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経営者アンケート “2020年東京オリンピック開催”

金融・保険業で期待が突出、建設業は悪影響を懸念

9月8日、2020年の東京オリンピック開催が決定した。日本の夏季オリンピックでは1964年の東京オリンピック以来56年ぶりの開催で、7年先だが次第にオリンピック景気への期待も広がりつつある。東京商工リサーチでは東京オリンピックの開催が景気と経営にどのような影響をもたらすか、全国の経営者にアンケート調査を実施した。
経営者の関心は開催地の東京では「関心がある」と回答した経営者は約8割に達し、全体平均でも約7割を占め関心の高さが見られた。
新たな事業展開については約9割が「予定はない」と回答。7年先のことは経済効果が未知数として、今後の経営に慎重姿勢を崩さない経営者がいる一方、直接的な経済波及効果が2兆9,600億円とも試算されるオリンピックに関連する経済効果に期待を寄せている。アベノミクス効果の底上げも期待されるオリンピック開催だが、まだ期待値は地域間での温度差が大きい。今後、東京以外の地域までいかに波及効果の裾野を広げられるかが問われている。
アンケートは2013年10月21日~10月30日の間、全国の経営者(代表、取締役)を対象に実施し、3,096社の3,131名から有効回答を得た。

経営者の9割が関心あり

東京オリンピックへの関心は、経営者の約9割(「関心がある」71.9%、「やや関心がある」21.7%、合計93.6%)が示していることがわかった。「関心がある」と答えたのは、東京の8割(79.6%)が最多、次いで関東(75.7%)、中部(72.2%)までが7割を超え、開催地周辺での関心の高さがうかがえた。
一方、北海道や東北、近畿、中国・四国、九州といった地方では7割を下回った。全体では約7割が関心を示しており、おおむね地域、産業別に関係なく、オリンピック開催に向けた社会インフラ整備に加え、開催地の東京以外でも経済効果の波及に期待する声が目立った。
オリンピック開催までの景気予想では、アベノミクス効果で景気は回復局面に入り、今後の景気へのプラス効果を期待する回答が約9割(「良くなる」35.6%、「やや良くなる」54.0%、合計89.6%)あった。
「良くなる」とした回答は、地域別では東京が約5割(46.7%)に達した。開催地の東京は他地区より期待度が飛びぬけて高く、関心の高さが目立った。産業別では、金融・保険業が約5割(47.6%)で最多だった。今後、老朽化した高速道路のほか、オリンピック関連の社会インフラ整備や物流の活発化に伴う資金需要の拡大への期待が大きいようだ。

業績への影響には格差

一方、オリンピック開催に向けた事業展開は約9割(90.7%)が「予定はない」と回答した。7年先への期待はあるが、消費税率引き上げや実体経済の先行きが不透明な部分を残しており、設備への先行投資や新商品開発などには、慎重な姿勢が見られた。
オリンピック開催が自社業績に与える影響では、約5割(「良い影響」10.2%、「どちらかといえば良い影響」38.6%、合計48.8%)が「良い」と回答した。しかし、地域別でみると「良い」は、北海道が25.2%、東北が28.1%にとどまったのに対し、東京は約7割(「良い影響」17.6%、「どちらかといえば良い影響」50.6%、合計68.2%)が「良い」と回答し、温度差が大きかった。東京は地元開催への期待が大きく、オリンピックを前向きにとらえている半面、距離の離れた地域ほど経済の波及効果には冷静で、盛り上がりに乏しいのがわかった。7年先のオリンピック開催だが、徐々に各地で環境整備が進み、こうした特需の恩恵を現実に受けることにより、オリンピックの盛り上がりに拍車がかかるものと予想される。

建設業では冷静な見方も

業界への影響が良いとの回答は過半数(「良い影響」15.1%、「どちらかといえば良い影響」46.0%、合計61.1%)を大きく超え、全体的には好感をもって受け止められているオリンピック開催だが、自社の業績への影響については一部では冷ややかな見方もあった。
地域別では北海道、東北で自社業績への波及効果への期待度が乏しかった。特に東北では復興工事の遅れなどの悪影響を指摘する声も聞かれた。産業別では建設業で1割以上(「悪い影響」1.3%、「やや悪い影響」13.4%、合計14.7%)、不動産業でも1割(「悪い影響」1.6%、「やや悪い影響」9.7%、合計11.3%)が、オリンピックで自社の業績が悪くなると回答し、全体の平均(「悪い影響」0.8%、「やや悪い影響」4.7%、合計5.5%)を大きく上回った。
建設業では現状、建設資材の高騰や職人の人件費アップなどが収益の圧迫材料として懸念されているなか、今後のオリンピック関連需要でいっそう加速されるのではないか、と冷静な受け止め方をされている。また不動産業でも、長期にわたる不況を経て来年4月の消費税増税を前にした、いわゆる駆け込み需要の反動に懸念があるうえ、建設業と同様、建設コストの上昇が収益に影響するといった声が聞かれた。
全体では「どちらともいえない」とする回答が約5割(45.7%)あり、7年先の動きまでは読みきれていない実態も浮き彫りになっている。7年後の東京オリンピック開催に向け、時間の経過にともなって経済の波及効果と実感の拡大が期待されている。

(Q1) 2020年東京オリンピックに対する関心 → 殆どの経営者が関心を持っている

2020年東京オリンピックについて、関心があるか聞いたところ、「関心がある」71.9%、「やや関心がある」21.7%と何らかの関心を示す割合が90%を超えた。産業別、地域別でも概ね90%が関心を示している。
自由記述では、オリンピックに関連したインフラ整備状況、オリンピック開催地域以外の経済効果、オリンピック後の経済状況などに関心を示すものが目立った。

