【破綻の構図】ガイア ~ 金策に奔走した業界大手 ~
最盛期にはパチンコホール大手の一角として知られた(株)ガイア(TSR企業コード:320363295、東京都中央区)。ガイアとグループ6社が10月30日、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。隆盛を極めたガイアになにが起きていたのか。
この数年、様々な情報が錯そうし続けたガイアに東京商工リサーチ(TSR)が迫った。
ガイアの看板
ガイアは1984年に設立され、同年に千葉市内で第1号店をオープンした。その後、全国各地に出店し、2007年ごろには約200店まで拡大。2002年5月期に1,222億325万円だった売上高(単体)は、2006年5月期には5,853億542万円まで拡大した。ファンからは、パチンコホール御三家として「マルハン」「ダイナム」「ガイア」と呼ばれるまでになっていた。
しかし、短期間の急拡大には落とし穴も多い。不採算店舗のスクラップアンドビルドを余儀なくされ、ピークの2006年5月期を境に売上高は下降線をたどり、2010年5月期は3,832億8,300万円と4,000億円を割り込んだ。
代表逮捕と所得隠しと怪文書
減収が続いてもガイアは最終黒字を維持していた。こうした中、2011年6月にガイアの代表取締役(当時)が覚せい剤使用の疑いで逮捕された。2012年7月にはガイアやグループ会社の所得隠しに関する報道もあり、コンプライアンスやガバナンス体制に注目が集まった。
2016年5月期の売上高は2,991億5,900万円まで落ち込んだが、それでもガイアは最終黒字を維持していた。こうしたなか2018年7月、ガイアの粉飾決算を指摘する文書が取引金融機関などに流された。
ガイアは関係先へ遊技台を高額で売却することにより不適切な利益を得ているという趣旨の「循環取引」を糾弾する内容だ。これを受け、ガイアは会計監査人に文書の精査を要請。これに対して会計監査人(監査法人)は、「利益の水増しによる粉飾決算の事実はないと判断。過年度決算について訂正を行う必要はなく、監査の結論にも変更はない」と回答した。
この回答で表面上、騒動は落ち着きをみせた。ただ、文書を手にした関係者の一部は「これほど資料の揃った怪文書は過去に見たことがない」と漏らすなど、取引金融機関や取引先はガイアへの疑心暗鬼を強めた。TSRは監査法人がガイアの取締役会に提出した「怪文書」に対する意見書を入手したが、「当該結論はガイアの個別財務諸表における会計処理に対する意見であり、連結財務諸表を作成した場合、グループ会社の範囲等も検討したうえで会計処理を別途検討する必要がある」と記されていた。
本社に「ガサ」
コロナ禍直前の2019年12月下旬。ガイアに疑惑が再び降りかかる。東京地検特捜部が「大手パチンコチェーンへ捜索に入った」という報道が出たのだ。IR汚職事件で逮捕された国会議員に関連した捜索との観測が流れ、本社前には多くの報道陣が集まった。TSRの取材に対して、ガイアの担当者は「捜査には協力しており、店舗運営や取引先への支払いなどは契約通りに履行している」と回答した。確実にガイアに取材する頻度が増えていた。
こうしたなかでコロナ禍がガイアを襲った。店舗運営に大きな影響が出て、資金繰りは急激に悪化した。
複数の関係者によると、2020年6月末の決済資金が不足し、借入金とリースの返済をストップした。当時、与信取引のある金融機関は約80行で残高は約1,030億円に上った。また、未払割賦代金などリース会社向けの債務は約15社に対して約190億円。金融関係の債務は1,200億円を超えていた。
翌7月にバンクミーティングを開き、正式に9月末までのリスケを要請した。店舗売却などで資金繰りを改善させると金融機関などへ説明したが、コロナ禍の影響が長期化し、複数回に渡ってリスケ期限を延長するなど綱渡りの資金繰りが続いた。
ガイア本社に集まる報道陣(2019年12月)
「再生計画」を策定
コロナ禍の影響が徐々に薄れてもリスケ期限の延長を繰り返すガイアに、金融機関は態度を硬化させていった。2022年初めには「5号機」の完全撤去に伴う資金負担が増加し、同年3月末にはリスケ期限が到来する。ガイアの年度末の決済に注目が集まった。こうしたなかでガイアは3月に「再生計画」を取引金融機関に公表した。メインバンクとフィナンシャルスポンサーからの合計100億円の新規調達のほか、固定費削減や店舗売却、グループ再編などが柱だ。
金融機関に配られた「再生計画書」によると、グループ全社の簡易連結による計画業績は、2022年5月期が売上高1,867億2,600万円、最終利益16億1,900万円の赤字、2023年5月期が売上高2,108億4,200万円、最終利益13億6,700万円の黒字と記載されている。また、簡易連結による実態純資産は、2024年5月期に債務超過からプラスに転じるとしている。
借入金については、2023年3月から半年毎に固定額の5億円に加えて余剰となったキャッシュの一部を返済(キャッシュスイープ)する旨を計画書に明記した。利息は従前の約定に定める利払日に支払うとし、グループの簡易連結ベースの融資負債残高は、2022年5月期で1,020億400万円、2027年5月期には434億4,200万円と大幅に削減するとした。
