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2025年の展望=2024年を振り返って(11)

 2025年の企業倒産はどう推移するか。そのポイントは3つある。

 1つ目は、「金利上昇」が企業収益に与える影響だ。2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策の解除を決定し、7月に政策金利を0.25%に引き上げた。金融機関は2023年以降、金利上昇に動き始め、2024年には市場金利に連動した金利設定にシフトした。政策金利の引き上げを受け、9月以降、短期プライムレート(最優遇貸出金利)を0.15%引き上げた。
 日本銀行が11月29日公表した貸出約定平均金利(10月)は、国内銀行の新規貸出金利は0.887%と高水準が続く。また、短期も0.579%で、前年(0.410%)より0.169ポイント上昇した。

 低金利競争は終焉を迎え、「金利ある世界」に戻った。金利は新規借入や借換のタイミングで引き上げられやすい。このため、即座に金利が企業の資金繰りに影響を及ぼすことは考えにくいが、心理的な負担は増す。また、経営体力がぜい弱で、生産性の低い企業は、金利上昇がボディーブローのように体力消耗につながりかねない。低金利下のビジネスモデルから転換できない企業の生き残りは難しくなる。

 2つ目のポイントは、「乱高下する為替相場」だ。2022年以降、ロシアのウクライナ侵攻と重なるように円安が強まった。このため輸入に依存する原材料や資材に加え、エネルギー価格の高騰を引き起こした。急速な価格上昇に価格転嫁が追いつかず、企業に与えるインパクトは大きかった。なかでも取引上の立場が弱い中小企業は、価格転嫁が難しく物価高が倒産を押し上げる要因になった。
 2024年の年初のドル円は1ドル=142円台だったが、その後、じりじりと円安が加速し、7月には1ドル=161.94円の円安水準となった。政府、日銀の為替介入、政策金利の引き上げで日米金利差が縮小すると、9月には一時、1ドル=140.34円の円高に戻した。だが、その後もドル円は乱高下を繰り返し、年末は1ドル=150円前後で推移している。

 2025年1月、米国ではトランプ政権が発足する。海外製品への関税引き上げが喧伝されるなか、日本製品への影響も懸念される。また、円安が継続すると物価高が続き、中小企業の収益は一段と悪化する。中小企業は生産性向上と収益圧迫の終わりなき競争に巻き込まれていくことになる。

 3つ目のポイントは、「人手不足と事業承継」だ。コロナ禍から経済活動が戻り、企業では人手不足が顕著となった。社会的には賃上げに動くが、大手と中小企業の格差は拡大している。身の丈を超えた賃上げは資金繰り悪化に直結するが、人材確保や待遇改善で退職を阻止するには賃上げは避けて通れない。まさに苦渋の決断だが、そのためにも安定収益による賃上げ原資の確保という自立した原点が問われている。
 さらに経営者の高齢化が進むなか、後継者の育成や事業承継への準備が目の前の課題に立ちふさがる。高齢化と資金的・人的リソース不足は、全国に広がる深刻な問題だ。一般論だが、事業承継には3年から5年は必要といわれる。もちろん、後継者側の能力、経験で差はあるが、間に合わない場合、事業継続の断念も現実味を帯びてくる。

 2025年は「私的整理の法制化」が本格的に動き出すが、企業倒産は厳しい見方が有力だ。企業自ら自立し、将来ビジョンをしっかり地に足をつけて描くことが求められる。

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