• TSRデータインサイト

「大手居酒屋チェーン」店舗数調査 上場14社の店舗数、新型コロナ前から1000店超の減少

 チェーン展開する大手居酒屋の店舗撤退が止まらない。居酒屋・バーを運営する上場の主要14社の2021年3月末の飲食店舗数は、新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月と比べ1048店減ったことがわかった。
 大手チェーンが展開する居酒屋・バーは面積が広く、雇用スタッフ数も多い。さらに、ファミリーレストランなど他の飲食チェーンに比べ、都心部のターミナル駅周辺への出店が多く、賃料や人件費も嵩む傾向にある。新型コロナのワクチン接種は全国で進んでいる。だが、感染者数が再び拡大している東京都に対し、政府は「まん延防止等重点措置」の期限が切れる11日を前に、4回目の「緊急事態宣言」を発令する方針を固めた。「まん延防止等重点措置」は千葉、埼玉、神奈川、大阪では延長の見通しで、東京都では12日以降、酒類の提供禁止が要請される見込みだ。
 居酒屋やバーなどの飲食店は、大都市圏を中心に、依然として厳しい経営環境が続く状況だ。大手居酒屋チェーンは、こうした先行き不透明感から今後も店舗のスクラップが続くとみられ、各社の経営だけでなく、従業員らの雇用にも影響が懸念される。

長引く営業制限に 閉店の波止まらず

 居酒屋チェーン14社の店舗数は、2021年3月末(決算期により1月末を含む、以下同)で合計6152店だった。新型コロナウイルス感染拡大前の2019年12月末は7200店で、コロナ禍で1048店(14.5%減)が減少した。
 2019年12月末の7200店舗を起点にすると、1回目の緊急事態宣言が解除された直後の3四半期前(2020年6月末)は、6646店(7.6%減)と一気に撤退が進んだ。その後は、直近期(2021年3月)にかけ、四半期ごとに100~200店のペースで閉店が続いている。
 コロナ前からの減少率が最も大きかったのは、「金の蔵」などを運営する三光マーケティングフーズの52.7%減(108店→51店)だった。以下、JFLAホールディングス(以下、HD)の34.0%減(843店→556店)、多様なコンセプトの居酒屋を首都圏のターミナル駅周辺で展開するダイヤモンドダイニングの親会社・DDHDの26.2%減(435店→321店)の順。
 首都圏の主要駅前に積極的に出店し、かつ一つのメニューに特化せず、幅広い居酒屋メニューを取り扱う店舗の運営企業で撤退を進めるケースが目立った。

居酒屋チェーン運営は軒並み赤字決算

 6月20日、沖縄県を除く9都道府県で緊急事態宣言が解除され、「まん延防止等重点措置」に切り替わると東京でも飲食店でのアルコール提供が午後7時まで可能となった。ただ、営業時間の短縮などで、コロナ前の需要回復にほど遠く、居酒屋やバーなど酒類提供を伴う飲食店を取り巻く状況は依然として厳しい。主要14社の直近本決算は、各社そろって最終赤字となった。2021年度の通期業績も5社が黒字を予想したが、9社は未定とするなど、酒類提供の店舗を取り巻く環境の不透明さを示している。
 各社の店舗政策は、減少が進む従来の“一般的な”居酒屋業態と、“一つのメニューに特化”や“運営形態に特徴のある”業態で撤退ペースに差が生じている。「串カツ田中」を運営する串カツ田中HDは、コロナ前(273店)から直近(279店)は6店増で、唯一、増加した。また、焼鳥提供に特化する鳥貴族HDは659店→622店とコロナ前から5.6%減、すし居酒屋を主体に運営するヨシックスHDは332店→327店の1.5%減、英国風パブのハブは113店→109店の3.5%減にとどまり、14社全体の減少率(14.5%)に比べても小幅な減少率で推移している。
 一部の居酒屋チェーンは、唐揚げ専門店やハンバーガー店など、従来の居酒屋業態のほかに、新たな業態へ資源を投入している。ただ、緊急事態宣言の発令に伴うアルコール飲料の提供停止で、今春の歓送迎会など書き入れ時の宴席需要が消失した。長引く減収で、居酒屋チェーン運営各社の体力は消耗する一方だ。 今後、政府は7月12日以降、東京都のまん延防止等重点措置を緊急事態宣言に切り替える見通しだが、居酒屋業態の需要回復には時間を要しそうだ。当面、酒類提供を伴う飲食店舗の見直しと減少は避けられず、年末には5000店台半ばまで店舗数が減る可能性もある。


