しい。そこで当事務所では、予納金の費用などを先に立て替える。そうして被害者の方々のひとりひとりの負担を少なくした上で、声無き声を少しでも多く集め、しっかりと世に届けるという取り組みを行っている。
もう一つは被害者同士の関係性が複雑な点だ。詐欺事件はマルチ的な構造になるため、被害者のなかでも、騙した加害者と騙された被害者が出てくる。大型の事件になればなるほどその特徴は顕著に現れる。そうした対応のノウハウを持つ弁護士事務所は多くない。当事務所では、多数の案件を担当したため、そうした点に長けている。
―今後について
これまで相談に応じてきた被害者は、苦しみ抜いている方々ばかりだった。被害に遭いどうしようもなくなり、被害者が自己破産などを選択する一方で、加害者は優雅な生活ぶりをSNSに投稿することもある。こうした被害者だけが苦しむ理不尽は許されることではない。
加害者にはきちんと責任を取ってもらう。そのために破産申立や刑事告訴を今後も徹底して行い、詐欺の被害者救済の一翼を担っていきたい。
詐欺や消費者を巻き込む事件が後を絶たない。だが、社会正義で許せない事件に徹底的に挑む姿を見せることは、大きな抑止力になる。今後も加藤弁護士の動向に注目が集まる。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2025年4月25日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)