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倒産から「再起」した社長732人 売上拡大に尽力 経営者保証、債務返済など、再起への課題も浮き彫り

~ 「過去の倒産から再起した社長」動向調査 ~


 東京商工リサーチのデータベースで、倒産から別会社で再起を果たした経営者732人を抽出し、復活の動向を追った。732人の倒産歴は、1社が647人(構成比88.43%)、複数が85人(同11.6%)だった。倒産時の負債額レンジは、「1億円以上5億円未満」が253人(同34.5%)で最多だったが、1,000億円以上の巨額な負債での倒産を経験し、再起した経営者も2人いた。
 倒産から再起した経営者が経営する企業(以下、「再起企業」)と倒産歴のない企業(一部、同一企業での再建を含む、以下、「一般企業」)の2020年と2023年の売上高比較では、再起企業は「10%増~50%増未満」が構成比25.0%(38社)と最大で、増収企業が多かった。一方、一般企業は「10%減~50%減未満」の減収が27.1%と最大で、売上高伸長率は差があった。
 しかし、最終利益率は、再起企業が2.2%に対し、一般企業は6.1%で、一般企業が再起企業を3.9ポイント上回った。
 再起企業は、売上高伸長率が大きく事業拡大への勢いが感じられるが、一般企業より業歴の短い企業が多いため、企業基盤が固まらず利益確保に試行錯誤をしている企業が多いようだ。 
 中小企業は金融機関からの借入に際し、まだ経営者保証を求められがちだ。2021年の東京商工リサーチの調査によれば、経営する企業が破産した場合、経営者の68.2%が個人破産を申請している。申請タイミングは、会社の破産と同時が90.9%で、企業と経営者の命運は一体といえる。これが代表者の再起を阻む要因にもなっている。負債1億円未満の倒産から再起した経営者は3割弱(構成比29.6%)にとどまるが、倒産全体の負債1億円未満は74.7%(2023年)を占めており、事業規模が小さく、負債規模も小さいほど再起が難しいことを示している。
 倒産経験を活かし、再起して事業を成長させた経営者も少なくない。再起を促し、起業マインドを醸成するには、事業性評価や代表者の意欲、事業プランなどへの理解と支援が欠かせない。

※本調査は、東京商工リサーチのデータベースから、倒産後に経営者が別途企業を設立した企業を抽出、分析した。現在、経営する企業の設立日が倒産発生日より3年以上前の場合は一般企業に集計した。業績は、単体決算で最新期(2023年)を2022年10月期-2023年9月期とし、「再起企業」153社、「一般企業」45万5,501社を抽出し、分析した。


倒産企業数別 2社以上は1割にとどまる

 倒産から再起を果たした経営者732人の倒産企業数(回数)は、最多が「1社」の647人(構成比88.3%)と約9割を占めた。
 一方、倒産企業数が複数の経営者は85人(同11.6%)だった。内訳は、「2社」69人(同9.4%)、「3社」12人(同1.6%)、「4社」3人(同0.4%)、「5社以上」が1人(同0.1%)だった。
 初回倒産した時の年齢区分では、最多は「40歳代」の235人(構成比32.1%)。次いで、「50歳代」の146人(同19.9%)、「30歳代」の106人(同14.4%)と続く。
 東京商工リサーチの「全国社長の年齢調査」では、2023年末の社長の平均年齢は63.76歳だった。年齢が若いほど再起しやすく、初回倒産時の年齢のボリュームゾーンは、社長の平均年齢より若い40歳代から50歳代となっている。

左:倒産企業数別 代表者数構成比 右:初回倒産時年齢区分別 代表者数構成比

倒産時の負債額別 1億円以上5億円未満が最多

 倒産時の負債額別では、最多は1億円以上5億円未満の253人(構成比34.5%)だった。
 次いで、10億円以上154人(同21.0%)、1千万円以上5千万円未満127人(同17.3%)、5億円以上10億円未満108人(同14.7%)、5千万円以上1億円未満90人(同12.2%)だった。
 2023年の全国企業倒産の負債額別は、1億円未満が全体の7割超(同74.7%)を占める。過去の倒産から再起した経営者の負債額は1億円以上が7割(同70.3%)を占め、中堅規模以上の倒産を経験した経営者が多い。
 負債額に比例して企業規模も大きく、失敗を糧に経営への経験と知識を得ているようだ。
 また、中小企業では経営者保証を求められるケースが多く、負債額の小さいレンジで再起率が低い要因になっている可能性もある。

