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2016年度「太陽光関連事業者」の倒産状況

 「太陽光関連事業者」の倒産が過去最多を更新した。2016年度(4-3月)の倒産は68件に達し、これまで最多だった2015年度の61件を7件(前年同期比11.5%増)上回った。
負債総額は146億4,100万円(同57.0%減)で半減した。2015年度は新電力の日本ロジテック(協)(TSR企業コード:298943107、東京都)が、2016年3月に負債約120億円を抱え銀行取引停止処分を受け倒産したが、2016年度最大の負債は太陽電池セル製造のPVG Solutions(株)(TSR企業コード:352251875、神奈川県)の約22億円にとどまり、負債総額は大幅に減少した。
2016年5月に改正再生可能エネルギー特別措置法が成立し、2017年4月1日に全面施行された。経済産業省は多様なエネルギー源の確保や国民負担の抑制、電力の効率的な取引・流通の実現の観点から、太陽光に偏重している再生可能エネルギーの電源間バランスの改善に向けた動きを進めている。今年4月から電力会社との接続契約が未締結の認定は失効し、事業用太陽光発電の買い取りは入札への移行が予定されるなど、太陽光発電への優遇策は大幅に縮小している。このため、安易に参入した太陽光関連事業者を中心に、今後も淘汰が進む可能性が高まっている。

  • 本調査は、ソーラーシステム装置の製造、卸売、小売を手がける企業、同システム設置工事、コンサルティング、太陽光発電による売買電事業等を展開する企業(主・従業は不問)を「太陽光関連事業者」と定義し、集計した。
  • 「太陽光関連事業者」の倒産は2000年1月より集計している。

太陽光関連事業者の倒産 年度推移

負債額別 1千万円以上5千万円未満が約8割増

 負債額別では、1億円以上5億円未満が最多の28件(構成比41.1%)だった。前期との比較では、10億円以上が60.0%減と大幅に減少したが、1千万円以上5千万円未満は76.9%増(13→23件)と大幅に増加し、小規模業者の経営悪化が浮き彫りになった。

太陽光関連事業者の倒産状況 負債額別

原因別 「事業上の失敗」が8割増

 原因別でみると、「販売不振」が最も多く36件(構成比52.9%)と全体の半数を占めた。次いで、「事業上の失敗」と「運転資金の欠乏」の11件(同16.1%)だった。
前期との比較では、「運転資金の欠乏」の175.0%増(4→11件)が突出している。売上高の急拡大から一気に受注減に陥り資金繰りに窮したケースや、業容拡大を見越した過剰在庫で収支バランスが崩れ、資金繰りが破綻した事例が多い。
太陽光ブームに乗っただけの急成長企業に共通する財務基盤の脆弱さを克服できない企業の倒産は、今後も続発する可能性がある。

 2016年度の太陽光関連事業者の倒産は68件で、2000年1月の集計開始から年度では過去最多を記録した。半期ベースでみると、上半期(4-9月)の20件に対し、下半期(10-3月)は48件と2.4倍だった。特に、2月は単月最多の11件発生し、時間の経過とともに太陽光関連事業者の倒産が加速していることを示している。
2011年3月の東日本大震災を受け、再生可能エネルギー(太陽光、風力、水力、地熱、バイオマス)の固定価格買い取り制度(FIT)が成立。一躍、太陽光関連業界は各方面から有望市場として注目された。しかし、度重なる固定買い取り価格の引き下げや、相次ぐ新規参入などで環境は激変し、太陽光関連事業者の淘汰が本格化している。
2017年2月に破産開始決定を受けた太陽電池セル製造のPVG Solutions(株)(TSR企業コード:352251875、神奈川県)は、ベンチャーキャピタルからの出資や金融機関からの借入を原資に約20億円を投じて愛媛県に工場を建設したが、固定買い取り価格の下落や安価な海外製品との競合から採算割れが続き、資金繰りに行き詰った。また、3月に東京地裁から破産開始決定を受けた(株)アンビシェイト(TSR企業コード:352334495、東京都)は電話回線の販売代理店として創業した後、太陽光発電システムの販売に参入した。しかし、太陽光発電への各種助成制度の縮小や終了などで受注が悪化。このため、子供服の輸入販売に業態を変更したが、奏効しなかった。
これまでに倒産した太陽光関連事業者は、市場リサーチが希薄で、事業計画の実現性が乏しかったことが共通している。FIT成立で一大ブームを呼び起こし、市場拡大が期待された太陽光関連業界だが、優遇措置や規制の変更などで市場環境が大きく変動することを事業者は改めて認識すべきだろう。
今後も、財務基盤のぜい弱な新規参入組や、他業種から安易に参入しノウハウの蓄積が乏しい事業者を中心に、淘汰は高水準をたどるとみられる。

