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2016年9月中間決算 上場企業「継続企業の前提に関する注記」調査

 2016年9月中間決算を発表した3月期決算の上場企業2,440社のうち、監査法人から「継続企業の前提に関する注記(ゴーイングコンサーン注記)」(以下、GC注記)を付記された上場企業は20社だった。前年度本決算(2016年3月期、25社)より5社減少し、それまで最少だった2015年9月中間決算(22社)を2社下回り、集計を開始以来、最少となった。
 また、事業継続に重要な疑義を生じさせる事象がある場合に記載する「継続企業に関する重要事象」(以下、重要事象)は39社で、前年度本決算(43社)より4社減少した。
 GC注記と重要事象の合計数はリーマン・ショック直後の2009年3月期にピークの145社を記録、以降は減少推移をたどり、2015年3月期は6年ぶりに増加に転じたが、2016年9月中間期は前年度本決算から9社減少した。GC注記や重要事象の記載企業は、新興・中堅企業が大半を占め、上場企業の中でも業績の二極化が鮮明となっている。


  • 本調査は、全証券取引所に株式上場する3月期決算企業を対象に、2016年9月期中間決算短信で「GC注記」及び「重要事象」が記載された企業の内容、業種を分析した。(12月8日までの発表分)

GC注記 重要事象の付記企業は合計59社 前年度本決算から9社減少

 2016年9月中間決算でGC注記が付いた企業は20社で、前年度本決算(25社)から5社減少した。前年度本決算(2016年3月期)と比べ、(株)やまねメディカル(JASDAQ、東京都中央区)と(株)田中化学研究所(JASDAQ、福井市)の2社は解消(田中化学研究所は重要事象の記載が継続)。一方、(株)MAGねっとホールディングス(元JASDAQ、東京都港区)、イーター電機工業(株)(元JASDAQ、大田区)、(株)サハダイヤモンド(元JASDAQ、墨田区)の3社は業績が好転せず上場廃止となった。当中間決算で初めてGC注記が付いた上場企業はゼロだった。

 重要事象の記載があった上場企業は39社で、前年度本決算(43社)より4社減少した。前年度本決算で記載がなかったが、当中間決算で記載があったのは日本ケミコン(株)(東証1部、品川区)と日本車輌製造(株)(東証1部・名証1部、名古屋市熱田区)の2社。
 日本ケミコンは四半期純損失で連結純資産の金額が一定水準を下回り、一部のシンジケートローンの財務制限条項に抵触した。日本車輌製造は、米国向け大型鉄道車両案件でのコスト増や、インドネシア向け大型車両案件での損失を引当計上したことなどで、連続して大幅な営業損失を計上、さらに期末には損失額が悪化する見込みとして重要事象が記載された。

3月期決算企業 GC・重要事象件数推移

GC注記・重要事象記載 本業不振が9割

 GC注記・重要事象記載企業59社を理由別に分類すると、54社(構成比91.5%)が重要・継続的な売上減や損失計上、営業キャッシュ・フローのマイナスなどの「本業不振」を理由としている。
 「再建計画遂行中・その他」が6社(同10.1%)、「債務支払条件変更・遅延」「債務超過」「資金繰り・調達難」がそれぞれ3社(同5.0%)と続く。
 売上や損益の悪化など、本業面で苦戦が続く企業が大半を占めている。また、債務超過は1年内に解消できなければ、原則として上場廃止になるため、業績回復による利益確保か、増資などによる資本増強が求められている。

  • 注記理由は重複記載のため構成比合計は100%を超える

GC・重要事象記載企業 理由別

業種別では製造業が約5割 新興市場と中堅規模が中心

 GC注記・重要事象記載企業59社の業種別では、製造業が29社(構成比49.1%)と半数を占め、大手の下請けメーカーなど中堅規模が中心になっている。上場区分別では、JASDAQ、マザーズ、名証セントレックスの新興市場が27社(同45.7%)と、ほぼ半数を占めた。ベンチャーなどの新興企業で、事業基盤がぜい弱な企業、大手に左右され業績変動が厳しい中堅企業に偏在していることが特徴的といえる。

GC・重要事象記載企業 業種別・上場区分別

 上場企業の倒産はリーマン・ショック時の2008年の33社をピークに減少し、2014年は1990年以来24年ぶりに発生ゼロ。2015年は3社が倒産したが、2016年は12月8日時点で発生ゼロと落ち着いて推移している。
 倒産の減少とともにGC注記と重要事象の記載企業の合計も減少し、2016年9月中間期は2014年3月期、同9月中間期と並んで集計開始以来、最少の59社だった。上場企業の好決算が相次ぎ、企業業績が上向いた結果とみることもできるが、一方で業績不振から抜け出せず上場廃止となり、集計対象から外れるケースもある。
 2016年9月中間期では新たにGC注記が付いた企業はゼロだったが、数年間にわたり継続してGC注記や重要事象が記載される企業も多く、大手と中堅以下との間では格差拡大や二極化が進行している。このため、本業不振に加え、債務超過や金融機関へのリスケジュールなど、重大な局面を迎えているGC注記企業や重要事象の記載企業の動向にはしばらく注目することが必要だ。

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