「日系企業の香港進出状況」調査
「逃亡犯条例」改正を巡り香港は混乱が続いている。6月9日、100万人(主催者発表)が参加した大規模デモがあり、8月には香港国際空港が事実上閉鎖に追い込まれた。この間、香港への訪問旅客数は10%以上減少したとの報道もあり、実態経済にも徐々に影響が出始めている。
9月4日、香港政府トップの林鄭月娥・行政長官が正式に改正案の撤回を表明したが、抗議活動は続いている。
東京商工リサーチ(TSR)が保有する国内企業データベース(375万社)とDun & Bradstreet(ダンアンドブラッドストリート、本社・米国)が保有する世界最大級の海外企業データベースを活用し、日系企業の香港進出状況を調査した。
これによると日本から香港に1,688社が進出し、拠点は2,288カ所展開していることがわかった。業種は、耐久財や消耗品の卸売業、輸送に付帯するサービス業、飲食店など多岐にわたる。香港経済の停滞は、日系企業の業績にも影響が及ぶ可能性もある。
- ※Dun & Bradstreetの「WorldBase」とTSRが保有する企業データベースを活用。「WorldBase」より香港の事業拠点(以下、拠点)を抽出し、拠点を管轄する企業の支配権(議決権・所有権)が50%超有している企業を特定した。特定された企業がグループの頂点企業でない場合、同様の方法でグループ最上位企業を特定。特定されたグループ最上位企業が日本に所在する場合を、日系企業と定義した。
- ※支配権が50%以下の場合、集計対象外とした。
- ※業種分類は、SICコード(Standard Industrial Classification Code)の1987年版を採用した。
産業別 最多は卸売業の1,308拠点
香港の日系企業2,288拠点のうち、産業別の最多は卸売業の1,308拠点(構成比57.1%)だった。
大手商社や電機メーカー、食品会社など、有力企業が香港に拠点を構え営業を展開している。
次いで、サービス業の159拠点(同6.9%)、運輸業の127拠点(同5.5%)、金融・保険業の103拠点(同4.5%)と続く。
業種別 持株会社もランクイン
産業を細分化した業種別は、最多が「卸売業(耐久消費財)」の908拠点(構成比39.6%)。
次いで、「卸売業(消耗品)」の400拠点(同17.4%)、物流や旅行会社の現地拠点を含む「輸送に付帯するサービス」の102拠点(同4.4%)と続く。
「持株会社、不動産会社など投資業」は、27拠点だった。この業種で香港に拠点を開設しているのは、証券会社や金融機関、印刷会社、遊戯関連会社など幅広い業種にわたる。
支配権最上位企業の本社 東京都がトップ
2,288拠点の支配権最上位企業は、全体で1,688社だった。支配権最上位企業の本社を都道府県別にみると、最多は東京都で807社(構成比47.8%)。次いで、大阪府の241社(同14.2%)、愛知県の111社(同6.5%)と続く。香港へ進出している日系企業の本社は3大都市圏に多い。ただ、「進出ゼロ」の都道府県はなく、多様な企業が香港になんらかのビジネス上の繋がりを有していることがわかった。
香港に進出する日系企業は1,688社で、2,288拠点を構えている。2003年に中国と香港は経済緊密化協定(CEPA、事実上の自由貿易協定)を締結した。現地従業員の雇用や法人所得税の納付などで一定条件を満たすと、香港に進出する外資系企業は中国国内でのビジネスにメリットを得ることもできる。こうしたことも背景に、東京都の半分程度の面積(1,106平方キロメートル)の香港に日系企業が多数進出している。
現地拠点の産業は、卸売業が1,308拠点(構成比57.1%)と最も多く、次いでサービス業の159拠点(同6.9%)や運輸業の127拠点(同5.5%)など多岐にわたる。
TSRは日系企業の海外進出調査を定期的に実施し、2019年3月はEU離脱で揺れる英国への進出状況を調べた。英国には日系企業は707社、5,485拠点を展開していた。1社あたりの拠点数は香港が1.35拠点に対し、英国は7.75拠点で5倍以上の差がある。
産業別では、卸売業が香港では1,308拠点(構成比57.1%)と半数以上を占めたのに対し、英国では398拠点(同7.2%)にとどまった。日系企業は、香港を足場にしてアジアのメーカーやアッセンブリ業者への開拓を展開しているようだ。大規模デモによる営業見合わせなど、事業への影響が比較的大きいとされる小売業は59拠点(同2.5%)にとどまった。
ただ、香港の2019年第2四半期(4-6月)の国内総生産(GDP)は、前年同期比0.6%増と低調だ。抗議活動の長期化で旅行者の減少や香港への投資減退が懸念されている。香港経済だけでなく、香港を通じたアジア全体との取引停滞にも繋がりかねず、香港の政情にはまだ目を離せない。