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2023年10月  “インボイス制度“が開始予定  法人の92.6%が登録完了、 「免税事業者と取引しない」が8.3%

~ 第3回「インボイス制度に関するアンケート調査」 ~


 2023年10月、インボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まる予定だ。インボイス制度の登録申請を終えたと回答した法人は92.6%に達した。だが、法人の約3割(28.2%)が8月初旬までにインボイス受領の準備が「完了していない」ことが、東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査(8月1~9日)でわかった。
 インボイス制度が始まった場合、免税事業者との取引は「これまで通り」は5割強にとどまり、免税事業者とは「取引しない」と回答した企業は8.3%で、前回調査(2022年12月、10.2%)から1.9ポイント減少した。しかし、「取引価格を引き下げる」と回答した企業は3.4%(同2.7%)と0.7ポイント上昇し、「取引しない」を含め1割強の企業が免税事業者との取引にネガティブな意向を示した。ただ、「検討中」も3割強(32.7%)あり、制度開始が迫るなか、取引方針を決めかねる企業がまだ多いことがわかった。


 国税庁の広報などでインボイス制度の認知度は広がり、「知らない」と回答した法人は0.6%だった。インボイス制度登録を「申請した」と回答した法人は92.6%で、2023年10月以降に申請予定まで含めると登録意向を示す法人は98.0%が見込まれる。
 国税庁が公表するインボイス制度の登録件数は、法人と個人事業主を合わせて7月末で342万件に達した。ただ、月間登録はピークを越え、登録取下げ等もあるのか登録ペースは鈍化している。
 インボイス制度開始まで残り1カ月と迫っている。まだ、登録しない企業や免税事業者との取引に方針が決まらない企業も多い。免税事業者には経過措置が新たに設定されたが、現在の登録状況では開始時に混乱が生じる可能性も出てきた。

※ 本調査は、2023年8月1日~9日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,896社を集計・分析した。
※ 第1回調査は、2022年8月20日公表(アンケート期間:8月1日~9日)第2回は、2022年12月14日公表(期間:12月1日~8日)。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人を含む)を中小企業と定義した。今回の調査から個人事業主を除いた。



Q1. 2023年10月に導入される「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」についてご存じですか?(択一回答) 

インボイス制度を「知らない」、わずか0.6%
 インボイス制度を「知らない」と回答した企業は0.6%(5,896社中、37社)に大幅に低下した。前回調査の1.7%からさらに減少した。
 「よく知っている」は31.9%(1,883社)、「大体知っている」56.2%(3,317社)、「少し知っている」11.1%(659社)を合わせた「知っている」は99.3%(前回調査98.2%)に上昇した。
 規模別では、「知らない」は大企業が0.8%(746社中、6社)、中小企業が0.6%(5,150社中、31社)で、規模別で大きな差異はなかった。


Q1. 2023年10月に導入される「インボイス制度(適格請求書等保存方式)」について

Q2.Q1で「よく知っている」、「大体知っている」、「少し知っている」と回答された方に伺います。適格請求書発行事業者の登録申請はしましたか?(択一回答)

「申請済」が92.6%
 法人のインボイス制度の登録状況をたずねた。すでに「申請した」は92.6%(5,545社中、5,135社)と9割超に達した。また、「2023年9月末までにする予定」は4.1%(228社)、「2023年10月以降にする予定」は1.2%(72社)で、これらを含め登録意向を示す企業は98.0%(5,435社)にのぼる。
 一方、「(申請を)しておらず、方針を決めていない」が0.9%(51社)、「しておらず、する予定はない」は1.0%(59社)にとどまった。
 規模別では、「申請した」は大企業が95.7%(642社中、615社)、中小企業が92.1%(4,903社中、4,520社)と大企業が3.6ポイント高かった。

Q2.適格請求書発行事業者の登録申請はしましたか?
 

Q3.Q1で「よく知っている」、「大体知っている」、「少し知っている」と回答された方(免税事業者は除く)に伺います。インボイス受領の準備は完了していますか?回答時点の状況を回答ください(択一回答)

「準備が完了していない」が約3割
 免税事業者を除き、インボイス制度を理解している法人に、インボイス受領の準備を尋ねた。「完了している」は71.7%(5,429社中、3,897社)で、7割超がすでに準備を終えたと回答した。一方で、「完了していない」は28.2%(1,532社)だった。制度開始まで1カ月余りとなったが、まだ準備できていない(していない)企業は約3割あり、対応は二分化している。
 規模別では、「完了している」は大企業が 68.8%(642社中、442社)、中小企業が72.1%(4,787社中、3,455社)で、中小企業の準備が先行している。また、「完了していない」は大企業が31.1%(200社)、中小企業が27.8%(1,332社)だった。

