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「早期・希望退職」募集、業種が二極化

 上場企業の「早期・希望退職」募集人数が6月3日、1万人を超えた。昨年(2020年)、1万人を超えたのは9月中旬で昨年より約3カ月早い。これはリーマン・ショック直後の2009年に次ぐハイペースだ。実施企業数も50社となり、前年同日(6月3日、33社)比では17社多い。
 これまで製造業が多かったが、2020年以降は新型コロナの影響が直撃した業種で募集が相次ぎ、早期・希望退職の“潮目”が変わってきた。今後、新型コロナの影響が長引くなか、影響が深刻な業種でさらなる人員削減も懸念され、下半期も予断を許さない。


業種別 コロナ直撃企業で急増

 コロナ前の2019年(1-12月)と2021年(6月3日まで)の実施状況では、募集企業の業種が大きく様変わりしている。2021年に募集が判明した企業を業種別でみると、最多がアパレル・繊維製品の8社。次いで、電気機器の7社、サービス(観光)、運送(陸運3社、空運1社)、外食の各4社が続く。
 一方、新型コロナ前の2019年の業種別は、最多は電気機器の11社。次いで、アパレル・繊維製品5社、医薬品4社、機械3社と続いた。運送は2013年以降、観光は2010年以降実施企業はなく、外食も2012年~2019年は募集がなかった。
 コロナ後は、それまで人手不足に悩まされた “労働集約型”の業種で募集が増えている。これらの業種は、コロナ以前は業況が堅調であったにも関わらず、たった1年で人員削減を迫られる事態となった。

早期

赤字企業7割、製造は「黒字リストラ」

 コロナ前の2019年(1-12月)は35社中、赤字企業(最終損益ベース)は15社(構成比42.8%)と半数を割っていた。コロナ前は、堅調な業績や高水準にあった有効求人倍率に象徴される“雇用の流動性”を背景に、黒字リストラが集中した。
 しかし、2020年春以降、新型コロナによる消費低迷や業績悪化による「赤字リストラ」が拡大。2020年(1-12月)の赤字企業は51社(構成比54.8%)と半数を超えた。
 その波紋は2021年に入り、さらに広がっている。2021年の実施が判明した50社のうち、直近の本決算で最終赤字に転落した企業は34社(68.0%)に達した。業種では、外食(4社)、サービス(観光、4社)、運送(4社)、小売(2社)はいずれの企業も赤字。さらに、アパレル・繊維製品は8社中、7社が赤字だった。
 一方、製造業は黒字企業の実施が相次いだ。自動車関連(3社中3社)、電気機器(7社中5社)など、繊維を除く21社中、13社(61.9%)と6割が黒字で実施した。コロナが直撃している外食や観光、運送、アパレルなどは、急激な業績悪化に伴う「切羽詰まった」募集が多発した一方、製造業は、トレンド化しつつある「社員の年齢構成是正」や「製造拠点の見直し」、「業務のIT・オートメーション化」を背景とした募集が進んでいる。

今後は小規模募集を中心に社数を押し上げか

 製造業の募集は、2021年に入り一服感がみられる。だが、コロナ禍で制限された消費動向に連動する外食や交通インフラ、観光関連、一部を除く小売は、下半期にかけても厳しい業況が継続しそうだ。さらに、雇用維持に効果を発揮した雇用調整助成金の特例措置が今春以降、一部地域を除き縮減されている。コロナに振り回された業種では、自社の資金繰りと雇用維持の板挟み状態が長引くとみられる。
 ただ、製造業では、コロナ禍の影響とは別に収益維持の観点から、不採算事業の見直しは一定ペースで続くとみられる。製造拠点の縮小や撤退、セグメントの統合・廃止は引き続きトレンドとなりそうで、企業規模の大小にかかわらず、300人以下の中規模な人員削減や数十人単位の小規模での退職者募集は引き続き行われるだろう。
 こうした要因から、コロナの影響を直に受ける赤字企業と、事業構造の中規模な見直しを行う製造業を中心に押し上げ、2021年通期の募集企業数は昨年の93社を上回る100社超、募集人員はリーマン・ショック後2番目の水準となった昨年(1万8,635人)並みとなる可能性が高い。

早期


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2021年6月10日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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