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この1年で遊園地の8割弱が値上げ 料金変動制は14%の施設で導入~主な遊園地・レジャー施設の「価格改定・値上げ」調査~

 梅雨明けも間近となり、いよいよ夏の本格レジャーシーズンを迎える。コロナ禍での移動制限が解消した国内旅行客だけでなく、入国審査の緩和により、訪日観光客の移動も盛んになり、観光客を迎える全国の観光地では期待が高まっている。
 一方、各地のレジャー施設は、施設運営に伴う人件費や電気代などの光熱費に加え、仕入れの際のコストアップなどで、サービスの値上げ実施が相次いでいる。各地の主な遊園地、レジャー施設107施設の入場料やプレー料金は、2022年6月末に比べ、約6割の62施設(構成比57.9%)で値上げしたことがわかった。
 そのうち、遊園地は21施設のうち、8割弱の16施設(同76.1%)が値上げを実施した。人件費や電気代などの上昇が続き、値上げは今後も広がる可能性が高く、ファミリー層を中心に家計へさらに影響しそうだ。
 東京商工リサーチ(TSR)は、国内の主な遊園地、レジャー施設107施設を対象に、入場料やプレー料の値上げについて調査した。主要107施設のうち、直近1年間(2022年7月以降)に値上げや価格改定(見込みを含む)を公表したのは62施設(構成比57.9%)で、約6割にのぼった。
 また、土日祝日や夏休み期間など、日や期間などの需要動向に合わせて料金が変動するダイナミックプライシングを導入するのは15施設(同14.0%)だった。大規模で来場者も多い施設では、料金値上げだけでなく来場者の分散化が期待される変動制の導入も加速している。

※ 本調査は、国内の主な遊園地、テーマパーク、動物園、水族館など主要107施設を対象に、2022年7月以降で値上げを表明した施設を集計した。本調査の実施は今回が初めて。




【業態別の値上げ】遊園地で7割超、一方、動物園は4割にとどまる

 値上げを実施した62施設の内訳は、遊園地が16施設(構成比25.8%)、水族館が15施設(同24.1%)、動物園・サファリパークが13施設(同20.9%)と続く。
 一方、業態別での値上げ施設の構成比は、トップが遊園地の76.1%。次いで、水族館65.2%、公園・アスレチック61.5%、テーマパーク52.6%までが半数を超え、動物園・サファリパークは41.9%と半数以下だった。
 遊園地や水族館は、施設やアトラクションの稼働・維持に電気が欠かせず、電気代の値上げは収益悪化に直結する。コストカットも限界に近づくと、値上げが避けられなくなる。公園・アスレチックは、もともと入場料が他の業態より安く、数十円や百円程度の値上げが散見された。





【業態別の値上げ率】「公園・アスレチック」がトップ

 業態別の値上げ率は、最高が「公園・アスレチック」の17.7%アップだった。公園や屋外アスレチックをメインに展開する施設は、入場料が数百円から1,000円台が中心で、値上げ前の平均入場料は1,243.7円と他の4業態と比較して最も低い。そのため値上げ幅が大きくなった。

 次いで、「遊園地」が14.6%アップで続く。遊園地は、値上げ前の平均入場料が3,478.1円と5業態のなかで2番目に高かったが、昨年から上昇が続く電気代、人件費が経営に負担となり、値上げ率は大きくなった。「水族館」は13.0%アップだったが、水道代や水温・水質の維持等への対応などで電気代の負担が重く、コスト吸収には値上げが避けられなかったようだ。
 最下位は「テーマパーク」の11.3%アップだった。もともと値上げ前の平均入場料が5,831.4円と最も高く、1施設当たりの値上げ幅は最も小さく抑えられた。しかし、栃木県の江戸ワンダーランド日光江戸村は大人(1日)を4,800円から5,800円に、東京ディズニーリゾート(TDR、千葉県)は今年10月から繁忙シーズンの最高値が9,400円から1万900円に1,500円アップするなど、1,000円を超える価格改定が複数見られた。





【変動料金の導入】1割超で導入、半数以上が「関東」の施設

 シーズンや土日祝日など、繁忙期に合わせて入場料にダイナミックプライシングを導入する施設は、107施設のうち、15施設を数える。
 導入する施設は、東京ディズニーリゾートや富士急ハイランド(山梨県)、サンリオピューロランド(東京都)、サンシャイン水族館(同)など、国内有数のテーマパーク、遊園地が中心で、都心近くに集中する。15施設のうち、8施設(構成比53.3%)が関東圏で、5施設が東京都内だった。
 インバウンドの本格的な増加で、今後は地方の施設でも外国人観光客の増加が予想される。変動料金の導入は、先行施設の様子をうかがいながら、地方の施設でも導入する可能性が高い。






 国内の主な遊園地・レジャー施設の半数以上が、2022年夏から値上げに踏み切っている。特に、遊園地は8割弱(構成比76.1%)の施設が値上げしている。光熱費や人件費の上昇、物品仕入れのコスト増など、施設運営へのコストアップはコロナ禍の行動制限の解除後、日ごとに強まっている。

 コロナ禍での一時休業や時短営業による稼働低下から、テーマパーク、遊園地では、人員削減を余儀なくされた。だが、コロナ前の稼働環境に戻すためには、安全確保のためにも人員拡充が避けられず、新規採用へのコストが負担になっている。
 また、都心にある遊園地、テーマパークなどでは、ダイナミックプライシングを導入し、変動料金で集客分散を図る動きが広がりつつある。まだ、全体の1割強(同14.0%)にとどまるが、地方観光の訪日客が増加すると地方の施設でも変動料金制の波が拡大しそうだ。
 TDRでは10月1日、入場料の価格を改定する。この改定で繁忙シーズンの最高値が大人1万900円と1万円を超える。繁忙シーズンに保護者2名、中学生と小学生以下の子供の計4名で入場した場合、9月まで3万2,200円だが、10月から3万6,400円と4,200円アップする。
 実質賃金が2023年5月まで14カ月連続で前年同月を下回り、様々な物価高が家計に押し寄せている。それでもコロナ禍で我慢を強いられた子供たちが、遊園地、テーマパーク等でみせる笑顔は何事にも代えがたい。親だけでなく、遊園地、レジャー施設もコストアップと価格転嫁の板挟みが続きそうだ。
 

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