Q3.インボイス受領の準備は完了していますか?回答時点の状況を回答ください

Q4. Q1で「よく知っている」、「大体知っている」、「少し知っている」と回答された方(免税事業者は除く)に伺います。インボイス制度導入後、免税事業者との取引はどうする方針ですか?(択一回答)

「免税事業者とは取引しない」「取引価格を引き下げる」が1割強
 インボイス制度の開始後の取引方針をたずねた。インボイス制度に登録しない免税事業者との取引について、「これまで通り」は55.4%(5,390社中、2,989社)で、前回調査(40.3%)から15.1ポイント上昇した。一方、「免税事業者とは取引しない」は8.3%(451社、前回調査10.2%)、「取引価格を引き下げる」は3.4%(184社、同2.7%)で、取引打ち切りや取引価格の引き下げを求める企業が合計11.7%(635社、同12.9%)と1割強を占めた。こうした動きが強まると、制度開始時に免税事業者への影響が出る可能性もある。
 また、「検討中」は32.7%(1,766社、同46.7%)で、前回調査から14.0ポイント減少したが、まだ3割強が態度を決めかねている。
 規模別では、「これまで通り」は大企業が63.9%(617社中、396社、前回調査41.0%)、中小企業が54.3%(4,771社中、2,593社、同40.2%)で、中小企業が9.6ポイント低かった。「免税事業者とは取引しない」は大企業が5.1%(32社、前回調査5.8%)、中小企業が8.7%(419社、同10.9%)だった。
 「取引価格を引き下げる」は、大企業が0.4%(3社、同1.6%)に対し、中小企業は3.7%(181社、同2.8%)で、前回調査から大企業は低下、中小企業は上昇と対象的な違いが出た。
 「検討中」は大企業が30.3%(188社、同51.5%)、中小企業が33.0%(1,578社、同46.0%)で、前回調査から低下した。ただ、それぞれ3割強が方針を決めておらず、難しい選択を迫られているようだ。

上:Q4.インボイス制度導入後、免税事業者との取引はどうする方針ですか 下:インボイス制度登録件数 月次推移

Q4で「取引しない」、「取引価格を引き下げる」と回答した業種別上位15業種(母数20以上)

「飲食店」が26.0%でトップ
 インボイス制度の開始後、免税事業者との取引について、「免税事業者とは取引しない」「取引価格を引き下げる」と回答した企業の業種別(上位15業種、母数20以上を対象)を分析した。
 最も構成比が高かったのは、「飲食店」の26.0%(23社中、6社)だった。飲食店は、店舗や業態により軽減税率と標準税率の複数税率を扱う。仕入先が免税事業者の場合、経過措置があるものの、「飲食店」の税負担が高まる可能性がある。「飲食店」は小規模事業者が多いだけに、負担増を避ける意向が強いようだ。
 次いで、ソフトウェア開発などの「情報サービス業」が22.2%(292社中、65社)。「情報サービス業」は、客先に常勤するなど技術力のあるフリーランスとの取引も多く、他の業種と比べて取引の見直しを進めているとみられる。
 「廃棄物処理業」20.0%(50社中、10社)、商社など「各種商品卸売業」17.9%(39社中、7社)、「自動車整備業」17.2%(29社中、5社)、大工工事など「職別工事業」16.0%(174社中、28社)、「電子部品・デバイス・電子回路製造業」16.0%(56社中、9社)、リース業など「物品賃貸業」15.8%(63社中、10社)、「印刷・同関連業」15.7%(76社中、12社)、「職業紹介・労働者派遣業」15.3%(39社中、6社)など、純利益率が平均より低い業種が上位に多かった。

「飲食店」が26.0%でトップ



 国税庁によると、7月末のインボイス登録の事業者は342万社に達し、課税事業者の大半は登録を完了したとみられる。ただ、その一方で、免税事業者から課税事業者への移行は遅れており、免税事業者では取引の打ち切りや、取引価格の引き下げを求められるケースも懸念される。
 制度が開始すると、登録番号の確認や入力、記載要件が不備の適格請求書、課税事業者と免税事業者への対応に混乱が生じる可能性もあるほか、認識不足から独占禁止法や下請法上の問題が発生する事態も想定される。
 これからインボイス制度を登録する事業者は、書面提出の場合、登録通知の送付が10月以降になるとみられる。制度開始前に登録通知を受領する意向の事業者は、提出から登録通知まで約1カ月必要な「e-Tax」を利用する必要がある。
 インボイス制度登録は任意で、免税事業者を選択する事業者は基本的に小・零細規模のため、煩雑な作業などの事務負担も大きい。政府や国税庁は消費税を相殺できる経過措置だけでなく、丁寧な支援を継続し、取引先も小・零細事業者への配慮ある対応が求められる。
 インボイス制度開始を10月に控えるが、準備不足や態度を決めかねる事業者も少なくない。徴税が小・零細企業、フリーランスの廃業を加速させないように慎重な制度運用が求められる。

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