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コロナ禍での受診控えも影響 「調剤薬局」 倒産は過去最多を更新(2021年1-11月)

 企業倒産は歴史的な低水準を持続するが、調剤薬局の倒産が止まらない。全国の薬局の数はコンビニ店より多い約6万店。大手チェーン店やドラッグストアの市場参入に加え、新型コロナ感染拡大で患者の受診控えも重なり、過当競争が激しさを増している。
 2021年1-11月の「調剤薬局」の倒産は26件(前年同期比62.5%増)で、過去最多を更新中だ。
 26件のうち、コロナ関連倒産が6件(構成比23.0%)あり、件数を押し上げている。2004年に集計を開始以来、年間最多は2017年の17件だったが、既に6月で上回り、2021年は初めて年間30件を超える可能性も出てきた。
 度重なる緊急事態宣言やまん延防止等重点措置の発令で感染防止の意識が広まり、病医院での受診控えが増えたことが背景にある。厚労省によると、2020年度の調剤医療費や処方箋の枚数は、前年度から大幅に減少し、調剤薬局の経営に打撃を与えている。大手薬局チェーンの調剤薬局やドラッグストアの調剤併設の参入も相次ぎ、街中や病医院の近くに調剤薬局が乱立している。
 ただ、受診控えは徐々に緩和しつつある。調剤薬局大手の(株)アインホールディングス(TSR企業コード:010133623、東証1部)の2021年5-10月の中間連結決算は、処方箋の枚数が回復し、売上高は前年同期比5.2%増の1,529億7,200万円と増収を確保した。
 新型コロナの影響で経営が苦戦しているだけでなく、2022年度は薬価引き下げの可能性も出ている。先行きの楽観材料は少なく、オミクロン株などの感染が再拡大すると、受診控えの再来も危惧されている。少子高齢化で顧客の争奪戦は厳しさを増しており、2022年も調剤薬局の倒産は高止まりが現実味を帯びている。

  • 本調査は、日本標準産業分類(小分類)の「調剤薬局」を抽出し、2021年1-11月の倒産を集計、分析した。

2021年1-11月の「調剤薬局」倒産は26件、過去最多を大幅に更新

 2021年1-11月の「調剤薬局」の倒産は26件(前年同期16件、前年同期比62.5%増)と急増している。乱立する調剤薬局の競争が激化したほか、薬価の引き下げ、薬剤師不足など複合的な要因で経営が悪化し、倒産が高止まりしている。さらに、新型コロナの影響も重なり2021年はこれまで最多だった2017年の17件を大幅に上回り、記録を更新中だ。
 負債総額も11月までの累計は過去最大の28億9,600万円(前年同期8億4,600万円、前年同期比242.3%増)だった。負債10億円以上が1件発生したほか、中規模の多発が負債を押し上げている。

調剤薬局

原因別 「販売不振」が7割超

 原因別では、販売不振が19件(前年同期比171.4%増)で急増した。大手チェーンとの熾烈な競争が続いていることを物語っている。一方、赤字累積の既往のシワ寄せは減少。コロナ関連の資金繰り支援策などが効果的だったとみられる。

負債額別 10億円以上の大型倒産も発生

 負債額別では、最多が1千万円以上5千万円未満で17件(構成比65.3%、前年同期比112.5%増)。続いて、1億円以上5億円未満が5件(同19.2%、同150.0%増)、5千万円以上1億円未満が3件(同11.5%、同50.0%減)、10億円以上が1件(構成比3.8%、前年同期ゼロ)だった。


 全国の薬局数は約6万店(2019年度、厚労省)で、コンビニの店舗数より多い。過当競争も激化しているが、競争力の強い調剤大手やドラッグストアの調剤併設などの動きは止まらない。
 コロナ前から小・零細規模の調剤薬局の淘汰はあり、一定数の倒産は発生していた。そこに新型コロナ感染拡大が急襲し、外出自粛や院内感染の防止などで想定外の病医院の受診控えという事態が起きた。また、マスクの定着や手洗いなどの感染防止対策で疾患数が減少した。この結果、医師が交付する処方箋の枚数が減り、調剤薬局の調剤技術料などが落ち込んだ。
 2021年は競争激化とコロナの影響で、薬局の倒産は過去最多を更新した。足元では感染者数の減少とともに、処方箋の枚数が戻り、調剤大手の売上高は回復をみせている。調剤薬局がひと息つく可能性も出てきたが、小・零細規模の苦境は構造的に解消が難しいだろう。
 医療費抑制で薬価引き下げは当面、続きそうだ。店舗乱立は利用者には選択肢が増えるメリットはある。だが、人口減、処方箋の伸び鈍化への対応策をとれない調剤薬局の淘汰はこれから本格化し、倒産だけでなくM&Aや事業譲渡の動きも本番を迎えるだろう。

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