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「コロナ禍でユーザー心理は変化」ジュピターショップチャンネル・新森健之社長 インタビュー(前編)

 24時間365日、ケーブルテレビやCS放送でテレビ通販番組「ショップチャンネル」を放送しているテレビショッピング最大手のジュピターショップチャンネル(株)(TSR企業コード:293158452、東京都中央区)。
2020年3月期も過去最高の売上高を更新した。だが、今年4‐6月は新型コロナの影響で24時間ライブ放送が中断に追い込まれた。
東京商工リサーチ(TSR)は、コロナ禍で激変した環境に立ち向かう新森健之・代表取締役社長に独占インタビューした。

コロナ前後の足もとの動向は

 メディアで報道されている通り、新型コロナの影響でスーパー、ドラッグストアを除き、買い物に行くのを控えるようになった人がほとんどだ。当社のメイン購買層である女性のお客様は、家族のために毎日三食、食事の支度をしなければならない人も多い。料理に必要な食材を自分で買いに行って揃えないといけないが、通常に比べて膨大な量になる。
必要な食品をすべてネットで賄う人は、かなり少数だ。必要なものを買いに近所に出かける。だが、それも三密になる。そうした状況下で、通販は便利、しかも安全な商品を扱っているという印象が広がったのではないか。これまで、まったく通販を利用してこなかった層にも通販が認知され、利用が拡大したという実感はある。

コロナ禍で売れている商品は?

 3月から5月は食品関係を魅力的にとらえていただいたと思っている。これは当然だ。在宅で外食もできない状況で、「自分が食事を全部支度しないといけないのかな」と思う人は増えている。そういう状況で「ショップチャンネル、簡単だけど美味しそうに用意できる食品を売っている」と気づいてもらう機会となった。
一方、化粧品は、「出かけられないのに、お化粧をしても」というマインドがあるようだ。当社には、美肌系、健康系、メイク系など、化粧品だけでも様々なカテゴリーがあるが、カテゴリーによっては厳しいものも出てきており、全体的な売上高も落ちている。ファッションアイテムも高額品はなかなか売れにくい。いま、そうしたものを購入しようという環境ではない。

他には

 宝飾品もダイヤなどを売っているが、高額なジュエリー系は、「いますぐ使わないから」という理由で不調だ。この秋冬の社会情勢も不透明で、従来通りに出かけられるのか分からず、買い控える傾向にあるようだ。この辺は、一般的なトレンドと結びついている。
高額品では、在宅時間が長いため家の中で快適に過ごせるもの、エアコンや空気清浄機などの家電類は調子がいい。コロナの影響で、中国の工場が休止したり、海外から部品が届かない時期があり、メーカー側の生産・納品の遅れによって販売計画を見直すこともあったが、現在は落ち着いてきている。

コロナ禍で通販は好調と言われる

 通販は、家にいても買い物ができて届く。しかも、配送業者の努力で(荷物を)置いていくという措置もだいぶ浸透した。ただ、一つ言いたいのは、「通販をやれば売上が伸びてお客様が買ってくれる」わけではない。
コロナ禍で、ユーザーの心理は微妙に変化している。そういうことを意識しないといけない。当社では、生活に欠かせないものも販売しているが、基本的には生活に「ちょっとプラスα」の当社でしか買えない独自性のあるものを揃え、ワクワク感を価値にしている。だから、いま、生きていく上で必要かというと、そうとも言えない商品もある。

例えば

 「舞台やコンサートへおしゃれをして行きたい」、「ちょっと豪華な食事に行くのに、いつもと同じ洋服じゃ格好悪い」というニーズを満たす商品もある。ちょっと着飾るためのファッションやジュエリー、バッグ、簡単に髪色を変えられるものやウィッグ、化粧品もある。だが、マスクをするようになると目元の化粧品は必要だが、見えない部分の化粧はあまり必要ない、などニーズは変化する。
また、出かけなくなったことで、高級なバッグなどの使用頻度は少なくなった。近所のスーパーやドラッグストアに行くのに、高級バッグは持ち歩く必要がないだろう。当社のように様々な商品を販売する通販事業者は、その状況下でいま、何が求められているか、しっかり見極めないといけない。世の中のニーズは刻一刻と変わっていく。

