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日系企業のロシア・ウクライナ・ベラルーシ進出状況 ~ 330拠点を展開、ロシアは300拠点 ~

 2月24日に始まったロシアのウクライナへの侵攻は、世界経済にも大きな影響を与えている。日々、軍事攻撃を受けるウクライナでは円滑な経済活動が難しくなっている。さらに、ロシアや軍事同盟を結ぶベラルーシは欧米や他の諸国から経済制裁を受け、二国への進出企業の多くが事業活動を停止、撤退を表明している。
 東京商工リサーチは、保有する国内企業データベースと世界最大級の企業データベースを持つDun&Bradstreet(ダンアンドブラッドストリート、本社・米国)の海外企業データベースを活用。業績への影響が想定される出資比率50%超のリンケージ(資本系列)データを基に、日系企業のロシア、ウクライナ、ベラルーシへの進出状況を調査した。
 これによると3カ国には206社の日系企業が進出し、330拠点を展開していることがわかった。このうち、ロシアには200社が進出し、300拠点を構えている。ロシアへの進出を産業別でみると、卸売業が132拠点で最も多かった。

  • 本調査は、Dun&Bradstreetが提供する「WorldBase」と、東京商工リサーチの企業データベースを活用した。「WorldBase」からロシア・ウクライナ・ベラルーシ3カ国の事業拠点(以下、拠点)を抽出し、拠点を管轄する企業の支配権(議決権・所有権)の50%超を保有する企業を特定した。特定した企業がグループの頂点企業でない場合、同様の方法でグループの最上位企業を特定し、これの本社が日本に所在する場合を日系企業とした。このため、支配権が50%以下は集計対象外。
    業種分類は、米国連邦政府が開発し世界に広く普及しているSICコード(Standard Industrial Classification Code)の1987年版に基づく。

産業別 卸売業が4割を超える

 3カ国には日系企業が330拠点を構えている。
 330拠点のうち、最多は卸売業の148拠点(構成比44.8%)。以下、サービス業の70拠点(同21.2%)、製造業45拠点(同13.6%)と続く。
 国別では、ロシアが300拠点(200社)、ウクライナが29拠点(22社)、ベラルーシが1拠点(1社)だった。
 ロシアの300拠点のうち、卸売業は132拠点(構成比44.0%)に及ぶ。
 以下、サービス業の66拠点(同22.0%)、製造業の41拠点(同13.6%)と続く。
 ウクライナの29拠点では、最も多いのは卸売業の15拠点(構成比51.7%)。次いで、サービス業と製造業の各4拠点(同13.7%)と続く。
 ベラルーシは、卸売業の1拠点のみ確認された。

露宇辺

業種別 卸売業(耐久消費財)が最多

 産業を細分化した業種別では、最多は卸売業(耐久消費財)の103拠点(構成比31.2%)だった。自動車や電機メーカー等がこれらの市場を重視していることが窺える。次いで、卸売業(消耗品)の45拠点(同13.6%)、事業関連サービス業の34拠点(同10.3%)と続く。
 国別では、ロシアは卸売業(耐久消費材)の91拠点(構成比30.3%)、卸売業(消耗品)の41拠点(同13.6%)、事業関連サービス業の30拠点(同10.0%)の順。
 ウクライナは、卸売業(耐久消費材)の12拠点(構成比41.3%)が最多。以下、事業関連サービス業の4拠点(同13.7%)と続く。
 ベラルーシは、卸売業(消耗品)の1拠点だった。

露宇辺


 ロシアによるウクライナ軍事侵攻を受け、日本や欧米各国はロシアの銀行を「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からの排除で一致し、経済制裁を強めている。
 米国財務省外国資産管理室(OFAC)は、ズベルバンクを含むロシアの一部金融機関やロシア企業を取引の規制対象に追加した。日本政府も、外国為替及び外国貿易法に基づき半導体など約300品目を輸出規制の対象としている。
 今回の調査で、ロシアには日系企業200社が進出し、300拠点を展開していることがわかった。300拠点の業種は、卸売業(耐久消費材)が最も多く91拠点だった。91拠のうち、自動車・同附属品卸売業は18拠点だった。日系自動車メーカー各社は、すでに現地での生産停止やロシア向け輸出停止を決めている。取引構造のすそ野が広い自動車業界は、経済制裁の影響が及んでいる。また、卸売業(消耗品)は41拠点で、内訳は医薬品および衛生用品卸売業が17拠点、食料品全般および関連製品卸売業は5拠点だった。
 日本や欧米の企業は、相次いでロシア事業の停止や撤退を表明している。ロシアは人口1億4,680万人(2017年)を抱える大市場でもある。日系大手アパレルの製造小売(SPA)企業は、ロシア国内での営業継続をいったん表明したが、その後、一時停止を決めた。営業継続は日本国内だけでなく、世界各国からも厳しい視線が注がれる。ウクライナの一般人にまで攻撃を繰り広げるロシアでの事業継続は、世界的なレピュテーションリスクになりかねず、難しい決断を迫られる。
 プーチン大統領はロシアでの事業停止や撤退した外国企業に対し、資産差し押さえの対抗措置に言及している。今後、日系企業は投資の減損を迫られる事態も想定される。
 ロシアのウクライナ侵攻は、進出企業にとって生産・販売の縮小だけでなく、財務リスクも大きく、今後のかじ取りがより難しくなるだろう。

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