計画には再生計画外での対象債権の弁済を行わず、特定の対象債権者に対する新規追加の担保または補償を提供しない旨の誓約事項がガイア側に付されている。また、財産、業況、経営等の状況に生じた重大な変更について適時対象債権者に報告することも定めている。
露呈する多忙な資金繰り
再生計画の策定で、TSRに寄せられるガイアへの問い合わせは、いったん落ち着いた。コロナ禍で大幅に落ち込んでいた人流の回復が好感され、2022年11月のスマートスロット(スマスロ)の導入による稼働率上昇も期待された。しかし、2023年5月末に異変が生じる。
資金調達のカギを握っていたガイアの代表取締役と親族が所有する都内の不動産に「条件付共有者全員持分全部移転仮登記」が5月30日付で登記されたのだ。不動産登記簿の乙区には原因として「令和5年5月29日代物弁済」、「金銭消費貸借の債務不履行」と記載され、権利者はインドネシアを住所とする外国人とみられる個人だった。
また、ガイアが保有する茨城県内の不動産にも同日、金銭消費貸借で債権額米貨金1,500万ドル(担保限度額25億円)、利息年15%の抵当権が債務者をガイアとして設定された。抵当権者は件のインドネシアを住所とする個人だ。資金確保に奔走する姿が伺える状況だ。
さらにグループ会社が6月に新築した倉庫建物に6月30日、ガイアを債務者、クラウドファンディングを手掛ける企業を根抵当権者とした極度額30億円の根抵当権が設定された。取引している金融機関以外からの資金調達を伺わせる。
8月には都内の企業がメガガイア東大宮(Ⅰ・Ⅱ)の権利義務を承継することも判明した。店舗売却の動きも続いていた。
次々と迫る手形期日
資金繰りに注目が集まるなか、ガイアは2023年5月期決算をTSRに公表した。単体売上高は1,895億4,291万円(前期比8.1%増)と増収を確保したが、グループ向け貸付金の一部に貸倒引当金を計上したことが響き、最終利益は65億7,538万円の赤字と4期連続で水面下に沈んだ。ただ、この時すでにガイアの与信は日々の資金繰り把握を努めるべきレベルにまで悪化していた。TSRは、再生計画で定めた固定額5億円の返済を含めて、ガイアの9月末の決済に注目した。
9月29日、ガイアは金融機関に対して「予定していた資金調達を実行することができなかった」として、定期弁済と約定利息の支払いが難しい旨を通知した。これまで何とか閉じ込めていた信用不安が一気に噴き出した。
そして10月2日、手形決済が不調に終わり、翌3日にガイアは対象債権者へその事実を通知した。
不渡り情報は遊技台メーカーにも広がり、TSRにも多くの問い合わせが寄せられた。
1回目の不渡りから6カ月以内に2回目の不渡りを出すと銀行取引停止処分を受け、事実上倒産することになる。
調査を進めると、10月中旬以降の手形決済日は16日、19日、25日、31日が確認された。決済額は合計45億円程度に及ぶ。ガイアは「資金調達を進めて対応する」としたが、ギリギリの資金繰りが続いた。
一方、遊技台メーカーの一部は、ガイアへ11月納品予定だった新台を他社への販売に変更を検討するなどの対応に追われた。ガイアの資金繰りは、業界全体にも波及した。
そして民事再生へ
ガイアは店舗売却の契約締結を急ぎ、それにより得た手付金などを基に10月の手形を決済していた。しかし、遊技台メーカーからの信用は低下し、最新台の取得が難しい状況に陥った。業界では自力再建は困難との見方が大勢となっていた。10月31日の手形決済の前日の30日、ガイアはグループ6社とともに民事再生法の適用を申請した。手形の不渡り前からガイア側による資金繰りについての説明が乏しく、金融機関が不信感を強めていた矢先だった。
直前の10月27日には資本金を16億2,175万円に減少することが官報公告されていたが、この意味を熟考する銀行マンもいる。
ガイアほか6社の申請代理人には、著名な弁護士が並んだ。4月26日に東京地裁に民事再生法の適用を申請したユニゾホールディングス(株)(TSR企業コード:293391149、東京都港区)の申請代理人とほぼ同じ顔ぶれだ。
ガイアは、民事再生申請と同日、スポンサー支援に関する基本合意書を締結している。相手先は、ノンバンクのJトラスト(株)(TSR企業コード:570303931、渋谷区)で、同時に申請したグループ6社のほか、関連2社を含めた再建支援で基本合意した。開示資料によると、Jトラストが極度額50億円、取引金融機関が極度額38億円とするDIPファイナンス契約が骨子だ。
民事再生の申請で、ガイアグループの困窮の背景は透明性が担保された中で明らかになることになる。「怪文書」が指摘した決算処理も含めて、全容の解明が期待される。
2023年は9月までにパチンコホールの倒産は25件に達し、過去10年で最多だった2022年に次ぐ高水準で推移している。人気のスマスロも遊技台の価格高騰やシステムへの投資が資金負担を重くし、資金力の弱いパチンコホールの淘汰を加速させている。
ガイアは、コロナ禍直後に多くの金融機関から支援を受けて事業を継続した。再建に向けて伴走できるほどの信頼関係を築けていたのか、コロナ支援の意義も問われかねない。
御三家の一角だったガイアの倒産劇は、パチンホールが大淘汰時代に突入したことを示していると同時に、事業者と金融機関の関係性の在り方も投げかけている。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年11月1日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)