• TSRデータインサイト

「雇用調整助成金」の不正受給 累計803件(799社) 飲食業、建設業、運輸業を中心に、幅広い業種に広がる

第3回 「雇用調整助成金」不正受給企業 調査


 全国の労働局が10月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給の件数が、803件に達することがわかった。公表企業数は、2度公表された4社を含め、 799社(個人企業含む)で、不正受給金額は総額243億4,940万円となった。新型コロナウイルス感染拡大に伴う雇用維持のため、従業員への休業手当を助成する雇調金だったが、飲食業、建設業をはじめ、不正受給の業種が広がっている。
 前回調査(2023年8月31日公表分、9月発表)から2カ月で、133件が新たに公表された。10月に月次では最多の97件が公表され、時間の経過とともに不正発覚が増えている。

 799社のうち、東京商工リサーチの企業データベースに登録された586社を対象に分析した。
 産業別では、サービス業他が259社で全体の44.1%を占めた。飲食業が最多の79社だったほか、人材派遣業や美容業、旅行業、宿泊業などコロナ禍が経営を直撃した業種が多い。
 公表時点での業歴10年未満は246社(構成比41.9%)で、全体の4割を占めた。業歴が浅く、財務体質がぜい弱な新興企業が、不正に手を染めるケースが目立つ。
 政府はコロナ禍で企業の雇用維持を支えるため、雇調金の助成率と上限金額を引き上げる特例措置を実施した。緊急対応期間(2020年4月-2022年11月)と経過措置期間(2022年12月-2023年3月)に支給を決定した雇調金等は総額6兆3,507億円に及ぶ。
 一方で、迅速な支援実現のため手続きを簡素化した影響もあり、「申請誤り」や「不正」による支給決定取消は、2023年9月末で2,263件、金額は427億2,000万円に達した。各都道府県の労働局は支給申請内容の遡及調査に注力しており、支給決定取消と不正企業の公表社数は今後も増えるとみられる。

※本調査は、雇用調整助成金または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が 2020年4月1日~2023年10月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は9月25日発表。


10月の公表は月次最多の97件

 各都道府県の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2023年10月31日までに803件に達し、支給決定が取り消された助成金は総額243億4,940万円にのぼる。
 月別の公表件数は、2021年2月の初公表から1年余りは1桁台で推移したが、2022年6月(15件)から波はあるが、右肩上がりで推移している。2023年10月は複数月の支給決定取消分をまとめたためでもあるが、最多の97件が公表された。
 不正受給の内訳は、「雇調金」だけの受給が432件と半数(構成比53.7%)を超えた。また、パートやアルバイトなど雇用保険被保険者でない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」のみは127件(同15.8%)で、両方の支給を受けたのも244件(同30.3%)と3割にのぼる。

雇調金不正受給公表件数・受給金額推移

9月以降の増加で中部が近畿を上回って2番目に多い

 公表された雇調金等の不正受給803件の地区別は、最多が関東の291件(構成比36.2%)。次いで、中部が144件(同17.9%)で、関東が2倍多かった。以下、近畿139件、九州88件、中国60件、東北34件、四国28件、北陸11件、北海道8件の順。中部は8月末から31件増加し、増加数では近畿の20件増を上回った。東京・大阪・名古屋の3大都市圏が7割(同71.4%)を占めた。

 都道府県別では、東京都が96件で最多。次いで、2件差で愛知県94件、大阪府89件と僅差で続く。
 このほか、神奈川県75件、広島県41件、福岡県36件、埼玉県32件、千葉県31件、三重県25件、栃木県21件、京都府18件、宮城県17件、大分県15件の順。
 10件以上の公表は23都府県にのぼり、47都道府県の半数を占めた。20件以上は、10都府県だった。

※ 各都道府県の労働局が公表した住所に基づき集計したため、本社所在地と異なる場合がある。

業種別最多は飲食業、僅差で建設業が並ぶ

 雇調金等の不正受給を公表された799社のうち、TSR企業DBで分析可能な586社(個人企業等を除く)を対象に、産業別、業種別に分類した。
 産業別では、サービス業他が259社(構成比44.1%)で最も多く、建設業75社(同12.7%)、製造業65社(同11.0%)と続く。9月、10月の公表分では全産業で公表企業があった。

 業種別では、「飲食業」が79社(同13.4%)で最多。次いで、「建設業」が75社で迫り、人材派遣業を含む「他のサービス業」50社と、経営コンサルティング業などの「学術研究,専門・技術サービス業」47社は前回順位から入れ替わった。このほか、冠婚葬祭や美容業、旅行業などを含む「生活関連サービス業,娯楽業」が43社で、コロナ禍で打撃を受けた業種が目立つ。


