2020年9月中間決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査
2020年9月中間決算(4-9月)を発表した3月期決算の上場企業2,385社のうち、決算短信で「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)を記載した企業は28社だった。また、GC注記には至らないが、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は59社だった。
GC注記と重要事象を記載した企業数は合計87社で、新型コロナウイルスの影響を受けて前年同期(2019年9月中間決算、55社)から約6割増加、2020年3月期本決算(83社)から4社増えた。
87社のうち、新型コロナ感染拡大の影響を要因としたのは39社(構成比44.8%)で、外出自粛や臨時休業などの影響を受けた外食やホテルなど消費関連業種が目立った。
GC注記・重要事象の記載企業数は、2019年までは上場企業の好調な決算を背景に50社台にとどまっていた。しかし、新型コロナの影響で上場企業の経営環境も一変。直撃を受けて急激な業績悪化に見舞われた企業を中心に、GC注記・重要事象の記載企業が急増している。
- ※本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、12月6日までに発表した2020年9月中間決算の決算短信などに 「GC注記」及び「重要事象」を記載した企業の内容、業種を分析した。
重要事象 大戸屋ホールディングス、ANAホールディングスなど新たに14社に記載
GC注記企業は前年度決算より1社減少し、28社だった。児玉化学工業(株)(東証2部)、(株)Success Holders(JASDAQ、旧社名(株)ぱど)の2社がGCを解消したが、金融事業やホテル、ナイトクラブを経営するGFA(株)(JASDAQ)が新たに記載した。
重要事象の記載企業は前年度から5社増加し、59社となった。前年度(54社)と比較して解消したのは5社で、このほか1社が上場廃止、1社がGCを記載した。また、前年度決算に重要事象を記載した(株)ひらまつ(東証1部)、昭和ホールディングス(株)(東証2部)の2社が決算未発表となっている。一方で、14社が新たに重要事象を記載した。
新たに重要事象を記載した14社のうち、13社が新型コロナの影響を主な理由としている。経営権を巡る混乱でも話題となった(株)大戸屋ホールディングス(JASDAQ)など外食産業が5社、乗降客数の大幅減に見舞われたANAホールディングス(株)(東証1部)、(株)スターフライヤー(東証2部)の航空2社、インバウンドの消失と外出自粛が直撃したホテル経営会社3社など、新型コロナが業績悪化に色濃く影響した。
GC注記と重要事象を記載した企業数は合計87社にのぼり、前年同期(55社)から約6割(58.1%)増加、半期毎の推移を比較すると2012年3月期(89社)以来8年ぶりの水準となった。
本業不振が9割、債務超過が2.6倍増
GC注記・重要事象の記載企業87社を理由別に分類すると、79社(構成比90.8%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなどの「本業不振」を理由としている。
次いで「新型コロナによる悪影響」を理由としたのが39社(同44.8%)と4割以上を占め、コロナによる業績への悪影響がGC・重要事象企業数を押し上げた。以下、「資金繰り悪化・調達難」14社、「債務超過」13社、「財務制限条項に抵触」11社と続く。
「債務超過」は前年度の5社から13社と、2倍以上増え、大幅な赤字計上で財務を毀損するケースが目立った。上場廃止基準にも抵触するため、資本増強策なども含めた早急な対応が求められる。このほか、金融機関への返済猶予や取引先への支払遅れが発生している「債務支払条件変更・遅延」7社など重大局面が続く不振企業も存在している。
- ※重複記載のため、構成比合計は100%とならない
業種別では製造業が約4割
GC注記・重要事象の記載企業87社の業種別は、製造業が30社(構成比34.4%)で最多。以下、外食業者を含む小売業とサービス業がそれぞれ17社(同19.5%)と拮抗し、情報・通信業7社(同8.0%)、証券・商品先物5社(同5.7%)が続いた。
前年同期(55社)と比較すると新型コロナの影響が大きいサービス業(5→17社)と小売業(9→17社)の増加数が突出し、全体を押し上げた。
JASDAQと東証1・2部で8割
上場区分別では、最多はJASDAQの29社(構成比33.3%)で約3割を占めた。以下、東証2部22社(同25.2%)、東証1部20社(構成比22.9%)までで全体の約8割(81.6%)を占めた。
比較的業歴が浅く、コロナ禍による不振で事業基盤や財務体質が脆弱化したベンチャーや、名門で実績はあっても不振が続く中堅規模の老舗企業などが多い点が特徴といえる。
新型コロナ影響あり39社 小売・サービスで6割超
新型コロナを要因の一つとした39社の業種別では、小売業が16社(構成比41.0%)で最多。次いでサービス業9社(同23.0%)で、小売業とサービス業の2業種で6割(同64.1%)を占めた。臨時休業や短縮営業した居酒屋などの外食産業をはじめ、アパレル販売、ホテルなど、消費関連業種の企業を中心に業績悪化が表面化した。
次いで、世界的な市況低迷のあおりを受けて生産が低迷した製造業が8社(同20.5%)、航空会社など運輸業と卸売業がそれぞれ2社(同5.1%)と続く。
2020年は12月6日までに上場企業の倒産が(株)レナウン(東証1部、民事再生→破産)と(株)Nuts(JASDAQ、破産)の2件発生したが、両社はいずれも倒産直前の決算にはGC注記を記載していた。上場企業の倒産がリーマン・ショック時の2008年の33件から減少をたどるなか、近年は輸出産業を中心にした上場企業の好決算を背景に、GC注記と重要事象の記載企業も減少が続いてきた。
ところが、新型コロナによる影響が様々な業界に波及し、新たにGC注記・重要事象を記載する企業の増加が顕著となっている。国内外で感染者数増加の第2波、第3波が広がり、収束の見通しが立たず、上場企業の企業業績にも不透明感が漂っている。
GC注記・重要事象企業数の増加は、経営状況を示す重要なシグナルとして、引き続き動向を注視していく必要がある。
あわせて読みたい記事
この記事に関するサービス
人気記事ランキング