2016年度「太陽光関連事業者」の倒産、主な事例

太陽エナジー販売(株)(TSR企業コード:350800561、神奈川県、負債1億4,600万円)

 同社は1997年設立の太陽光システム販売、設置工事業者。2012年7月の再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度(FIT)の導入で売上高は2013年9月期の1億9,756万円から2015年同期は6億107万円に伸長していた。だが、採算面は課題を抱えて赤字体質から脱却できず、2015年同期は価格競争の激化もあって6,477万円の当期純損失を計上していた。2015年9月に本社を移転し、10月に人員削減などのリストラ策を推し進め、最終的に営業担当は代表1名になっていた。法人向け大型案件の獲得に注力する営業戦略に転換したが、期待していた案件を獲得できず、2016年6月に横浜地裁から破産開始決定を受けた。

(株)サン・エコイング(TSR企業コード:571710468 、兵庫県、負債1億1,300万円)

 主に一般家庭向けに営業を展開し、太陽光システムの販売施工を中心にオール電化システムやリフォーム工事などを手がけていた。FITの導入を追い風に業容を拡大し、2013年12月期は売上高約2億1,000万円を計上した。しかし、太陽光発電ブームを背景に同業他社との競争や買取価格が年々引き下げられるなかで受注は減少し、2015年12月期の売上高は約1億円に落ち込んだ。利益も低調で、当期純損失の計上により2016年6月末で事業を停止し、9月に神戸地裁尼崎支部から破産開始決定を受けた。

(有)橋本工務店(TSR企業コード:575134828、大阪府、負債3億7,400万円)

 電気工事、リフォーム工事を主体に事業を展開し、最近は太陽光発電設備の販売にも注力していた。韓国資本の太陽光関連製品を取り扱う企業と提携し、2014年3月期の売上高は約5億6,000万円を計上していた。しかし、同業他社との競合による相次ぐ値引き要請に加え、リフォーム工事業者向け太陽光発電設備の販売で代金の未回収が発生し、ここ数年は数千万円規模の当期純損失を計上。金融債務の条件変更(リスケ)で資金繰りを維持していたものの限界に達し、2016年11月に大阪地裁から破産開始決定を受けた。

(株)イー・エム・エンジニアリング(TSR企業コード:291541194、東京都、負債約9億円)

 エレクトロニクス関連機器、太陽光関連機器の開発製造を主体に、鞄など服飾雑貨品の販売も行っていた。太陽光発電やハイブリット給電器関連機器の受注は好調で、2013年7月期は売上高13億7,998万円を計上していた。しかし、以前から利益率は低調で、内部留保の蓄積も進まないなか、2016年に入ると太陽光発電関連機器の受注が激減。服飾雑貨の販売も過剰発注で資金繰りが悪化し、12月に東京地裁から破産開始決定を受けた。

PVG Solutions(株)(TSR企業コード:352251875、神奈川県、負債約22億円)

 2007年に太陽電池セルなど太陽光発電製品の製造・販売を目的に設立され、当初はコンサルティングや製品分析などを手掛けていた。2011年に、ベンチャーキャピタルなどからの出資や金融機関からの借入を原資として約20億円を投じて愛媛県西条市に工場を建設し、太陽電池セルなど太陽電池関連製品の製造に本格参入。しかし、安価な海外製品の台頭やFIT見直しによる買取価格の下落、工場建設による借入の返済負担などにより余裕を欠く資金操作を強いられていた。こうした中、債権、動産譲渡登記の設定や、会社資産に対する差押などが相次ぎ、2017年2月に横浜地裁より破産開始決定を受けた。

(株)アンビシェイト(TSR企業コード:352334495、東京都、負債1億9,200万円)

 2008年に電話回線の販売代理店として設立。その後、太陽光発電システムの販売へ参入したことで業容は拡大し、2012年6月期は売上高約2億5,000万円を計上した。しかし、2014年3月で住宅用太陽光発電導入支援補助金の受付が終了するなど、国や地方自治体の補助や助成制度が相次いで廃止されたことや同業他社との競合激化から受注が激減。近時は、子供服の輸入販売へと業態を転じ再建を図ったものの資金繰りは改善せず、2017年3月に東京地裁から破産開始決定を受けた。

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