• TSRデータインサイト

【特別寄稿】新たな時代へ向けた自己変革力(第1回/全3回)~中小企業・小規模事業者の動向~

 「2022年版中小企業白書」(以下、「白書」という。)では、新型コロナウイルス感染症(以下、「感染症」)や原油・原材料価格の高騰等の外部環境が中小企業・小規模事業者に与えた影響を分析し、その実態を明らかにするとともに、企業が自己変革を進めるために重要な取組や、経営者の参考になるデータや事例を豊富に掲載している。本稿では、白書の概要について3回に分けて紹介する。第1回目の今回は、感染症の流行や原油・原材料価格の高騰等が中小企業・小規模事業者に与えた影響について取り上げる。

◆中小企業・小規模事業者の業況

 2021年の中小企業・小規模事業者の経営環境は、緩やかな回復傾向にあるものの、引き続き厳しい状況にある。
 中小企業の業況について、業種別に業況判断DIを確認すると、建設業を除き、2020年第2四半期はリーマン・ショック時を下回る水準となったが、その後いずれの業種でも2期連続で回復した。その後は業種ごとに傾向は異なるが、2022年第1四半期においては、製造業を除いて低下するなど、緩やかな回復傾向にあるものの、依然として感染症流行前の水準まで回復していない業種も多いことが分かる(第1図)。

中小企業白書1_1

◆資金繰りの動向

 中小企業の業況に続いて、資金繰りの動向についても概観する。中小企業の資金繰りDI(※1)は、感染症流行による売上げの急激な減少と、それに伴うキャッシュフローの悪化により、2020年第2四半期に大きく下落した。第3四半期には大きく回復したものの、2021年以降、その回復のテンポは弱まっており、特に小規模事業者においては感染症流行前の水準には戻っていない。
 こうした中で、感染症の影響を受ける事業者の資金繰りを下支えする観点から、持続化給付金を始めとする給付金・助成金による支援や政府系金融機関や民間金融機関による融資がこれまで実施されてきた。第2図は、中小企業向け貸出残高の推移を金融機関別に見たものであるが、減少傾向にあった政府系金融機関の貸出残高は2020年に入り大幅に増加している。また、国内銀行・信託についても、リーマン・ショックが起きた2008年以降は貸出残高が減少傾向にあったが、感染症下では大幅に増加しており、いずれの金融機関においても、実質無利子・無担保融資制度を活用しながら、積極的な融資が行われている状況がうかがえる。

  • ※1)業況判断DIは、前期に比べて、業況が「好転」と答えた企業の割合から、「悪化」と答えた企業の割合を引いたもの。
  • 中小企業白書1_2

◆雇用の動向

 感染症の流行は、企業の事業活動だけでなく、雇用される労働者にも様々な影響を与えている。
 中小企業の雇用をめぐる状況について、業種別に従業員の過不足状況を見ると、2013年第4四半期に全ての業種で従業員数過不足DI(※2)がマイナスとなって以来、人手不足感が高まる傾向で推移してきた。2020年に入るとこの傾向が一転し、第2四半期には急速に不足感が弱まったものの、2022年第1四半期にはいずれの業種も従業員数過不足DIがマイナスとなっており、依然として人手不足の状況が続いている。

  • ※2)従業員数過不足DIとは、従業員の今期の状況について、「過剰」と答えた企業の割合(%)から、「不足」と答えた企業の割合(%)を引いたもの。

◆原油・原材料価格の高騰

 ここまで、感染症が企業の事業活動や企業で雇用される労働者に与えた影響を見てきたが、ここからは、原油・原材料価格の高騰が中小企業・小規模事業者に与えた影響について見ていく。
 ウクライナ情勢の緊迫化などの地政学リスクが高まっている中、燃料や非鉄金属などの取引価格が大きく変動している。例えば、原油先物の取引価格は、2020年4月頃に感染症の流行に伴う経済活動の停滞により大幅に低下したのち、上昇傾向に転じた。その後、上昇の傾向が続き、2022年2月下旬頃からその増加幅が更に大きくなった。3月上旬に一度低下に転じるもその後は再び増加傾向に戻った。そのほか、原油と並んで代表的な石油燃料である天然ガスや非鉄金属、アルミニウムなどの先物取引価格についても、2022年3月時点では上昇傾向にある。
 こうした中で、燃料や非鉄金属などの取引価格の変動は感染症の流行に加えて、中小企業に影響を与えている。販売価格DIから仕入価格DIを引いた数値である交易条件指数の推移について見ると(第3図)、仕入価格DIの上昇が販売価格DIの上昇よりも大きいため、交易条件指数は悪化の傾向にある。こうした状況から、事業者によっては仕入価格の上昇分を販売価格に転嫁することが必ずしも十分にはできていない様子がうかがえる。

中小企業白書1_3


 以上、今回は、感染症の流行や原油・原材料価格の高騰等が中小企業・小規模事業者に与えた影響について紹介した。次回は、感染症下における事業再構築の実施状況や、企業の成長を促す取組として、ブランドの構築・維持や、人的資本への投資についてついて取り上げる。

(著者:中小企業庁 事業環境部 調査室 戸田健太氏、東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年7月27日号掲載分を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

M&A総研の関わりに注目集まる資金流出トラブル ~ アドバイザリー契約と直前の解約 ~

東京商工リサーチは、M&Aトラブルの当事者であるトミス建設、マイスHD、両者の株式譲渡契約前にアドバイザリー契約を解約したM&A総合研究所(TSRコード: 697709230、千代田区)を取材した。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業、中高年の活用に活路 「早期・希望退職」は大企業の2.8%が実施

 「早期希望・退職」をこの3年間実施せず、この先1年以内の実施も検討していない企業は98.5%だった。人手不足が深刻化するなか、上場企業の「早期・希望退職」募集が増えているが、中小企業では社員活用の方法を探っているようだ。

3

  • TSRデータインサイト

【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」

(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。

4

  • TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。

5

  • TSRデータインサイト

2023年度「赤字法人率」 過去最小の64.7% 最小は佐賀県が60.9%、四国はワースト5位に3県入る

国税庁が4月に公表した「国税庁統計法人税表」によると、2023年度の赤字法人(欠損法人)は193万650社だった。普通法人(298万2,191社)の赤字法人率は64.73%で、年度集計に変更された2007年度以降では、2022年度の64.84%を下回り、最小を更新した。

TOPへ