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藤田観光・伊勢社長 単独インタビュー(後編)

~ホテル各社の宿泊料金「今後も上昇、20%アップの可能性も」~


―今冬以降、大手を中心にホテル各社の宿泊料金が上がっている

 まだ、これから上がると思う。ホテルの価格は前提として需要と供給に応じて価格が決定される。今後は、需要増加により10%、さらに20%程度上がっていく可能性もあるのではないか。ただ、一概に価格を上げるわけではなく、付加価値を提供していくことも必要だとも考えている。当社で言うと例えば、ホテル椿山荘東京は、2020年に気象条件が整わないと見られない“雲海”を東京にいながら観賞できる庭園演出「東京雲海」を開始した。この効果もあって2019年と比べると2022年の時点ですでに平均客室単価は、約20%近く上昇している。

―中国からのインバウンドが戻ってきたら、値上げの幅は広がるのか

 今までは稼働を優先して、追加料金をいただかずにお部屋のアップグレードをしていた状況だった。これをグレードが高いお部屋は、しっかり適正価格で販売していこうという流れになっている。
 ホテル椿山荘東京に関して言うと、スイートルームもいくつかの価格帯はあるが、10~15万円程の価格でもご利用いただけるお客様は結構いらっしゃる。

―ホテル料金が上がると、国内の利用者にはどのような影響が出てくるか

 2017年の頃、出張時にホテルに泊まれず深夜も営業しているサウナの休憩所で一夜を過ごすということがあった。当時は、需要が週末に集中する国内の観光需要により、ウィークデーを埋めるためにインバウンドを集客してきた背景がある。インバウンドのお客様が急増した関係で、平日に泊まるビジネスマンが泊まれない状況となった。一部ではそのような現象が再び始まっていると考えている。

―需要が再び急速に高まっている

 総じて、高い値段でも宿泊されるお客様が増えてきているように感じる。韓国の人が増えていることもあり、新宿のワシントンホテルは連日高稼働を維持している。あとはアメリカの物価高の影響も大きい。
 普段、外国でファストフードを2000円程度で食べている人たちが日本へ来た時に「えっ、同じものを500円~800円程度で食べられるの?だったら、この予算で高級なものを食べてみよう」と考える。これと同義で、ニューヨークのラグジュアリーホテルだと、最低でも1泊5万円、当たり前に10万円、15万円かかる。だが日本に来ると、「なんでこんなところに3万円で泊まれるの?」となる。円をドル換算した時、アメリカの人にとってはもっと安く見える。だから、日本の円安と海外の物価高は、ダブルでお得に感じる。

―観光庁の新たな観光立国推進基本計画では、訪日観光客の誘致目標を「人数に依らない」「量より質」と明言した

 今回は「人数に依存しない指標を中心に、質の向上を強調する」政策になっているので、今のところ当社も目指すところは同じではないかと考える。ただ、宿泊代や移動手段の値段だけではなく、「観る」とか「楽しむ」という面でのコト消費が増えていかないと物を買うだけのモノ消費では仕方がないだろう。例えばコンサートを見る、美術館に行く、野球などのスポーツ観戦のような体験に重きをおいた消費が増えないといけない。
 ところが、日本はそういった施設は夜間営業していなかったり、日曜日が休みだったりと訪問機会を逸してしまっている側面も。ルーブル美術館は夜遅くまでやっていて、食事をした後に訪れることも可能だ。2019年のコロナ前には「ナイトタイムエコノミー」の推進が議論された。当社でも特に歌舞伎町が近いホテルグレイスリー新宿、新宿ワシントンホテルでナイトタイムエコノミーを推進している。コロナ禍により止まってしまったが、今後は民間だけでなく、地方公共団体と一緒にやる必要があると思っている。

―民泊事業者も減少した。コロナ前に民泊を利用していた若い訪日観光客の受け皿は

 安価に泊まれるというホテルが注目されるのではないか。当社では、インバウンドのミレニアル世代をターゲットにしたブランドに「ホテルタビノス」がある。1泊8000円ぐらいの価格帯。内装は日本を代表する文化であるMANGA(まんが)を採用し、客室にバスルームはなく、シャワーブースだけというコンパクトなホテルだ。日本人は、一度ホテルに入ると部屋の中にいるイメージがあるが、海外の人はロビーに出てきて、ほかのお客様と歓談したり、「ここに行ってみるといいよ」と情報交換をしたりする。そんなミレニアル世代をターゲットにしている。
 ところが1号店である浜松町が2019年8月にオープンしたものの、コロナ禍に入ってしまった。コロナ禍中には浅草、京都の2件をオープンした。こちらも厳しい状況だったが、訪日客の個人旅行が解禁された2022年10月以降は、稼働が上がってきている。今後、このミレニアル世代の訪日客の増加には大変期待がもてる。このブランドの3店が成功すれば、今後、規模の小さな地域でも展開できるのではないかと考えている。