(Q2) 2020年東京オリンピック開催までの景気予想 → ほとんどの経営者が良くなると予想

2020年東京オリンピックに向けて、景気がどのようになるか聞いたところ、「良くなる」35.6%、「やや良くなる」54.0%となり、景気が良くなると回答した割合は90%弱となった。
地域別でみると、東京では「良くなる」と回答した割合が46.7%と他の地域よりも高くなっている。産業別では、金融・保険業、サービス業で「良くなる」と回答した割合が40%を超えた。
自由記述では、オリンピック自体は景気にプラス効果をもたらすという意見が多くみられた。一方、前回の東京オリンピック開催後に不況(反動不況)となったことから、「オリンピック終了後の景気の落ち込みが心配」(製造業・東北)など、オリンピック後の景気減速を懸念する意見も多くみられた。

(Q3) 2020年東京オリンピック開催に向けた特別な展開(設備投資、事業展開、新商品開発など)の予定  → 「予定はある」は全体で10%弱 地位別では東京では15%強、産業別では運輸業、サービス業が15%強と高めの水準となった

2020年東京オリンピック開催に向けて、現時点で特別な展開(事業投資)の有無については、「予定はない」が90.7%と、今のところ予定がない企業の割合が大勢を占めた。「予定はある」とした回答を地域別にみると、開催地である「東京」が15.7%と割合が高く、産業別でも、運輸業、サービス業が15%強となっている。なお、上場企業(回答数44名※40社)で「予定はある」と回答した割合は27.3%と平均を大きく上回る水準となった。
自由記述では、オリンピックに向けた事業投資に控えめな意見が目立った。具体的には「オリンピック後の反動から過剰設備となる懸念(運輸業・関東)」、「オリンピックによる経済効果は地域性のもので、地方での設備投資は悪影響(製造業・北海道)」、「経済効果が未知数で意思決定が難しい(情報通信業・東京)」などの意見が寄せられた。

(Q4)  2020年東京オリンピック開催決定が、自社の『業績』にどのような影響を与えるか → 良い影響と回答した割合が悪いとする割合を大きく上回る。地域別では東京、産業別では金融・保険業では約70%が良い影響と回答

2020年東京オリンピック開催決定が、自社の業績にどのような影響をあたえるかを聞いたところ、自社の業績に良い影響(「良い影響」+「どちらかといえば良い影響」)と回答した割合は48.8%となった。一方、自社の業績に悪い影響(「悪い影響」+「どちらかといえば悪い影響」)と回答した割合は5.5%にとどまり、良い影響と回答した割合が悪い影響と回答した割合を大きく上回った。なお、「どちらともいえない」と回答した割合は45.7%となった。地域別でみると、東京では70%弱が良い影響と回答したが、北海道および東北では30%弱にとどまった。「どちらかといえば悪影響」と回答した割合は東京では1.8%に対し、北海道は16.7%、東北では9.8%と他の地域よりも高い水準となった。産業別でみると、良い影響と回答した割合は、金融・保険業では70%強と高い水準となった。悪い影響と回答した割合が最も高い産業は建設業(14.7%)で、全体よりも10ポイント近く高い結果となった。
自由記述では「オリンピック経済効果が自社ビジネスとどのように関連するかわからない(情報通信業・東京」という回答がみられた。

(Q5)  2020年東京オリンピック開催決定が、自社の『業界』にどのような影響を与えるか → 金融・保険業で良い影響と回答した割合が他の産業よりも高い

2020年東京オリンピック開催決定が、自社の業界にどのような影響をあたえるかを聞いたところ、いずれの業種においても、良い影響と回答した割合が悪いとする割合を大きく上回っている。特に金融・保険業では「良い影響」が28.6%、「どちらかとい言えば良い影響」が61.9%と、良い影響と回答した割合が90%強となった。
自由記述では、建設業はインフラ整備などで潤うという意見がみられる一方、職人不足、資材高騰などを懸念する意見も多くみられた。また、建設業で「どちらかといえば悪い影響」を選択した割合が全産業で唯一10%を超えた。

(Q6) 2020年東京オリンピック開催決定は、自社の所在する都道府県の経済に影響を与えるか → 良い影響があると回答した割合は東京で90%強

東京では「良い影響」と回答した割合が49.0%と全地域で最も高い結果となった。「どちらかといえば良い影響」も含めると、良い影響があると回答した割合は90%強となった。
一方、関東を除く全ての地域で「良い影響」と回答した割合は50%未満となった。北海道、東北では「どちらかといえば悪い影響」と回答した割合が20%強となるなど、地域間で差がみられた。

(Q7)オリンピックに向けて、自社の所在する都道府県のインフラ整備がどのように推移するか → 加速すると回答した割合は東京で90%強

オリンピックに向けて、自社の所在する都道府県内のインフラ整備がどのように推移するかを聞いたところ、東京では「加速する」と回答し割合が53.1%と全地域で最も高い結果となった。「やや加速する」を含めると90%強が加速すると回答した。東京・関東以外の地域で「加速する」と回答した割合は10%未満の水準だった。中部以西の各地域では「変わらない」と回答した割合が半数を超えている。また、オリンピックによるインフラ整備は震災復興にとってマイナスに作用するという声も聞かれ、「鈍化する」との回答は東北地方が8.2%と最も多く、「やや鈍化する」と回答した割合を含めると、東北地方が最高の30.7%となった。北海道でも「鈍化する」が6.1%、「やや鈍化する」が24.2%と他の地域よりも鈍化すると回答した割合が高かった。
自由記述では、東日本大震災復興事業(インフラ整備)が後回しになるのでは、というコメントが東北地方を中心に多くみられた。

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