• TSRデータインサイト

「小売業の倒産動向」調査 2020年(1-12月)

 消費低迷で2年連続で倒産が増加していた小売業界だが、新型コロナウイルス感染拡大で様相が一変した。2020年の小売業倒産(負債1,000万円以上)は1,054件(前年比14.3%減)と、1991年以降の30年間で最少を記録した。
 コロナ禍で緊急事態宣言の発令に加え、休業や時短営業の要請やインバウンド需要の消失で、2020年の飲食業倒産は過去最多を更新した。だが、“新しい生活様式”と三密回避が広がり、外出自粛や企業の在宅勤務で“巣ごもり”需要が生まれた。その結果、各種食料品小売業(前年比38.9%減、59→36件)、酒小売業(同26.9%減、26→19件)など「飲食料品小売業」(同22.7%減、316→244件)が大幅に減少。さらに、「織物・衣服・身の回り品小売業」「機械器具小売業」、家具や書籍小売などを含む「その他の小売業」なども、1991年以降の30年間で件数は最少と、個人消費関連の業態により明暗を大きく分けた。
 小売業倒産は、深刻な人手不足から人件費の上昇や2019年10月の消費増税で、2019年7-9月期は361件(同29.3%増)、10-12月期も312件(同12.6%増)と、倒産が急増した。
 2020年1-3月期も277件(同2.2%増)と増勢が続いたが、そこに新型コロナウイルス感染拡大による政府の支援策が功を奏し、4-6月期259件(同9.4%減)、7-9月期285件(同21.0%減)、10-12月期233件(同25.3%減)と、減少に転じた。
 上場会社の倒産は、5月の(株)レナウン(東証1部、負債138億7,900万円、民事再生後に破産に移行)の1件にとどまった。
 先行き不透明なコロナ禍で、大型店との競合で劣勢だった食品スーパーが好調に転じ、百貨店など大型店は苦戦している。さらに家電品、ドラッグストア、家具も堅調に業績を伸ばすなど、内向きの消費者行動が小売業界に新たな変化を与えている。2021年も上場企業は人員削減を進め、雇用悪化が危惧されるなか、小売業が消費者をどう呼び込めるか注目される。

  • 本調査は、日本産業分類の「小売業」(「各種商品小売業」「織物・衣服・身の回り品小売業」「飲食料品小売業」「機械器具小売業」「その他の小売業」「無店舗小売業」)の2020年1-12月の倒産を集計、分析した。

小売業倒産


業種別 最大の減少率は「飲食料品小売業」の22.7%減

 業種別では、最大の減少率は「飲食料品小売業」の前年比22.7%減(316→244件)で、2年ぶりに前年を下回った。各種食料品小売業(前年比38.9%減、59→36件)、酒小売業(同26.9%減、26→19件)、野菜・果実小売業(同22.2%減、18→14件)、菓子・パン小売業(同19.4%減、72→58件)などで減少し、コロナ禍での“巣ごもり”需要の恩恵が大きかったことがわかる。
 次いで、「織物・衣服・身の回り品小売業」の前年比16.5%減(236→197件)で、2年ぶりに前年を下回った。男子服小売業(前年比37.5%減、40→25件)や婦人・子供服小売業(同8.3%減、108→99件)で減少。コロナ禍で店舗休業や営業時間の短縮はあったが、外出自粛や在宅勤務の広がりで高額品よりカジュアルウェアなどの需要が貢献したとみられる。
 このほか、「機械器具小売業」が前年比8.3%減(204→187件)で2年連続、「無店舗小売業」が同7.8%減(102→94件)で3年ぶりに、それぞれ前年を下回った。
 小売業のうち、「織物・衣服・身の回り品小売業」「飲食料品小売業」「機械器具小売業」、家具や書籍小売などを含む「その他の小売業」は、1991年以降の30年間で件数は最少になった。

小売業倒産

原因別 「販売不振」が854件で、8割を占める

 原因別は、最多が「販売不振」の854件(前年比14.6%減)。次いで、「既往のシワ寄せ(赤字累積)」84件(同18.3%増)、「他社倒産の余波」38件(同7.3%減)と続く。
 『不況型倒産』(既往のシワ寄せ+販売不振+売掛金等回収難)は938件(前年比12.5%減)。小売業倒産に占める構成比は88.9%(前年87.1%)で、前年よりも1.8ポイント上昇し、30年間で最も高い水準となった。

小売業倒産

形態別 消滅型の「破産」が約9割

 形態別では、最多が消滅型の「破産」で939件(前年比14.4%減)。倒産に占める構成比は89.0%(前年89.1%)と、約9割を占めた。一方、再建型の「民事再生法」は34件(前年比5.5%減、構成比3.2%)。会社更生法は2018年以降、3年連続で発生がなかった。
 法的倒産は1,024件(前年比12.8%減)で、構成比は97.1%と30年間で最高を記録した。
 中小・零細企業が多く、大半が再建を諦めて消滅型の破産を選択しているようだ。

小売業倒産

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

ハンバーガー店の倒産、最多更新 ~ 材料高騰、大手と高級店の狭間で模索 ~

年齢を問わず人気のハンバーガー店が苦境だ。2024年は1件だった倒産が、2025年は8月までに7件に達し、過去最多の2014年の年間6件を上回った。

2

  • TSRデータインサイト

2025年「全国のメインバンク」調査 ~GMOあおぞらネット銀行 メイン社数の増加率2年連続トップ~

「2025年全国企業のメインバンク調査」で、GMOあおぞらネット銀行が取引先のメインバンク社数の増加率(対象:500社以上)が2年連続でトップとなった。

3

  • TSRデータインサイト

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明

コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。

4

  • TSRデータインサイト

「葬儀業」は老舗ブランドと新興勢力で二極化 家族葬など新たな潮流を契機に、群雄割拠

全国の主な葬儀会社505社は、ブランド力の高い老舗企業を中心に、売上高を堅調に伸ばしていることがわかった。 ただ、新たに設立された法人数が、休廃業・解散や倒産を上回り、市場は厳しい競争が繰り広げられている。

5

  • TSRデータインサイト

2025年 全国160万5,166社の“メインバンク“調査

全国160万5,166社の“メインバンク”は、三菱UFJ銀行(12万7,264社)が13年連続トップだった。2位は三井住友銀行(10万1,697社)、3位はみずほ銀行(8万840社)で、メガバンク3行が上位を占めた。

TOPへ