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DIPファイナンスのパイオニアが目指す未来 ~ 業界再編も視野に入れた一気通貫の事業再生 ~

 2024年2月の企業倒産は712件(前年同月比23.3%増)で、23カ月連続で前年同月を上回った。コロナ禍の強力な資金繰り支援の反動に加え、今後はマイナス金利解除の影響も顕在化する。
 中小企業の経営環境が不透明さを増すなか、三井住友銀行(SMBC)で専務執行役員など主要ポストを歴任し、大企業の事業再生や金融支援を担当した沢田渉氏と、同行で事業再生ファイナンス(※1)の実行を主導した川瀬高宏氏が独立し、(株)Brighten Japan(TSR企業コード: 697379558)を立ち上げた。日本のDIPファイナンスをリードした二人を独立に導いた背景は何があったのか。
 東京商工リサーチが独占インタビューした。

※1 DIPファイナンスを中心とした再生局面にある企業向け融資の総称。私的整理手続き中のプレDIPファイナンスも含まれる。「再生ファイナンス」など呼び方は複数ある

―まずBrighten Japanという社名について

(沢田)弊社設立に際して、ミッションを「日本企業(社会)のターンアラウンドへの貢献に向けて一隅を照らす」と設定した。私自身、スタートアップの経営にも参画し、大企業取引や再生支援なども管掌してきたが、振り返ると、日本経済・社会の主役は、国内企業数の99%、従業員ベースでは70%におよぶ中堅・中小の成熟産業だ。ところが、それらのうち、少なくない企業が窮境局面にあり、現に足元で倒産件数等も増えて、今後は「有事の時代」に突入する。何らかの要因で窮境にあるものの、それらを取り除き、改善することによる再成長余地のある企業への早期の支援は、個社のみならず、究極的には、日本経済、社会全体のターンアラウンド(事業再生)に繋がるはずだ。
 弊社は、日本では一般的ではない、DIPファイナンスというプロダクツを「とば口」として、窮境早期に再生支援に参画し、金融機関調整からハンズオンの事業改善、事業再生、自走化支援まで一気通貫で手掛ける。こうした取り組みにより、最初は小さくとも、その取り組みと効果が次第に拡がっていくことを願って、「(社会の)一隅を明るく照らす」という決意を社名に込めた。

