倒産増加と審査部の真価=2024年を振り返って(5)
審査担当者は長らく、肩身の狭い思いをしてきた。リーマン・ショックの影響が収まらない2009年12月、中小企業金融円滑化法が施行された。これは窮境状態にある企業に金融機関がとどめを刺すことを戒める法律で、返済猶予の件数報告が義務化された。これ以降、企業倒産は減少をたどった。若手社員は倒産現場に遭遇することが減り、口うるさい「審査部」はともすれば厄介者扱いされた。ベテラン審査マンの定年後は補充がなく、審査体制は規模縮小、他業務との兼務となった審査部も少なくない。
審査部“冬の時代”とも言うべきだが、ゼロ金利による超金融緩和と歴史的な倒産減少の下では大きな問題は生じなかった。ところが、コロナ禍で様相が一変した。さもサイレントキラーかのように。
ある企業の審査担当者は、「回収不能が目立ってきた。だが、目利き力のあるベテラン審査担当者は引退し、与信管理の甘さに慣れた環境を変えることは難しい」と自嘲気味に吐露する。巧妙な粉飾が発覚するケースが増え、コンプライアンス違反やM&Aなどによる実質的支配者の変更も相次ぐ。与信管理の現場は、以前より難易度が上がっている。それにも拘わらず審査現場を取り巻く空気は危機感が乏しい。このギャップ解消が急がれるが、一筋縄にはいかない。
2024年は審査部の重要性が再認識された年でもあった。情報部では、今の時代に求められる審査部の姿を探ろうと「シリーズ・審査業務最前線」を始めた。大手鉄鋼商社のJFE商事(株)(TSR企業コード: 570046190)は、「取引先の分析などコンサル機能とまではいかなくても、当社の与信管理の仕組みや格付などをグループだけでなく、社外にも協力、支援していきたい」とこれまでの審査業務をさらに発展、進化させる意向を示す。
また、丸紅(株)(TSR企業コード:570197708)のグループ会社の審査担当者で構成される自主運営の「紅審会」は、2024年に発足40周年を迎えた。担当者は、「中長期のマーケット環境のなかで、この会社がどう収益を上げてきたか。今後どうなるのかというストーリーが読めなくてはいけない。決算書の外にある環境をみて、この会社はこうなっているはずであると想像することが必要」と語る。自動格付けやAIを活用した審査へのニーズが高まっているが、有力企業はそれだけに囚われず、蓄えてきた力をさらに進歩させている。
本誌の人気連載「河南虔丞のシリーズ審査業務」は、審査マンについてこう記す。「先方の役職者や担当者との関係の深さを強調しながら、いざとなったら携帯の番号も自宅がどこにあるかも知らないなんて資質に問題あり」(5月21日号掲載)。
お歳暮やお中元、年賀状などを通じた与信先の代表や担当者へのコンタクト手段の確保、ネガティブ情報に接した際の作法など、審査の現場は人間力を問われている。
倒産が増勢にある今、審査マンが切磋琢磨する環境を会社がいかに支援するか。その度量と想像力、そして実行力が問われている。