負債額別 代表者数構成比

経営者の倒産歴「有無」別企業業績 「再起企業」は売上5億円以上が半数

 倒産から再起した経営者が経営する企業(以下、再起企業」)のうち、4期連続で売上高と最終利益が比較可能な153社の業績を分析した。
 2023年決算(2022年10月期-2023年9月期)は、売上高合計が2,183億4,900万円(前年比8.7%増)、最終利益が49億1,900万円(同5.6%減)だった。コロナ禍初年の2020年(売上高2,054億6,400万円、最終利益36億4,800万円)と比較すると、売上高は6.2%増、最終利益は34.8%増と成長をたどっている。
 「再起企業」の売上高別構成比は、「1億円以上5億円未満」が35.2%(54社)で最大だった。次いで、「10億円以上50億円未満」が24.8%(38社)、「5億円以上10億円未満」が20.9%(32社)で続く。5億円以上が半数(構成比50.9%)を占めた。
 一方、「一般企業」の売上高別構成比は、「1億円未満」が44.9%(20万4,854社)、「1億円以上5億円未満」が31.5%(14万3,809社)と続き、5億円未満が7割超(構成比76.5%)を占める。
 倒産歴のある経営者が経営する企業は、一般企業と比べ、売上規模の大きい企業が多い傾向がはっきり出ている。

左:再起企業(153社)業績動向 右:2023年決算 売上高区分別構成比

売上高伸長率 「再起企業」が「一般企業」を上回る

 2020年から2023年決算の売上高伸長率を算出した(2023年の売上ゼロは集計から除く)。
 「再起企業」の売上高伸長率は、「10%増~50%増未満」が25.0%(38社)で最大だった。次いで、「10%減~50%減未満」の21.0%(32社)と続く。
 一方、「一般企業」は、「10%減~50%減未満」が27.1%(12万3,276社)で最大。次いで、「10%増~50%増未満」の22.5%(10万2,115社)と続く。
 伸長率がマイナスでない増収企業の構成比は、「再起企業」が57.2%で、「一般企業」の51.8%を5.4ポイント上回った。
 「再起企業」は、「一般企業」より売上を伸ばした企業が多かった。過去の倒産経験を生かし、コロナ禍での厳しい環境に対応し、売上拡大に取り組んだ企業が多いようだ。

2020-2023年 売上高伸長率区分別構成比

最終利益率 「再起企業」が「一般企業」を下回る

 最終利益率の推移をみると、2023年の最終利益率は「再起企業」が2.2%、「一般企業」が6.1%で、「一般企業」が「再起企業」を3.9ポイント上回った。
 「再起企業」は、「一般企業」に比べて設立から年が浅い企業が多く、利益創出の面では試行錯誤を続けている企業が多いようだ。

再起企業・一般企業 利益率推移

最終損益 黒字企業率は「再起企業」が「一般企業」を上回る

 最終損益別では、2023年の「再起企業」の黒字企業率は73.8%だった。2020年の黒字企業率(82.3%)は下回るが、2022年の黒字企業率(71.2%)を2.6ポイント上回り、業績が回復基調にある企業が多い。
 2023年の黒字企業率を「再起企業」と「一般企業」で比較すると、「再起企業」が73.8%で、「一般企業」の75.9%を2.1ポイント下回る。しかし、コロナ禍中の2021年(3.4ポイント差)、2022年(4.8ポイント差)と比較して、黒字企業率の格差は縮まりつつある。

左:【再起企業】損益別 構成比 右:【一般企業】損益別 構成比

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