• TSRデータインサイト

上場企業 「新型コロナウイルスによる業績上方修正」調査

 新型コロナウイルス感染拡大で急激に景気が落ち込むなかで、業績を上方修正した上場企業(以下、上方修正企業)は9月16日までに、延べ186社あった。上方修正額の合計は、売上高が2,732億1,300万円、最終利益が915億1,600万円だった。
 上方修正企業は、全上場企業3,789社の4.9%にとどまる。一方、下方修正した上場企業は延べ1,176社で上場企業の31.0%を占め、売上高の下方修正額は▲10兆7,367億円、利益▲5兆765億円に達した。上方修正と下方修正の社数は6倍以上の差があるが、新型コロナによる想定外の事業環境下でも、業績アップに寄与するケースが出てきた。
 上方修正企業の業種別では、最多は製造業が57社(構成比30.6%)で3割を占めた。コロナ禍で、在宅勤務や生活様式の変化などで需要が伸びた食品や衛生用品関係などが中心。また、食品スーパーやホームセンターなど、外出自粛で巣ごもり消費が寄与した小売業、テレワーク需要の高まりやオンライン関連事業の需要発掘が業績向上につながった情報・通信業が上位を占めた。
 理由別では、出張自粛や商談のオンライン化、人件費の削減などによる「経費減少」が77社(構成比41.3%)で最多だった。以下、「巣ごもり消費増加」51社、「内食需要増加」35社と続き、消費行動の変化にマッチした業態で業績を伸ばしたことを裏付けた。

  • 2020年1月以降、適時開示で「業績予想の修正」や「従来予想と実績との差異」などで、9月16日までに業績の上方修正を開示した上場企業のうち、新型コロナの影響を理由にあげたものを抽出し、集計した。
  • 全決算期を対象として集計。上方修正の対象決算期が異なるケースや「業績予想の修正」と「従来予想と実績の差異」の両方を開示しているものなどは別カウントとした。

食品スーパーが売上の上方修正のトップ、ライフコーポレーションが合計265億円の上積み

 売上高の上方修正額で、最も大きかったのは食品スーパーの(株)ライフコーポレーション(東証1部、2021年2月期第2四半期)。「不要不急の外出自粛、テレワークの推進、在宅学習などの動きが加速し、急激な巣ごもりや内食需要が喚起され、足元の売上規模が大きく拡大した」として、2度の開示で計265億円の上方修正を行った。
 次いで、「業務スーパー」を手がける(株)神戸物産(東証1部、2020年10月期第2四半期)の241億円。同社も「外出自粛や在宅勤務の広がりなどによる内食需要の高まり」を上方修正の理由にあげている。
 以下、巣ごもり消費によりBtoCの取扱が増えた「佐川急便」のSGホールディングス(株)(東証1部、2021年3月期第2四半期)と、日本郵船(株)(東証1部、2021年3月期通期)が200億円で続き、コロナ禍による特需で配送収入が増えた運輸業の2社が並んだ。
 売上高が従来の業績予想より100億円を超えた上方修正は6社だった。

最多は製造業で約3割

 業績を上方修正した企業の業種別は、製造業が最多の57社(構成比30.6%)で約3割、小売業が39社(同20.9%)で約2割を占めた。売上好調な企業では、主に家庭向けの食品関連や衛生用品関連が多くなっている。
 次いで、オンラインやテレワークと関わりの強い情報・通信業の33社(同17.7%)、外出自粛によりインターネットへのアクセス増加の影響を大きく受けたインターネット広告業などを含むサービス業の31社(16.6%)。
 BtoCに好調企業が多い一方で、卸売業を中心にBtoB企業は苦戦を強いられている。
 ただ、短期的には業績好調だったが、新型コロナの影響が長引くと今後の状況が見通せないとして、次期の業績予想は「未定」のままの企業もある。新型コロナの影響が先行きも不透明なことから、いま、業績好調な企業でも慎重な姿勢を崩さず、不安は根強いことを示している。

業績上方修正 業種別

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【TSRの眼】「トランプ関税」の影響を読む ~ 必要な支援と対応策 ~

4月2日、トランプ米国大統領は貿易赤字が大きい国・地域を対象にした「相互関税」を打ち出し、9日に発動した。だが、翌10日には一部について、90日間の一時停止を表明。先行きが読めない状況が続いている。

2

  • TSRデータインサイト

中小企業の賃上げ率「6%以上」は9.1% 2025年度の「賃上げ」 は企業の85%が予定

2025年度に賃上げを予定する企業は85.2%だった。東京商工リサーチが「賃上げ」に関する企業アンケート調査を開始した2016年度以降の最高を更新する見込みだ。全体で「5%以上」の賃上げを見込む企業は36.4%、中小企業で「6%以上」の賃上げを見込む企業は9.1%にとどまることがわかった。

3

  • TSRデータインサイト

ホテル業界 インバウンド需要と旅行客で絶好調 稼働率が高水準、客室単価は過去最高が続出

コロナ明けのインバウンド急回復と旅行需要の高まりで、ホテル需要が高水準を持続している。ホテル運営の上場13社(15ブランド)の2024年10-12月期の客室単価と稼働率は、インバウンド需要の高い都心や地方都市を中心に、前年同期を上回った。

4

  • TSRデータインサイト

2024年度の「後継者難」倒産 過去2番目の454件 代表者の健康リスクが鮮明、消滅型倒産が96.6%に 

2024年度の後継者不在が一因の「後継者難」倒産(負債1,000万円以上)は、過去2番目の454件(前年度比0.8%減)と高止まりした。

5

  • TSRデータインサイト

2025年「ゾンビ企業って言うな!」 ~ 調達金利の上昇は致命的、企業支援の「真の受益者」の見極めを ~

ゾンビ企業は「倒産村」のホットイシューです、現状と今後をどうみていますか。 先月、事業再生や倒産を手掛ける弁護士、会計士、コンサルタントが集まる勉強会でこんな質問を受けた。

TOPへ