沢田渉・代表取締役社長
沢田渉・代表取締役社長

―Brighten JapanはDIPファイナンスというプロダクツ提供における新たな選択肢なのか

(沢田)我々は「再生支援のプラットフォーム」を目指している。振り返ると、指定銀行制の名残や株式持ち合いなどもあり、事業再生は1970年代まではメインバンクが主に手掛けていたと認識している。
 ただ、直接金融の拡充や、それまでは金融機関が独占していた「知見」へのアクセスの多様化、株式の持ち合い解消、金融緩和など様々な要因が絡み合って、いわゆる「メインバンク機能」が徐々に低下し、デットガバナンスも失われていったと考える。若い頃に、主に大企業の事業再生を多く経験したが、それは債権者や株主、取引先、従業員など多くのステークホルダーへの影響が計り知れず、社会的責務の大きい仕事だった。企業の実態把握や処方箋の提示から執行まで手掛け、そのために法務や会計、税務まで幅広いスキルはもとより、ステークホルダーの利害調整も行い、全体最適の着地に持っていくという難易度の高いものだ。事業再生は本来、総合力=総合芸術の世界だ。
 私自身、銀行時代にいくつもの再生案件を手掛け、川瀬も事業再生ファイナンスの実務の前線にあって、これからの時代に不可欠と考えて、事業再生子会社の立ち上げも主導した。その後、多くの案件にも取り組んだ結果、事業再生ビジネスを確立し、とりわけ、DIPファイナンスにおいては、SMBCという確固たるブランドも確立できたと自負している。
 ただ、ここ数年、取引先企業が窮境に陥った場合の銀行の対応状況は、暴論かも知れないが、(取引行が)誰もイニシアチブを取らずにお互いの様子を見ながら、「とりあえず返済は止めて、資金繰りを安定させて、コンサルファームを入れて、改善を図りつつ、方策を考えましょう」と映る。そして、スポンサーを見つけて、正常化に漕ぎつけるというパターンが一部で見受けられる。抜本的ではなく、弥縫(びほう)策にも見え、過日の事業再生を見てきた者からすると、銀行は本来の社会的責務を果たしているのか、残念な状況だ。
(川瀬)別の側面から弊社の立ち上げ趣旨を補足したい。こうした窮境局面にある企業に寄り添うことができるノウハウは、特定の組織を超えて、地域金融機関等、プレイヤー間で広く共有すべきものと思っている。自社だけに貴重な経験値やノウハウを抱える、適切な協働・連携を行わずにらみ合う、そんな金融界の論理で、結果として、窮境企業にしわ寄せが行く状況は好ましくない。
 一例を申し上げると、事業再生ファイナンスのプレイヤーはまだ少ない環境下、SMBC時代に事業再生ファイナンスの旗振り役を務めたが、「メガの船には乗りにくい」という金融機関もいた。他行からすると「自分の取引先を持っていかれるのではないか」との恐怖感があるのかもしれない。金融機関の間には、どうしてもそのような縄張り意識が働きがちであり、その意味で弊社のように色の付いていない所から、それぞれの舞台が潰されないように、且つ、再生スキルやノウハウを共有するやり方も必要なのではないかと思っている。
(沢田)有事に向けて、対応しうる人材等のリソースは圧倒的に足らないという肌感覚を持っている。川瀬が言うように、プレイヤーごとではなくてオールジャパンでスキルを共有し、役割を担いあって、連携・協働対応していかないと、これからの有事の時代は乗り越えられないのではないか。
 こうした課題認識について、多くの地域金融機関に行脚して伝え、窮境企業が増えてくる有事の時代への対応の在り方を意見交換した。趣旨に賛同する金融機関は多い。また、地域企業は、人材や投資余力、技術等のリソースに限りがある。事業存続・再生のためには、地域跨ぎでの同業者間の連携や再編等が必要になってくる先も少なからずあるはずだ。
 ただ、地域に根差して事業を運営してきた地域金融機関は取引先にそのような仕掛けはし難く、苦慮している事情も分かった。
 例えば、地元の有力サプライヤーが窮境に陥ったとき、再生に向けてとはいえ、他地域にある他メーカーの系列サプライヤーとの提携話を金融機関としては持っていけない。
 取引関係がある故に二の足を踏んでしまいがちな処方箋の実現に向け、しがらみのなさ故に役割を果たしうることは、弊社の強みの1つだろう。勘の良い地域金融機関の方は「泥を被って頂けるのですね」とポジティブに捉えて頂ける。
 繰り返しになるが、これからは地域内での解決ではなく、地域跨ぎでの業種・業界再編も同時に仕掛けていかないと、日本の企業総体での実力や事業価値は守れない。事業再生≒事業再編でもある。
 こうした野心はあるが、弊社のリソースに限りがあり、「国内産業・企業群の維持・拡充」に資する企業再生を目指す文脈で、支援対象はセレクティブにならざるを得ない。対象先は現在考えている最中だが、例えば、自動車部品やアパレル、運送、飲食、食品製造、小売、農業などを想定している。

―ノンバンクであるBrighten Japanと窮境企業との接点の持ち方は

(川瀬)東京や大阪の有力な再生弁護士が個人として弊社に協力(優先株等)して頂ける予定だ。こうした弁護士のネットワークを通じて接点を持つことが多くなるだろう。
 すでに複数の専門家から相談が寄せられている。許認可や業法の絡みがあるので現時点でファイナンスは実行できていないが、再生実務家から非常に高い期待を寄せていただいていると感じている。
 先ほどのオールジャパンの話に繋がるが、人手不足や原材料費の高騰など外部環境が苦しくなるなかで、「全体の旗振り役がいない」との声は再生実務家から根強い。これに対応することへの期待もあると感じている。

―倒産村の有力弁護士は投資リターンをそもそも追求しないのでは

(沢田)当然、リターンは必要だが、それよりも再生実務を重ねるなかで、必要と認識されている役割や期待に基づき、「on the same boat」というご趣旨で出資頂いた、と理解している。
(川瀬)また、長らく続いた金融緩和や倒産件数の減少などで再生人材が不足していることにも対応したい。士業でも抱えている問題だが、やはり金融機関は人事制度の問題もあり(人材不足が)顕著だ。
 金融機関は一般的に、定期的な人事異動があるため、腰を据えて事業再生に取り組みたくても叶わないことがある。このため、事業再生に取り組める違う業界やマーケットに移らざるを得ないケースもある。こうした状況に1つの解決策を提示出来ればと考えている。

