ロシア・ウクライナ企業「売上高トップ1000社」分析 ~ ロシアは資源と金融への依存が鮮明 ~
ロシアへの経済制裁強まる
2月24日にロシアがウクライナに侵攻してから約1カ月が経過する。日本や欧米各国は、ロシア金融機関の「SWIFT」(国際銀行間通信協会)からの排除や貿易上の優遇措置である「最恵国待遇」の撤回など、経済制裁を強めている。民間企業もロシア国内での事業停止や撤退を決め、ウクライナ侵攻が経済面に打撃を与えつつある。
東京商工リサーチ(TSR)とDun & Bradstreet(D&B)は、保有する企業データベース(WorldBase)を基に、ロシアとウクライナの経済規模を調査した。
ロシア350万社、ウクライナ150万社
WorldBaseによると、企業数はロシアが350万社以上、ウクライナは150万社以上が存在する。産業別では、ロシアはサービス業、卸売業、金融・保険・不動産、建設業、小売業で全体の約8割を占める。一方、ウクライナはサービス業、卸売業、建設業、製造業、農業で、二国の産業構造は大きく異なる。
この企業群から業績を入手できた企業を抽出し、売上高トップ1000社を対象に分析した。トップ1000社の売上高合計は、ロシアが1兆4957億ドル(2021年末のTTM 換算で172兆367億円)、ウクライナは2274億ドル(同26兆1555億円)と、約6.5倍の差があった。
IMF(国際通貨基金)によると、ロシアの2020年の名目GDPは1兆4785億ドル(世界11位)、ウクライナは1553億ドル(同55位)だ。GDPは、民間消費+民間投資+政府支出+(輸出-輸入)で計算され、企業の売上高合計と単純比較はできないが、GDPは10倍近く差が開いているのに対し、両国トップ1000社の売上高合計の開きは6.5倍にとどまった。ロシアは貿易黒字、ウクライナは貿易赤字であり、こうしたこともGDPとトップ1000社売上高の差異に繋がったとみられる。
また、外務省によると、ロシアの人口は1億4680万人(2017年)、ウクライナは4159万人(クリミア除く、2021年)だ。人口規模では3倍以上の差があり、ロシア経済のすそ野の広さを感じさせる。
産業別 ロシアは「金融・不動産」に比重
トップ1000社を産業別でみると、ロシアは、「卸売業」が最も多く241社、次いで「製造業」の179社、「運輸・郵便・電気・ガス及び衛生サービス」の156社、「金融・保険及び不動産業」の121社、「小売業」の98社、「鉱業」の97社と続く。
ウクライナも「卸売業」が最も多く309社に上り、「製造業」はロシアとほぼ同数の180社だ。以下、「運輸・郵便・電気・ガス及び衛生サービス」の157社、「サービス業」の80社と続く。また、「金融・保険及び不動産業」は42社にとどまり、ロシアとの違いが浮かび上がる。
ロシアの経済規模はウクライナに比べ、約10倍大きく、金融や不動産セクターの割合が高い。それだけに経済制裁は効果的で、ルーブル下落の影響を合わせると実体経済への波及もまた大きいと思われる。
また、「鉱業」はウクライナが35社に対して、ロシアは97社で、資源大国ロシアを物語っている。各国はロシアに対する輸出入規制を強めているが、圧力はこうした企業への打撃になる一方、ロシアに依存する原材料の入手や価格に跳ね返るため、日本企業への影響も大きいと思われる。
業種別 ウクライナは「耕種農業」が上位に
産業を細分化した業種で、二国の売上高トップ1000社をみると、上位3業種は、二国とも「卸売業(消耗品)」、「電気、ガス、水道業」、「卸売業(耐久消費財)」だった。
ただ、4番目はロシアが「銀行業」(76社)だったのに対し、ウクライナは「食料品製造業」(74社)だった。業種別でも、ロシア経済は金融の比重が大きいことがわかる。
5番目以下は、ロシアが「原油、ガス鉱業」(69社)、「その他の小売業」(44社)、「鉄鋼、非鉄金属製造業」(39社)、「食料品製造業」(32社)、「輸送用機械器具製造業」(29社)と続く。
ウクライナは、「総合建築業」(34社)、「耕種農業」(32社)、「食品小売業」(26社)、「証券、商品仲買業」(26社)、「鉄鋼、非鉄金属製造業」(23社)と続く。ウクライナ国家統計局によると、2020年の主要輸出品目は穀物が約2割を占める。今回の調査でも、農業が経済上も重要な地位を占めることを裏付けた。
ウクライナは、国家防衛関連機関や保健、衛生関連機関など公的機関とインフラ企業が上位を占めた。
※本稿は、TSR市場調査部分析チームと情報本部の共同で作成しました。
(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年3月23日号に主な企業を掲載)