• TSRデータインサイト

花粉症の鼻水、くしゃみで「効率低下」 約3割の企業が業務に「悪影響」と回答

~ 「企業の花粉症影響」アンケート調査 ~


 花粉の飛散シーズンには日本人の3人に1人以上が悩まされる「花粉症」。鼻水、くしゃみなどで集中力が削がれ、業務の効率低下など悪影響を受けている企業が、全体の約3割に達することが東京商工リサーチ(TSR)のアンケート調査でわかった。政府は、10年後に花粉発生源のスギを約2割減少させ、飛散防止剤の開発促進や、企業には花粉飛散量が多い日に柔軟な働き方の推進を求める対策を打ち出した。
 だが、効果をみるには時間が必要で、しばらくは国民病ともいえる「花粉症」の飛散に悩まされる日々が続く。


 6月1日から8日にインターネットによる企業アンケートを実施した。業務に「花粉症が悪影響を与えている」と回答した企業は全体の約3割(構成比28.0%)に達した。花粉症が影響を「大いに与えている」は3.9%、「少し与えている」は24.0%だった。また、影響(複数回答)は、「従業員の作業効率の低下」が91.0%、「医療機関受診による遅刻などの増加」も21.1%あった。
 一方、影響を「全く与えていない」は26.4%、「あまり与えていない」は45.4%で、71.9%の企業が花粉症の影響が少なく、企業の影響は二極化している。


 「悪影響あり」と回答した業種は、「宿泊業」45.0%、「自動車整備業」44.0%、「社会保険・社会福祉・介護事業」43.4%などで、「悪影響なし」は「金融商品取引業,商品先物取引業」の100%だった。対面型サービス業ほど花粉症の影響が深刻なことを示している。
 政府は、花粉症対策として約30年後に花粉発生量の半減を目指す。だが、スギ伐採増は容易でなく、国土保全や地球温暖化対策なども複雑に絡み合い、スギ材の需要拡大にも暗い影を落とす。
 当面、花粉症への抜本的な対策は難しく、花粉飛散量が多い日はコロナ禍で浸透した「テレワーク・在宅勤務」でしのぐ企業が増えそうだ。

※ 本調査は、2023年6月1日~8日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,735社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(個人企業等を含む)を中小企業と定義した。
※ 「花粉症」に関するアンケートは今回が初めて。



Q1.花粉症について、政府は実態把握や対策に向けた検討を始めました。貴社の業務に花粉症は悪影響を与えていますか?(択一回答)

(花粉症が悪影響を)「大いに与えている」が約4%
 「大いに与えている」は3.9%(228社)、「少し与えている」は24.0%(1,381社)で悪影響があるとの回答は28.0%(1,609社)だった。一方、「あまり与えていない」は45.4%(2,609社)、「全く与えていない」も26.4%(1,517社)あり、合計71.9%が影響は軽微と回答した。
 規模別では、「大いに与えている」が大企業2.6%(693社中、18社)、中小企業4.1%(5,042社中、210社)。「少し与えている」が大企業20.6%(143社)、中小企業24.5%(1,238社)で、中小企業の方が悪影響の比率が上回った。大企業は医療機関への受診費用の補助、在宅勤務の推奨など、コロナ禍で学んだ対策を生かしているとみられる。

(花粉症が悪影響を)「大いに与えている」が約4%

Q2.Q1で「大いに与えている」「少し与えている」と回答された方に伺います。どのような影響がありますか?(複数回答)

 最も多かったのは、「従業員の作業効率の低下」が91.0%(1,565社中、1,425社)で9割を超えた。止まらない鼻水、我慢できない目の痒みなどで集中力が続かず、生産性や作業効率の低下は経営課題となっている。
 また、「医療機関受診を理由とした遅刻・早退・休暇の増加」が21.1%(331社)で、花粉の飛散量が多い日に従業員の受診が増える悪影響が出ている。
 一方、「空調機器の導入・メンテナンス費用の増加」は8.8%(139社)で、空気清浄機などの導入は進まず、その分、メンテナンス負担は軽いようだ。

どのような影響がありますか

悪影響は宿泊業など対面型サービス業が上位

 Q1で「業務に悪影響あり」と回答した業種別(母数10社以上)を分析した。トップは、ホテルなど「宿泊業」の45.0%(20社中、9社)で、次いで「自動車整備業」が44.0%(25社中、11社)、訪問介護などの「社会保険・社会福祉・介護事業」が43.4%(23社中、10社)、「医療業」が42.3%(26社中、11社)で続く。
 一方、「悪影響なし」は、「金融商品取引業,商品先物取引業」が100%(11社中、11社)、「広告業」が97.2%(36社中、35社)、「飲料・たばこ・飼料製造業」の90.3%(31社中、28社)、家具・装備品製造業が88.4%(26社中、23社)の順。
 政府の「花粉症に関する関係閣僚会議決定」の資料では、花粉症の有病率(日本耳鼻咽喉科免疫アレルギー感染症学会)は2019年で42.5%にのぼる。影響が大きいと回答した「宿泊業」や「自動車整備業」などは対面型サービス業で、コロナ禍の直撃を受けた業種と重なる。
 たかが花粉だが、コロナ禍と同じように在宅勤務が難しく、花粉に晒される業種への悪影響は、はた目から見る以上に深刻な影響が蓄積されている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

債権譲渡・動産譲渡登記の設定は「危ない会社」か?

東京商工リサーチ(TSR)には、「取引先に債権譲渡(または動産譲渡)登記が設定された。どう判断すればいいか」という問合せが増えている。債権譲渡・動産譲渡が設定された企業の業績はどう変わったか。国内最大級のTSRデータベースを活用して分析、検証した。

2

  • TSRデータインサイト

代表者が高齢の企業ほど財務内容が悪化 黒字企業率は40代78.7%、70代72.7%

代表者が高齢になるほど業績は悪化する傾向が強いことがわかった。黒字企業率は40歳未満が78.2%、40歳代は78.7%に対し、70歳代は72.7%、80歳以上は68.8%と下がってくる。代表者が高齢になるほど業績が伸び悩む傾向が表れ、早期の事業承継への取り組みが重要になる。

3

  • TSRデータインサイト

企業のカスハラ対策に遅れ、未対策が7割超 「カスハラ被害」で従業員の「休職・退職」 13.5%の企業で発生

近年、不当な要求など迷惑行為のカスタマーハラスメント(カスハラ)が社会問題化している。東京商工リサーチが8月上旬に実施した企業向けアンケート調査で、「カスハラ」を受けたことがある企業が約2割(19.1%)あることがわかった。「宿泊業」、「飲食店」が上位に並んだ。

4

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。

5

  • TSRデータインサイト

もしトランプ氏就任なら、業績予想は「マイナス」? 米国大統領選は、「為替」と「地政学リスク」に注目

2024年11月、米国大統領選挙が行われる。 東京商工リサーチは2024年8月、もしトランプ氏が米国大統領になったらどのような影響があるか企業向けアンケート調査を実施した。

TOPへ