―事業会社からの出資もあると聞く。リターンにシビアなのではないか

(沢田)第一段階として、数十億円を調達し、窮境企業へのDIPファイナンスをエッジとするデット・プロバイダーとして活動する計画だ。調達に際しては、様々なご意見を聞いた上で条件を決めている。ただ、今回ご協力いただく皆さんは必ずしもprofit-oriented(利益志向)ではなく、趣旨と志に賛同頂けた方々と理解している。なかには「沢田さんが、GP(※2)やるんでしょ?だったら任せるよ」という方もいる。
 ファンドは、資金の集め方というか、最初握りというか、コミットする相手が当初の目的とズレると苦しむことになる。
 DIPファイナンスで実績を積み上げた上で、第二段階として、セレクトした企業の再生支援に向けて、エクイティ出資し、ハンズオンでの経営改善などでのスケール、或いは、事業再編なども手掛けるファンドを組成し、入口から出口まで一気通貫で対応する再生プラットフォームに発展させたい。

※2 General Partner=無限責任組合員。ファンドの運営に責任を負う組合員のこと

―「中小企業再生ファンド」(※3)の設立も活発だ

(川瀬)地域の金融機関と組んでいく場合、保証協会の保証付き債権の問題が出てくる。当然、中小機構との連携が視野に入ってくる。ファンド形式でやるのがいいのか、(自社の)バランスシートに出来るものはバランスシートでやった方がいい気もするが、今の法律上はファンド形式にならざるを得ないだろう。

※3 ファンド運営者がGP、独立行政法人中小企業基盤整備機構(中小機構)がLP(有限責任組合員)となり、組成されるファンド。民間出資者への優先分配などが特徴

川瀬高宏氏
川瀬高宏氏

―3月15日に「企業価値担保権」の創設が閣議決定された。再生実務への影響は

(沢田)経済活動として具現化できるような仕組みにならないと定着しない。
(川瀬)正面から(法案の)主旨を捉えて、「これに基づいて出してみよう」というよりは、「どうやって出せばいいか」を考える中での手法の1つになるかもしれない。
(沢田)再生弁護士と連携した様々な手法の探求に繋がるだろう。事業再生ファイナンスと言う分野も昔はそうだった。特に、プレDIPでは、債権はスーパープライオリティではなく、資金の出し手としては、腰が引ける実態があり、それをどう工夫して克服するか、ということだ。それが実務家の腕の見せ所だが。
(川瀬)例えば、譲渡禁止特約付きの流動債権をどうDIPファイナンスの保全に使うか、というテーマがあって、呻吟(しんぎん)しつつ、自己信託という制度の活用に辿り着き、実務にビルトインした。これは一般化した。
 振り返れば、当時の銀行内では「信託法上、あり得るよね」とは言われていたが、これを使おうとはならなかった。ただ、自己信託スキームのように事例の積み上げで実務として定着したケースもある。




 近年、コンプライアンスに大きな課題を抱える事例が多く報道されている。また、過剰債務や低成長に喘ぐ中堅・中小企業への対応策、地域のダイナミズムの再興が大きな課題として浮上している。
 再生実務家を取材すると、こうした状況への打開策として「デットガバナンス」の復権を求める声は少なくない。
 SMBCの経営陣の一角を務めた沢田氏、国内のDIP市場を作り上げた川瀬氏が独立してまで実現したい事業は、日本が抱える課題解決に向けての試金石で「一隅を照らす」チャレンジとなるかもしれない。
 すでに窮境ステージごとに、多くのプレイヤーが参入し、業界は「再生バブル」の様相を呈している。そうしたなか、既存の金融プレイヤーではないメンバーの支援を得て、Brighten Japanは始動する。ステージの入口から出口までをシームレスに、統合的にカバーするプラットフォームが必要という「声なき声」が具現化されていく過程のようにもみえる。
 旧来、こうした社会的要請には金融機関などが対応していた。ただ、事業再生手法が多様化するなかで、新たな枠組みも必要だ。再生弁護士をはじめ、各所から寄せられるBrighten Japanへの出資は金額以上の重みを持っている。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2024年4月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)


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