通販事業者でも二極化が起きているのか

 我々の場合では、フードとエレクトロニクス、部屋着系は好調。高額なジュエリー、バッグ、コートなどは、いまはあまり求められていない。
当社は取り扱い商品が手広く、不調な商材で受けるダメージは薄いのかもしれないが、高額の服飾品に特化した一部の通販業者では、事業環境が大変な事業者もいるだろう。

ショップチャンネル新森社長

取材に応じるショップチャンネル新森社長(TSR撮影)

巣ごもり需要がある一方、催事の需要は低迷している

 (コロナ禍で)催事を中心にやられている事業者は、実店舗の催事や全国各地の祭りが軒並み中止となり、大変困っておられる。
10月にショップチャンネルで、催事などに登場する名産品を揃えた「バーチャル物産展」を初めて行う。2時間枠しか設けられないが、出展事業者を十社程度に絞って商品を紹介する。地方の役所、役場など行政の方で、「自分の街の事業者を助けたい」と思っている職員さんも多いようで、「どういう条件か」という問い合わせが職員の方や事業者から寄せられている。放送に向けた募集を7月末まで行うが、うまくいけば第二弾も開催したいと考えている。食品に限らず、今後、さまざまな商品を紹介したい。
東日本大震災のときには、被災地支援の一環として、津波で被害を受けた気仙沼の漁港から生中継で放送し、気仙沼の海産物や特産品を販売した経験もある。
新型コロナによって自宅で買い物する機会が増えたことをきっかけに、「テレビ通販でも各地の美味しいものや特産物が手に入るんだ」とお客様に実感していただいた。当社は全国のお客様に番組を届け、見ていただくことができるので、物産展企画は生産者や事業者の方にも貢献できる取り組みだと考えている。

外出を控えるトレンドは当面続きそうか?

 私の親世代のような年配の人を抱えている世帯や小さいお子さんのいる世帯、持病をお持ちの方を中心に、外出への抵抗感は一定数あるだろう。世間でも、経済を優先させようとの声がある一方、来年の東京オリンピックは中止したほうがいいという声もある。国の情報の発信や、地方の行政の動きに大きく左右される。
コロナと共存しながら、もう少し社会生活、経済も取り戻したいという思いもあるが、大企業を中心に働き方をリモート中心へ移行しているところもあり、以前のような活発な消費、経済活動に戻るにはしばらく時間を要すると見ている。

一方で買い物したいという欲求を抱えている層もいる

 そのような欲求はシンプルに考えると通販にはプラスだ。ただし、単純に通販をやっている人が一律にプラスになるほど甘くはない。
お客様の置かれている状況だとか、思考、ニーズの変化を分かって、それに対して俊敏に対応できる人が勝ち残る。その対応を誤り、従来の状態だけを漫然と続けていくと、そこは通販といえどもそれなりの結果に終わる。

取り扱い商品の変更や比率を見直す?

 まだ見極め中だが、ここ1-2カ月で気づいたこともかなりある。今後の番組構成とか商品開発で変えるべきものは変えていく。

取引の変更は

 半年前から契約していたり、ベンダーが商品を一生懸命確保してくださっているケースも少なくない。ベンダーに対する通販事業者としての責任はしっかり果たさなければいけない。コロナ禍以降、番組編成を一部再放送や収録に切り替えたことから、本来予定していた生放送での商品の販売を先送りしているものもある。
そういった、元々販売の予定があった商品の取引先に「コロナが収まるまで、お付き合いをやめます」とは言えない。ベンダー、作り手と相談しながら、いまの時代に求められている商品、お客様がほしいものを議論して柔軟に対応していく。供給側の意向を考慮しない無茶な施策は、結果的に多くの人に迷惑が及ぶ。

緊急事態宣言を機に24時間生放送をとりやめた

 とても大きな決断だった。24時間生放送を強みとしてやってきて、お客様もそのサービスが当たり前と思ってきた会社が、一時的であれ24時間をやめたわけだから。
24時間生放送というのは、いろんなスタッフがコミュニケーションを取り、連携しながら作っている。その環境で、現場から誰か1人感染者が出たらその人と関わった多くのスタッフが2週間、活動禁止となってしまう。最悪の場合、その間、番組を回せなくなる。
だから、班分けをして、足りない分は収録のテープを作るなど様々なことをやりながらこの間、乗り越えてきた。ものすごく厳しかった。そう簡単にはできない、本当に大きな決断だった。

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