代表者の一部住所の非公開がスタート、選択するか「わからない」が半数 与信上「マイナス評価」が約2割
「商業登記、代表者の住所非公開」に関するアンケート調査
10月1日、商業登記規則等の一部が改正され、株式会社の代表取締役の住所の一部非公開を選択できるようになった。プライバシーを保護し、ビジネスの新規参入を後押しする取り組みで、企業の約3割が1年以内に非公開にする(申請済み含む)と回答した。
だが、住所を一部非公開にした企業との取引では、取引企業の約2割が与信を「マイナス」にすると回答した。改正を知らないなどの「わからない」もほぼ半数を占めた。制度が認知されない状況では、住所の一部非公開で生じるデメリットを補う情報開示がない場合、事業の拡大やビジネスの新規参入が難しくなる可能性も出ている。
東京商工リサーチ(TSR)は10月1日から8日に、代表者住所の一部非公開についてアンケート調査を実施した。すでに非公開を申請済みや1年以内に選択予定と回答した企業が26.6%に対し、「しない」との回答も25.9%あり、評価は拮抗している。また、改正を知らないや、未検討などの「わからない」の回答が47.4%を占めた。
会社法では代表者住所を登記する必要があり、登記事項証明書などに住所が記載される。この住所公開が、起業の妨げやストーカー、過剰な営業行為などにつながると危惧されていた。今回の改正では、選択すれば住所は区や市町村の行政区画まで表示され、番地等が非表示になる。
一般的な商取引では、代表者住所から資産状況、差押の有無、破産歴などを確認する。しかし、住所非公開の場合、こうした情報取得が煩雑になり、信用供与が限定されることも想定される。
アンケートでも非公開にしない理由を、2割が「取引先の与信判断の硬化」と回答。取引先が非公開の場合、与信判断を「マイナス」にする回答も約2割あった。制度の認知までに時間を要するだけに、住所非公開を検討している企業は与信面への影響を考慮する必要がありそうだ。
※ 本調査は、2024年10月1~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、5,390社から回答を得て、集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
Q1.10月1日の商業登記規則の一部改正で、株式会社は会社登記簿謄本(商業登記)の代表者住所の非公開が可能になりました。貴社は、向こう1年以内に非公開としますか?(択一回答、株式会社が対象)
◇「する」と「しない」が拮抗
代表者の住所非公開を1年以内に選択するか尋ねた。「する(した含む)」は26.6%(5,125社中、1,363社)で、「しない」は25.9%(1,330社)だった。一方、「わからない」が47.4%(2,432社)と半数近くあり、非公開選択を知らない企業も多いようだ。
規模別では、「する(した含む)」は大企業が23.4%(453社中、106社)、中小企業は26.9%(4,672社中、1,257社)と、中小企業の方が高かった。また、「わからない」は大企業が56.2%(255社)、中小企業が46.6%(2,177社)と大企業が10ポイント近く高かった。
代表者住所の非公開を向こう1年以内に「選択する」、「選択しない」業種別上位
「する(した含む)」と回答した企業の業種別(母数10社以上)は、クリーニング業や美容室など「洗濯・理容・美容・浴場業」が53.3%(15社中、8社)で最も高かった。次いで、「職業紹介・労働者派遣業」の48.5%(35社中、17社)、検量業など「運輸に附帯するサービス業」の40.6%(32社中、13社)が続く。
個人向けのサービス業だけではなく、鉄鋼業や金融関連など、幅広い業種で非公開を選択する企業が広がりそうだ。
一方、「しない」は、「業務用機械器具製造業」が41.4%(41社中、17社)で最高だった。次いで、「宿泊業」の36.8%(19社中、7社)、「繊維工業」の35.5%(45社中、16社)、「その他の教育,学習支援業」(12社中、4社)と「農業」(27社中、9社)の各33.3%など。
「しない」も業種に偏りはみられなかった。
Q2.Q1で「しない」と回答された方に伺います。理由は何ですか?(複数回答)
◇非公開に「しない」理由 「与信判断の硬化や手続き増を懸念」
代表者住所の非公開を「しない」と回答した企業に理由を尋ねた。
最多は、「非公開にできることを知らなかった」が31.3%(1,238社中、388社)だった。10月1日に商業登記規則が改正されたが、認知度が低いままのスタートとなったようだ。
次いで、「非公開手続きが煩雑と感じるため」の25.6%(318社)、「取引先の与信判断の硬化が懸念されるため」の21.8%(271社)、「行政手続きで提出書類の増加が見込まれるため」の20.8%(258社)と続く。
「しない」理由のなかには、非公開にすることで与信低下を懸念する企業が多いこともわかった。
「取引先の与信判断の硬化が懸念される」と回答した企業の産業別は、最も構成比が高かったのは、「農・林・漁・鉱業」(14社中、4社)と「金融・保険業」(同)が各28.5%。
また、「金融機関の融資支援の硬化が懸念される」は、「情報通信業」の21.3%(61社中、13社)が最も高かった。次いで、建設業の19.7%(208社中、41社)、不動産業の17.0%(41社中、7社)と、事業継続に借入金や信用取引が大きなウェイトを占める業種が目立つ。
Q3.貴社の与信先(売掛先や前払い先、貸付先など)の商業登記簿の代表者住所が非公開となった場合、与信判断に影響を与えますか?(択一回答)
◇非公開が与信判断に「マイナス」約2割
取引先の代表者住所が非公開となった場合の与信判断の変化を尋ねた。
最多は「判断に影響はない」が68.0%(5,390社中、3,668社)と約7割が変化しないと回答した。与信上必要な代表者住所を把握済みの企業も多く、すぐには影響は出ないようだ。
マイナス評価に関しては、「ややマイナス」が16.7%(905社)、「大いにマイナス」が2.9%(159社)で、「マイナス」は合計19.7%と約2割だった。一方、「決めかねている」も11.7%(634社)で、住所非公開が広がるとビジネスへの影響が小さくないことを示している。
プラスの回答は、「ややプラス」が0.3%(18社)、「大いにプラス」0.1%(6社)と少数にとどまった。
与信判断への影響について産業別
産業別で、「マイナス」の回答が高かったのは、「金融・保険業」の36.5%(63社中、23社)だった。非公開に対し、シビアな判断をしそうだ。
次いで、「卸売業」(1,154社中、311社)の26.9%、「農・林・漁・鉱業」の26.1%(42社中、11社)が続く。
さらに、細分化した業種別では、「マイナス」回答トップは、「貸金業,クレジットカード業等非預金信用機関」の50.0%(12社中、6社)、「木材・木製品製造業」の41.1%(17社中、7社)など。