今後の展望を語る伊勢社長

今後の展望を語る伊勢社長

―今年7月に箱根ホテル小涌園をオープンする。どのような層がターゲットなのか

 年齢が比較的若いファミリー層が主たるターゲット。ホテルには3世代が泊まれるような少し大きめの部屋も用意している。
 箱根と言えば「食」と「温泉」。加えて「レジャー」も強化している。箱根小涌園ユネッサンでは温浴施設以外にもキャンプ場など体験型施設も充実させた。水着で楽しめるユネッサンと男女別の入浴エリアの元湯 森の湯も滞在中は入り放題であるため、おじいちゃん、おばあちゃんはホテルの温泉大浴場、もしくは元湯 森の湯の温泉でゆっくりしている間、お父さんお母さんや子どもたちはユネッサンを利用して楽しむなどの使い方も可能だ。夏休み前の7月12日オープンだが、特にオープン日には既に多くのご予約をいただいている。

―体験型はコロナ前からトレンドだった

 コロナ禍前は、モノ消費からコト消費の需要が増えていた状態だった。当社は、2018年にグランピング施設「藤乃煌 富士御殿場」をオープンした。コロナ禍になってアウトドアの人気も高まり、1泊2食で1人2万~3万円の高価格帯であるが好調に推移した。経済は、コロナ禍前の状況に戻りつつあるが、アウトドアやグランピングは変わらず支持されるだろう。箱根小涌園ユネッサンの敷地内にもキャンプ場がある。温泉施設である元湯 森の湯がセットで利用できるため、アウトドアを楽しみ、大きなお風呂でくつろぐことができる。キャンプビギナーを中心に裾野を広げたい。

7月にオープンする箱根ホテル小涌園(藤田観光提供)

7月にオープンする箱根ホテル小涌園(藤田観光提供)

―宿泊業は飲食業と並び人手不足だ

 業界全体にいえることだが、正直、厳しい状態。対策として自動チェックイン機の導入なども進めている。施設によっては自動チェックイン機をすでに導入している中でコロナ禍になり、人との接触を減らすニーズも高まった。お客様にとっても利便性が向上すると考えている。効率化を進めながらも、人でしかできないことには、人の配置も厚くしたい。このほか、バックオフィスでも併行してDXを進めることで、効率化を図り、人員のバランスもとりたいと考えている。

―業界内では高待遇の方だが、採用活動は難しいのか

 2022年4月に新人事制度を導入した。それにともない新卒の初任給も引き上げた。新人事制度は、2022年は移行期間であり、この4月、初めて新たな等級制度が賃金と結びつく。年功序列の制度から、業務の難易度と遂行度に対し評価が決まる制度になり、成果を出した人が処遇の面でも報われ、給与にメリハリがでる。そのほか、総合職だけでなく専門的な職種で技術などを追及できるコースを作った。専門職コースがあるのは、同業他社ではあまり聞かないシステムかもしれない。

―新しいホテル出店の予定は

 箱根ホテル小涌園の開業後はコロナ禍でなかなか投資が薄かったところへの再投資はあるが、大きな物を建てるような計画は、今お話しできるものはない。しかし、当然ながら新規出店に関しては検討していきたいと思う。




 約3年におよぶコロナ禍で、宿泊業は大きな痛手を負った。装置型産業の宿泊業は、施設の維持管理や雇用など、「ハコ」と「人」への投資が大きい。いつ回復するか先の見えない環境で、藤田観光は伝統ある太閤園の売却や人員削減に手を付けた。
 伊勢社長は当時を振り返り、「一番忸怩たる思い」と悔しさを滲ませる。
 そして、春以降は行動制限の緩和による需要の急増への対応を迫られている。藤田観光は、今年7月の箱根ホテル小涌園を開業し、リゾート事業においての事業成長を見込んでいる。また、コロナ禍で生まれた新たなトレンドを進化させるなど、変化する宿泊・レジャー施設を取り巻く環境に対応した取り組みを行っている。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年4月6日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

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