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私的整理の普及を通じて、あらゆるフェーズの中小企業を支えたい ~ コロナ支援策の立案に携わった横田直忠弁護士 単独インタビュー ~

 新型コロナの感染症法上の位置づけが「2類相当」から「5類」に移行し、3年余りに渡ったコロナ禍から次のステップへの動きが急速に進んでいる。この間、多くの企業は人流抑制やサプライチェーンの混乱による「売上の崖」に直面し、資金繰りにも大きな影響を受けた。
 政府や自治体、金融機関の資金繰り支援で企業倒産は抑制されたが、その反動で「過剰債務」の問題も浮き彫りになった。激動の3年間の裏側で、何が議論され、事業再生・債務整理を巡る環境はどのよう変化したのか。
 東京商工リサーチ(TSR)は、中小企業庁事業環境部金融課に弁護士として初めて出向し、政策立案に携わった横田直忠氏(阿部・井窪・片山法律事務所)に単独インタビューした。事業再生に携わる経緯やコロナ禍で矢継ぎ早に策定された中小企業向け支援策の立案背景などを聞いた。




―事業再生に携わる経緯は

 司法試験は基礎7科目のほかに1科目を選択して受験するのだが、倒産法(事業再生)ではなく知財法を選択した。2018年1月に今の事務所に入所したが、倒産法に限ることなく、顧問業務やM&A、特許、著作権など幅広く経験を積んだ。こうしたなかで、私の事務所のパートナーである加藤(寛史)弁護士が受任した事業再生に携わった。比較的規模の大きな水産加工会社で、当初は私的整理を検討したが、民事再生を申請した。会社の代表者や従業員の方と多くの時間をかけて事業継続に取り組んだが、スポンサーと最終合意に至らず、牽連(けんれん)破産(※1)となった。
 当時、弁護士1年目だったが加工工場の従業員へ解雇通知を渡す役割を担うことになった。車で1時間ほど湿地帯を進むと、何もないところにポツンと工場がある。工場の横に畳張りの集会場があって、従業員の方に集まっていただいて解雇通知を渡していった。その際、「妻と子どもは明日からどう生きていけばいいんですか」「これからどこで働けばいいんですか」と泣きながら意見を求められた。ただ、その時に何も言うことが出来ず、つらく非常に悔しい思いをした。
 この体験から破産のない世の中を作りたい、従業員の負担が少ない私的整理を深めていきたい、と思うようになった。

※1 民事再生がとん挫し、裁判所の職権で破産手続へ移行すること

―2020年1月に中小企業庁へ出向した

 中小企業庁事業環境部金融課(※2)で公募があり応募した。もともと中小企業再生支援協議会(※3)(当時、以下協議会)や政府系金融機関、信用保証協会を所管する部署であり、法的な問題も生じるので弁護士が必要になったようだ。これまで金融課では弁護士の出向を受けていなかったが、選考の結果、私が初めて入ることになった。数人の応募者がいたとのことだが、特に私的整理による事業再生案件を多く経験してきたことが理由で選ばれたと聞いている。
 上記の経験を踏まえ入庁したため、2020年1月から最初の2カ月は、私的整理による円滑な廃業支援政策を検討していたが、すぐにコロナ禍に突入し、「コロナ倒産」を回避するというのが政府の方針となった。廃業支援の検討は止まり、私は企業からの問い合わせ対応にあたった。当時、日本政策金融公庫がコロナ対応の貸付をいち早く拡充したが、窓口がパンクしていた。問い合わせを受けるなかで、この状況へのお叱りの声も多く頂戴した。
 こうした状況下で、企業の資金繰りの維持を支援するための方策をあらゆる面から検討することが緊急の課題となった。出向前に協議会を活用した事業再生に携わっていたため、再生班から声がかかり、資金繰り支援の在り方の検討・立案を担当することになった。
 コロナ禍を乗り越えるための運転資金が枯渇しないように政府としてできることを模索した。その結果、協議会で、金融機関に返済猶予を要請して資金繰り計画の策定をサポートする枠組みとして「新型コロナ特例リスケジュール支援」(以下、特例リスケ)を考えた。庁内で急ピッチで検討されたのち、関係各所とのすり合わせとなったのだが、異論も少なくなかった。金融機関からすると、条件変更(リスケ)契約を締結した上にニューマネーの供給(※4)は難しい側面もある。さらに、協議会からも批判があった。再生を支援してきた組織が資金繰り計画をサポートすることに違和感があったようだ。
 最前線で支援を行う協議会に電話をかけ、「勉強させてください」と頭を下げ、いただいたご指摘を内規に落とし込み、2020年4月にスタートすることができた。コロナ禍の未曾有の事態のなかでも、地域を支えたいという高い志を持つ協議会の方々に強く感銘を受けた。

※2 円滑な資金供給や信用保険の事務統括などを担っている
※3 中小企業再生支援協議会。産業競争力強化法に基づき、経済産業大臣の認定により設置された機関。全国47都道府県に1カ所ずつ設置されている。2022年4月に経営改善支援センターと統合し、中小企業活性化協議会へ名称を変更した
※4 最終的な立て付けは「積極的に新規融資を含めた金融機関調整・合意形成を支援」となった