 ※集計の対象企業・事業は以下の14社

(株)コロワイド(TSR企業コード:360172105、東証1部)[子会社の(株)レインズインターナショナル(TSR企業コード:296817856)のみ]
チムニー(株)(TSR企業コード:298064804、東証1部)
(株)鳥貴族ホールディングス(TSR企業コード:571700365、東証1部)
(株)JFLAホールディングス(TSR企業コード:296910520、JASDAQ)
(株)大庄(TSR企業コード:292458312、東証1部)[直営店のみ]
ワタミ(株)(TSR企業コード:350488649、東証1部)[国内外食店]
(株)ヴィア・ホールディングス(TSR企業コード:290001692、東証1部)
(株)DDホールディングス(TSR企業コード:296331996、東証1部)[飲食事業]
(株)ヨシックスホールディングス(TSR企業コード:401392406、東証一部)
(株)串カツ田中ホールディグス(TSR企業コード:571824587、東証1部)
SFPホールディングス(株)(TSR企業コード:298545780、東証1部)
テンアライド(株)(TSR企業コード:290859840、東証1部)
(株)ハブ(TSR企業コード:294236058、東証1部)
(株)三光マーケティングフーズ(TSR企業コード:295043857、東証2部)


202107居酒屋の数

‌          四半期ごとに100~200店舗ペースで閉店が続く(TSR作成)                  

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

「社長の出身大学」 日本大学が15年連続トップ 40歳未満の若手社長は、慶応義塾大学がトップ

2025年の社長の出身大学は、日本大学が1万9,587人で、15年連続トップを守った。しかし、2年連続で2万人を下回り、勢いに陰りが見え始めた。2位は慶応義塾大学、3位は早稲田大学と続き、上位15校まで前年と順位の変動はなかった。

2

  • TSRデータインサイト

内装工事業の倒産増加 ~ 小口の元請、規制強化で伸びる工期 ~

内装工事業の倒産が増加している。業界動向を東京商工リサーチの企業データ分析すると、コロナ禍で落ち込んだ業績(売上高、最終利益)は復調している。だが、好調な受注とは裏腹に、小・零細規模を中心に倒産が増加。今年は2013年以来の水準になる見込みだ。

3

  • TSRデータインサイト

文房具メーカー業績好調、止まらない進化と海外ファン増加 ~ デジタル時代でも高品質の文房具に熱視線 ~

東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースによると、文房具メーカー150社の2024年度 の売上高は6,858億2,300万円、最終利益は640億7,000万円と増収増益だった。18年度以降で、売上高、利益とも最高を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

ゴルフ練習場の倒産が過去最多 ~ 「屋外打ちっぱなし」と「インドア」の熾烈な競争 ~

東京商工リサーチは屋外、インドア含めたゴルフ練習場を主に運営する企業の倒産(負債1,000万円以上)を集計した。コロナ禍の2021年は1件、2022年はゼロで、2023年は1件、2024年は2件と落ち着いていた。 ところが、2025年に入り増勢に転じ、10月までの累計ですでに6件発生している。

5

  • TSRデータインサイト

解体工事業の倒産が最多ペース ~ 「人手と廃材処理先が足りない」、現場は疲弊~

各地で再開発が活発だが、解体工事を支える解体業者に深刻な問題が降りかかっている。 2025年1-10月の解体工事業の倒産は、同期間では過去20年間で最多の53件(前年同期比20.4%増)に達した。このペースで推移すると、20年間で年間最多だった2024年の59件を抜いて、過去最多を更新する勢いだ。