左:雇調金不正受給公表企業 産業別 右:雇調金不正受給公表企業 業種別

業歴10年未満の新興企業が4割、100年以上も16社

 創業年月、もしくは法人設立年月から起算した公表月時点での“業歴”別では、最多が10年以上50年未満の252社で、全体の4割超(構成比43.0%)を占めた。
 次いで、5年以上10年未満が146社(同24.9%)、5年未満が100社(同17.0%)、50年以上100年未満が72社(同12.2%)の順。業歴100年以上の老舗企業も16社(同2.7%)あった。
 業歴10年未満は246社(同41.9%)で、4割を占めた。このうち、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降の創業または設立も32社あり、事業スタートから間を空けず不正に走った模様だ。

雇調金不正受給公表企業 業歴別


 

 コロナ禍で急激に事業環境が変化するなか、雇用維持のために雇調金に頼った企業は中小企業から上場企業まで幅広い。飲食、旅館、旅客運送業などコロナ禍が直撃した業種を中心に、雇用を維持し、従業員の収入を保証した面での寄与は大きい。
 だが、迅速な実行を実現するため、申請書類の省略など手続きの簡素化を進めた結果、過誤や不正による雇調金支給が多数生じた。厚生労働省によると、各都道府県労働局が遡って調査を行い、発覚した雇調金等の不正受給は2023年9月末で2,263件、支給決定取消金額は約427億2,000万円に達する。このうち、回収済額(延滞金等含む)は約297億5,000万円だが、不正摘発の件数と金額は今後も各労働局の調査で増えていくとみられる。
 不正受給が判明した企業のうち、支給決定取消金額が100万円以上や悪質事例と判断されるケースは社名や代表者名、受給額等が公表され、特に悪質な場合は刑事告訴もあり得る。
 また、社名等が公表された企業は、コンプライアンス(法令順守)違反企業としてレピュテーションリスクが広がることにより、信用失墜を招く可能性もある。
 さらに、受給金額に違約金と延滞金を加えた返還や、雇用関係助成金の受給が5年間制限されることから、資金繰りへの影響も無視できない。
 雇調金等の財源は企業が負担する雇用保険料で賄われる。雇用保険料率は、コロナ禍で雇調金等の支給が増大したため、2022年4月以降、支払賃金の3/1000から3.5/1000に引き上げられた。
 各企業がコロナ禍の雇用維持に耐えたなか、不正受給は企業間の公平性の観点からも許されるものではなく、これからも制度を維持するためにも厳正な対応が求められる。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年度 「賃上げ実施予定率」、過去最高の 85.6% 賃上げ率の最多は 3%で「前年を上回る賃上げ」に届かず

2024年度に賃上げ予定の企業は85.6%で、定期的な調査を開始した2016年度以降の最高を更新した。ただ、規模別の実施率では、大企業(93.1%)と中小企業(84.9%)で8.2ポイントの差がつき、賃上げを捻出する体力や収益力の差で二極化が拡大している。

2

  • TSRデータインサイト

「2024年問題」直前の軽貨物運送業 倒産と休廃業・解散の合計が3年連続で過去最多

ドライバー不足が懸念される「2024年問題」が間近に迫るなか、宅配などを担う「軽貨物運送業(貨物軽自動車運送業)」の2023年の倒産(49件)と休廃業・解散(74件)の合計が過去最多の123件に達したことがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

商業登記規則の省令改正問題、与信態度が硬化も 金融・保険業の5割超が「与信管理がしにくくなる」と回答

商業登記簿に代表者の住所が記載されなくなるかもしれない。商業登記規則の省改正令は、6月3日施行の予定で、すでにパブリックコメント受付も終了している。果たして、予定通り実施されるのか。

4

  • TSRデータインサイト

2023年度の「賃上げ」実施、過去最大の84.8% 「賃上げ率」5%超、中小企業が37.0%で大企業を上回る

2023年度の賃上げは、企業の84.8%が実施(予定含む)した。これは官製春闘で賃上げ実施率が8割を超えていたコロナ禍前の水準を超え、2016年度以降の8年間では最大となった。コロナ禍で実質賃金が目減りするなか、物価上昇に見舞われて高まった賃上げ機運が賃上げ実施率を押し上げたようだ。

5

  • TSRデータインサイト

企業の 7割で「原材料価格」、「人件費」などコスト上昇 人件費増加分は「転嫁できていない」がほぼ半数

物価高や円安、エネルギー価格の高止まりなど、アフターコロナ局面でも厳しい経営環境が続いている。今年1月の本業に係るコストが前年1月より「増加した」と回答した企業は、73.6%と7割を超えた。

TOPへ