• TSRデータインサイト

コロナ禍でネクタイは“シーズンレス”、2023年は明るい色がトレンド

 かつてネクタイはスーツ姿のサラリーマンの代名詞だった。だが、クールビズに追い打ちをかけるように、コロナ禍に見舞われて季節感のない“シーズンレス”となった。
 「正月休みに訪れた百貨店で春色に彩られたネクタイ売り場を見て、季節の移ろいを感じたものだ」
 業界関係者は往時を懐かしむが、在宅勤務の緩和でようやくネクタイ需要が盛り返している。


脱ネクタイと季節感の喪失

 2023年春夏物は明るめの色――。
 “景気が良くなると明るい色が流行る”と言われるが、時代を先取るとされるネクタイの色から景気回復の兆しが見えてきた。
 2005年に始まったクールビズは17年目を迎えた。東京ネクタイ協同組合によると、2019年のネクタイ生産量(輸入品を含む)は1733万本で、2006年の4086万本と比べると半分にも満たない。
 ネクタイは、夏以外の3シーズンの着用が自然になった。2018年のスポーツ庁によるスニーカー通勤の推奨などもあり、サラリーマンのノーネクタイが当たり前となった。今ではネクタイは、重要な商談や行事、ハイセンスな人の個性を引き出すアイテムとしての役割が強まっている。
 コロナ禍では在宅勤務、リモートワークでさらに脱ネクタイが進んだ。同時にこれまで守られてきた季節感まで喪失した。

 ネクタイと言えば素材はシルクで、手触りと光沢に優れ、通年素材の代表格だ。そこに春は麻や綿使いの明るめの色、秋冬はウールやカシミヤ使いの暗めの色が投入され、素材や色味で季節感を演出してきた。
 しかし、コロナ禍で素材や色などに季節感のないネクタイが店頭に並び、シーズンレスのアイテムになった。
 そんな中での売れ筋は、イタリアンビンテージやペーズリーの大柄ネクタイ、多色使いが特徴のプリントタイだ。服装も個性的になり、デザインを強調したネクタイを身に付ける傾向が強まった。
 一方、フォーマルスタイルをカジュアルにみせたニットタイは、服装そのものがカジュアル化したことで存在感が薄れた。

ネクタイ

‌年々、目新しい色柄が提案される

好調なスーツ販売、ネクタイ需要も復調

 ネクタイ業界は、コロナ禍で百貨店や専門店が業績不振に陥り、苦戦が続いた。大手紳士服チェーンの業績も、コロナ禍でオケージョン需要(入学式や冠婚葬祭など)が減り、2021年前半までスーツ需要が減少した。
 だが通勤が戻り、自粛気味だったオケージョンも再開され、2021年秋からスーツ需要が回復してきた。紳士服チェーン最大手の青山商事(株)(TSR企業コード:720045720、広島県)の2023年3月期第2四半期(2022年4-9月)は、ビジネスウェア事業の既存店売上高が前年同期比22.6%増、メンズスーツ販売着数は同12.3%増の42万4,000着と回復している。スーツが売れるにつれて、ネクタイ需要も年間通して上向きつつある。

強まる消費者のこだわり

 東京ネクタイ協同組合の和田匡生理事長は、「ネクタイはサイズがない分、ギフトには最適なアイテム」と利点を強調する。バブル時代、銀座の高級クラブのママ達は常連客へのお中元・お歳暮にネクタイを贈っていた。ノーサイズで、シルクならではの上質感のあるネクタイは、固定客への贈り物として重宝されていた。
 最近の消費者の購買志向にも変化が出てきた。百貨店向けのネクタイ企画卸の担当者は、「最安価格帯の5,000円がここ1~2年、売れなくなった。すでに複数のロープライス企画は休止している」と漏らす。週5日出勤体制が崩れ、むしろ出番の限られたネクタイへのこだわりは強まっている。素材やデザインを重視し、高額のネクタイが選ばれるようになったのは大きな変化だ。

ニュアンスカラーが来季の流行色に

 スーツの二極化が進んでいる。機能性を重視した合繊素材のカジュアルスタイルが売れ筋になっている。一方、シフト出勤でスーツの枚数が減り、上質な物を求める傾向も強く、オーダースーツ需要が盛り上がっている。
 シャツはボタンダウンなど、ノーネクタイにも対応した物が主流だが、タブカラー(左右の襟をつなぐ紐が施されたもの)やピンホールタイプ(襟先の中間辺りに穴を開けてピンを通したもの)など、ネクタイ着用が自然な物も売れ始めている。

ネクタイ

‌アイネックスのショールーム

 ネクタイは多品種商品で、トレンドをつかむのが難しい。ネクタイ企画卸を手掛ける(株)アイネックス(TSR企業コード:580002098、石川県)によると、「2023年春夏企画は主張が強い大柄から小紋柄の引き合いが増えている。色は春を意識したニュアンスカラー(複数の色味が混ざった曖昧な中間色)が多く、流行色を予感させる」という。
 ネクタイ業界は年明けから4月にかけ、成人式や入学式、入社式といったフレッシャーズ商戦を迎え、書き入れ時となる。すでに2023年の春夏は12月から店頭に投入され、ライトブルーやミントグリーンなどの春らしいネクタイが店舗に並んでいる。
 2023年は、ベテランの社員から新入社員、新しい門出を迎えた新入学生などの胸元を明るい色のネクタイで彩れるか。景気を占うネクタイの売れ行きが気になる。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年12月22日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

M&A総研の関わりに注目集まる資金流出トラブル ~ アドバイザリー契約と直前の解約 ~

東京商工リサーチは、M&Aトラブルの当事者であるトミス建設、マイスHD、両者の株式譲渡契約前にアドバイザリー契約を解約したM&A総合研究所(TSRコード: 697709230、千代田区)を取材した。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施

 「早期希望・退職」をこの3年間実施せず、この先1年以内の実施も検討していない企業は98.5%だった。人手不足が深刻化するなか、上場企業の「早期・希望退職」募集が増えているが、中小企業では社員活用の方法を探っているようだ。

3

  • TSRデータインサイト

【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」

(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。

4

  • TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。

5

  • TSRデータインサイト

2023年度「赤字法人率」 過去最小の64.7% 最小は佐賀県が60.9%、四国はワースト5位に3県入る

国税庁が4月に公表した「国税庁統計法人税表」によると、2023年度の赤字法人(欠損法人)は193万650社だった。普通法人(298万2,191社)の赤字法人率は64.73%で、年度集計に変更された2007年度以降では、2022年度の64.84%を下回り、最小を更新した。

TOPへ