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主要上場ゼネコン58社 2013年3月期決算調査

主要上場ゼネコン58社の2013年3月期決算は、連結売上高が前年度比6.1%増加したが、本業のもうけを示す営業利益は22.4%減少した。東日本大震災復興関連工事が本格的に発注される中で労働需給は逼迫し、労働工賃の上昇が工事採算に影響を与えている。この状況は各社の決算にも顕著に現れ、売上高は伸びても営業利益が伸びない結果をもたらした。工事部門別では震災復興工事の恩恵を受けた土木工事を主体とする企業は、好業績であったが、恩恵が少ない建築工事主体の会社は、逆に採算悪化が進み厳しい業績だった。

  • 本調査は3月期を本決算とする主要上場建設会社の2013年3月期決算について、前年との比較可能な58社を対象に決算短信から連結売上高・連結営業利益・連結当期純利益を抽出。それぞれの項目を58社合計で分析した。さらに、各社の個別決算から土木工事、建築工事の部門別売上高をもとに構成比率を求め、土木・建築部門ごとの個別売上高・個別営業利益の前年度比増減状況を分析した。

調査結果

  • 58社全体の連結売上高合計は2期連続増加し、前期比6.1%増。増収は58社中42社(構成比72.4%)。
  • 58社の連結営業利益合計は労務費高騰など建設コストの増加から前期比22.4%の減益。
  • 58社の連結当期純利益合計は前期比29.1%増益。減損損失の減少などが影響。連結増収増益企業は58社中30社(構成比51.7%) 。
  • 土木工事の割合が高い企業ほど売上高および営業利益の伸びが大きく、建築工事の割合の高い企業ほど売上高および営業利益の伸びが低い。

58社の連結売上高 全体で6.1%増加、増収は42社

上場ゼネコン58社の2013年3月期の連結売上高合計は、12兆7,944億9,000万円で、前期比6.1%増加した。増加は前期(前期比4.4%増加)に続いて2期連続で、増加率は前期4.4%増加より1.7ポイント増加した。58社のうち前期比で増収は42社(構成比72.4%)、減収は16社(27.6%)で、東日本大震災の復興工事の増加影響等から7割以上の企業が増収だった。前期比で10%以上増収したのは15社、うち30%超の大幅増収は2社(若築建設、佐田建設)だった。
増収の背景は東日本大震災の復興需要に加え、震災によって遅延した工事進捗が改善したことが寄与した。
一方、売上高に占める建築工事の割合が高い企業は、復興需要で好調な土木工事に比べ建築工事の施工高が減少し、全体として売上高減収となった企業が多い。

連結営業利益は減益、連結純利益は増益

58社の本業のもうけを示す連結営業利益の合計は、1,892億7,800万円で、前期比22.4%減(546億2,800万円減)の大幅減益だった。58社のうち増益企業は29社、減益企業は29社でちょうど半数に分かれた。営業赤字を計上したのは9社だった。
スーパーゼネコンでは大林組のみ営業増益でほか3社は営業減益。58社のうち営業増益額が前期比で大きかったのはNIPPO(59億6,400万円増)、奥村組(52億7,800万円増)、一方、営業減益額が大きかったのは戸田建設(390億300万円減)、前田建設工業(123億5,000万円減)、鹿島建設(110億3,000万円減)で、震災復興関連工事の本格化から労務需給が逼迫し、労務費高騰をはじめ建設コスト上昇が影響、さらに海外工事でも工事採算が悪化したことなどが影響した。
58社の連結当期純利益の合計は670億9,500万円で、前期比151億3,500万円増(29.1%)の増加となった。58社のうち連結当期純利益増益企業は35社(構成比60.3%)、同減益企業は23社(同39.7%)。最終赤字(当期純損失)企業は13社だった。58社の営業利益が前期比22.4%減益となるなかで、当期純利益が前期比29.1%増と盛り返している背景は、減損損失の減少や固定資産売却益の計上など各社の特殊要因が影響している。

連結売上・純利益の増収増益企業は51.7%

連結売上高と連結営業利益について、増収増益企業は25社(構成比43.1%)、増収減益企業は17社(同29.3%)、減収増益企業は4社(同6.9%)、減収減益企業は12社(同20.7%)だった。また、同売上高と同当期純利益では増収増益企業は30社(構成比51.7%)、増収減益企業12社(同20.7%)、減収増益企業5社(同8.6%)、減収減益企業は11社(同19.0%)だった。

個別売上・営業利益とも土木は好調、建築は低調

個別決算では、売上高に占める土木工事の割合が高い企業ほど売上高および営業利益の増加率が高く、建築工事の割合が高い企業ほど売上高及び営業利益の増加率は低かった。
土木工事の比率が「75%超~100%」と高い企業は、売上高が前期比11.0%増と高い伸びを示し、「0%~25%」と低い企業は前期比増収率5.0%にとどまった。一方、建築工事割合が「75%超~100%」と高い企業は前期比4.3%増で、「0%~25%」と低い企業の売上高は前期比6.5%増となり、建築工事割合の高い企業は前期比増収率は低かった。
営業利益を見ると、土木工事比率「75%超~100%」と高い企業は、前期比72.4%増と高い伸びだったが、「0%~25%」と低い企業は逆に前期比79.4%減少となった。一方、建築工事割合が「75%超~100%」と高い企業は営業利益は前年度比119.8%の大幅減少。建築工事の割合が低い「0%~25%」の区分の企業は35.2%の営業利益増加を示してた。全体として建築工事の割合が高い企業ほど営業利益は圧縮され、土木工事割合が高い企業ほど営業利益をあげた状況が見られた。
東日本大震災の復興需要がゼネコン各社の業績に影響を与えたが、2013年3月期決算では特に土木工事関連が復興需要の恩恵を受け好業績となった。一方、建築工事関連はいまだ復興需要の恩恵は少なく、逆に技術者不足による労務費高騰から、採算悪化の厳しい決算となった。

  • (注)土木工事・建築工事の各部門が売上高および営業利益に与えた影響を見るために、各企業の個別売上高に占める土木・建築工事の売上高構成比率を算出し、その構成比率区分別に個別売上高および個別営業利益の増減状況をまとめた。
    土木・建築工事の構成比率の算定は、判定可能な57社につき個別決算書の個別売上高を「土木」・「建築」・「その他」の3区分に分類し、各部門に占める「土木」・「建築」の売上高割合をピックアップした。分類にあたり道路工事は「土木」に、材料販売や不動産事業、海外工事は「その他」に区分した。なお、各区分の売上高内訳が連結で開示された一部の企業については、個別売上高でなく連結売上高で構成率区分を行っている。

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