―結果、2020年度協議会への相談対応件数は5,580件と過去最多を記録した

 協議会という公的機関に中小企業が駆け込める状況を本当に実現できた。公的機関との繋がりを持つことができれば、法的整理に至る前に手を差し伸べやすい。協議会が見守ることが可能な環境ができたのは、日本経済としては意味があると思う。


インタビューに応じる横田弁護士
インタビューに応じる横田弁護士

―延命型支援が企業の負債を肥大化させたとの批判もある

 「中小企業活性化パッケージ」(以下、パッケージ)(※5)に繋がる話だ。コロナの影響度合い、会社の窮境度に応じて、中小企業の収益力改善、事業再生、再チャレンジを地域全体で推進していく必要がある。
 パッケージの重要な要素の1つに、「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」(以下、本ガイドライン)(※6)がある。特例リスケで相談件数が大幅に増えたので、協議会だけでなく、地域が一体となって支援する必要がでてきたことも念頭に検討が急ピッチで進められ、策定された。
 コロナ禍前の2018~19年にかけて事業再生研究機構「中小企業等の健全な経営に関するガイドライン研究会」で議論され、再生型私的整理手続への意識が広く醸成されていた。このため、「新しいガイドライン」へのニーズは強く、こうした想いを持つ方の力を借りて、策定の推進力にならないかと考えた。本ガイドラインは、結果的に全国銀行協会が事務局となり、実現することになった。

※5 2022年3月4日に経済産業省、金融庁、財務省の連名で公表。「コロナ資金繰り支援の継続」と「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的支援」が柱
※6 中小企業と金融機関の関係を平時と有事に分けて、基本的な考え方を明示。さらに、私的整理手続きを再生型と廃業型の2類型に整理している。取りまとめの事務局は全国銀行協会

―「廃業型私的整理手続」が明記されたことを評価する声が多い

 冒頭で述べた経験があったため、円滑な廃業支援の政策立案には強い想いがあった。ただ、廃業の打ち出し方は難しい。今でこそ新しい資本主義実現会議のなかで、廃業の文脈が事務局の資料に入っている(※7)が、当時は「中小企業の淘汰促進」と受け取る向きも多かった。
 私的整理は、金融機関との間での協議のみ秘密裏に行う手続であるため、取引先を含めて地域経済に与える影響が少ないことがメリットだ。「円滑な廃業」を行う廃業型私的整理手続ができることによって、破産により突然従業員が解雇される、といった事態を避けることができる。
 なぜ「円滑な廃業」が地域経済にとって必要なのか、冒頭の経験を踏まえ、丁寧に説明し、コンセンサスを得た。

※7 例えば、新しい資本主義実現会議(第17回)の事務局資料では「GX・DXなどを進めるための企業参入・退出の円滑化」と記載されている

―TSRの調査では代表者の平均年齢が上がっている(※8)。高齢での再就業、再創業は厳しい

 活性化パッケージで記載のある、「再チャレンジ」は、再創業や再就業を連想されるが、「再スタート」のための支援策であると説明している。経営者の引退、いわゆるハッピーリタイアも含めている。
 自己破産の回避を含めた円滑な廃業の仕組みが整備されたことで、日本全体としては、早期に経営改善に向けた決断ができる企業が増える。それにより経済社会が活性化するので、地域を中長期的に見たときに経済政策であると言える。

※8 2022年の社長の平均年齢は、調査を開始した2009年以降で最高の63.02歳(前年62.77歳)

―本ガイドラインの第三者支援専門家が東京都と大阪に集中(※9)しているとの声がある

 第三者支援専門家の補佐や協議会の調査報告書の作成を地元の弁護士が担当するケースも増えている。時間の経過とともに専門家リストへの掲載要件を満たす方が増えるだろう。

※9 2022年9月20日時点の第三者支援専門家リストによると、総数169人のうち、東京が91人、大阪が21人で、宮城や埼玉など15県はゼロ

―本ガイドライン解説本の出版が近いと聞く

 「中小企業事業再生等のガイドラインのすべて」のタイトルで商事法務から今夏に刊行予定だ。執筆メンバーは、「中小企業の事業再生等に関する研究会」の委員が中心だ。私も編集兼執筆者として参加している。事例紹介も入る予定だ。

―本ガイドラインの普及に向けた動きが活発な一方で、法的整理ではない枠組みの拡充として、私的整理の法制化が検討されている

 中小企業の事業再生において、金融機関調整の場面で一部の反対で法的整理になるケースは少ない。負債規模が大きく、海外の金融債権者になっている場合は別として、法制化されても活用されることはあまり多くないのではないか。むしろ、中小企業が発展していくためには、地域金融機関との信頼関係が重要であることから、協議会や本ガイドラインが選択されるケースが増えていくのではないかと考える。
 これまで培ってきた私的整理に関する知識を活かし、どのフェーズにおける中小企業に対しても、適切なサポートをできるよう日々取り組んでいきたい。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年6月2日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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