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「想定為替レート」 平均は調査開始以来、最安値の1ドル=119.1円  ~上場主要メーカー 2023年3月期決算「想定為替レート」調査~

 株式上場する主要メーカー122社では、2022年度(2023年3月期)決算の期初想定為替レートは1ドル=120円が58社(構成比47.5%)とほぼ半数を占めた。平均値は1ドル=119.1円で、前期から13.6円の円安設定となり、調査を開始した2011年3月期決算以降で最安値だった。
 前期の2022年3月期決算(2021年4月-2022年3月)は、期初に1ドル=105円に設定した企業が約6割で最も多く、平均値は1ドル=105.5円だった。だが、為替レートは下期に円安・ドル高が進み、期末にかけて120円超で推移。6月22日には一時、24年ぶりの136円台に円安が加速した。
 こうした円安基調を反映し、2023年3月期は1ドル=120円以上を想定為替レートに設定したメーカーが83社(68.0%)と約7割を占めた。

  • 本調査は、東京証券取引所に上場する主な電気機器、自動車関連、機械、精密機器メーカー(3月本決算企業)122社の2023年3月期の想定為替レートを開示資料などをもとに集計し、前期と比較した。

想定為替レート 平均値は1ドル=119.1円、前期から13.6円の円安

 主要上場メーカー122社の平均値は1ドル=119.1円で、前期(2022年3月期初、105.5円)から13.6円の円安に設定されている。
 調査を開始した2011年3月期以降では、米国の一部経済指標の改善や利上げ観測を背景に円安が加速した2016年3月期初(想定為替レート1ドル=115.8円)以来、7年ぶりに1ドル=110円を上回り、過去12年で最も安い水準となった。

想定為替レート1

1ドル=120円が約半数

 主要上場メーカー122社の2023年3月期決算(本決算)の見通しで、期初の対ドル想定レートは1ドル=120円が58社と最も多く、約5割(構成比47.5%)を占めた。
 次いで、115円が21社(同17.2%)、125円が10社(同8.1%)、110円が8社(同6.5%)、122円と123円が各5社(同4.0%)と続く。
 想定為替レートの対ドル最安値は130円(1社)、最高値は110円(8社)だった。1ドル=110円台は34社(構成比27.8%)に対し、120円台は82社(同67.2%)と企業は円安を織り込んで想定している。また、130円台も1社(同0.8%)あり、1ドル120円以上が約7割(68.0%)を占めた。
 なお、122社のうち、5社は期初時点で2023年3月期の業績予想が未定などの理由で、想定為替レートを開示していない。

想定為替レート2

1年前とのレート比較 最多ゾーンは「105円→120円」

 1年前の2022年3月期の期初想定為替レートでは、「1ドル=105円」に設定した企業が73社と最も多く、約6割(59.8%)を占めていた。最安値は110円(4社)で、その他はすべて100円台にとどまった。
 1年前との比較が可能な116社では、「105円→120円」にレートを変更した企業が35社(構成比30.1%)で最も多かった。次いで、「105円→115円」が18社(同15.5%)、「105円→110円」が7社(同6.0%)、「105円→125円」が6社(同5.1%)だった。
 為替相場の円安ドル高進行を受け、1年前と「変更なし」(据え置き)、「円高へのシフト」はそれぞれゼロで、116社すべて「円安へのシフト」に想定為替レートを変更した。また、1年前からの下落幅の最大は20円(9社)だった。

想定為替レート3


 為替相場は4月以降も円安ドル高が加速し、6月には24年ぶりに1ドル=136円を突破した。その後も、1ドル=135円前後で推移している。
 輸出比率の高いメーカーには、円安ドル高は為替差益などで有利に作用する。トヨタ自動車の2022年3月期決算は、営業利益の増加要因の一つに為替変動の影響(プラス6,100億円)をあげており、原価が3,600億円増加した分を吸収した。このほか、2022年3月期決算では海外展開するグローバル企業を中心に、円安が為替差益を生み出して収益を押し上げた。
 一方で、内需型産業は、円安加速で輸入物価が上昇し、原材料価格の上昇などコスト面への悪影響が広がった。メーカーでも激しい価格競争で販売価格への転嫁が難しい業界では、仕入コストのみが上昇し、円安の恩恵を享受できないケースもある。
 急激な円安加速に対し、日米金利差など円安是正の動きは見当たらない。物価上昇や値上げの広がりは、個人消費の減退にも波及しかねず、将来的な企業収益の圧迫リスクになっている。企業業績の見通しは不透明さを増しており、今後も為替変動への目配りが必要だろう。

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