銀行員の年収、過去最高の653万3,000円 3メガ超えるトップはあおぞら銀行の906万円
国内銀行63行の2024年度の平均年間給与(以下、年収)は、653万3,000円(中央値639万1,000円)で、過去最高となった。前年度の633万1,000円(同627万5,000円)から、20万2,000円(3.1%増)増え、増加額は3年連続で最高を更新した。
2

タクシー業界 売上増でも3割が赤字 人件費・燃料費の高騰で二極化鮮明
コロナ禍を経て、タクシー業界が活況を取り戻している。全国の主なタクシー会社680社の2024年度業績は、売上高3,589億5,400万円(前期比10.6%増) 、利益83億3,700万円(同11.1%増)で、増収増益をたどっている。
3

「調剤薬局」 中小・零細はリソース不足で苦戦 大手は戦略的M&A、再編で経営基盤を拡大
調剤薬局の大型再編が加速するなか、2025年1-8月の「調剤薬局」の倒産は20件(前年同期比9.0%減)で、過去最多の2021年同期と2024年同期の22件に迫る多さだった。今後の展開次第では、年間初の30件台に乗せる可能性も高まっている。
4

りそな銀行、メイン取引先数が増加 ~ 大阪府内企業の取り込み加速 ~
関西や首都圏で大企業から中堅・中小企業のメインバンクとして確固たる地位を築くりそな銀行。「2025年全国メインバンク調査」ではメインの取引社数は3メガバンクに次ぐ4位の4万511社だった。東京商工リサーチが保有する全国の企業データを活用しりそな銀行がメインバンクの企業を分析した。
5

メインバンク調査で全国5位の北洋銀行 ~圧倒する道内シェアで地域経済を牽引~
「2025年全国メインバンク調査」で、北洋銀行(2万8,462社)が3メガ、りそな銀行に次ぎ、調査開始の2013年から13年連続で全国5位を維持した。北海道に169店舗、都内1店舗を構え北海道内シェアは約4割(37.9%)に達する。