TSMC進出で変わる熊本経済”世界と戦う地方”へ ~熊本県・木村敬知事インタビュー~ 2026/4/10

TSMC進出を軸とした熊本経済の現状と外部環境の影響

―熊本の足元の経済環境についてお聞かせください

熊本経済は、コロナ禍に宿泊・飲食業を中心に大きな打撃を受けましたが、その後順調に回復基調にあります。全国平均より高い回復率で進んだ要因の一つにTSMCの進出決定による波及効果が挙げられます。

実際、県内総生産は初めて7兆円を超える見通しとなっており、これは前年比2.5ポイント増の値となっています。半導体関連では、立地協定ベースで71件、投資額約3.7兆円、雇用規模約6,000人と、地域経済に対するインパクトは極めて大きいものとなっています。

一方で、急速な需要拡大による人手不足をどう解消していくかという課題を抱えています。

国際情勢については、ロシア・ウクライナ問題や中東情勢など不確実性の高い要因が継続しているものの、現時点では熊本経済への直接的影響は限定的であり、むしろTSMC進出の波及効果が追い風となっている構図にあります。

「付加価値」と「世界視点」で描く熊本の成長戦略

―今後の成長ビジョンについてはどのようにお考えでしょうか

今後の熊本の持続的成長を実現するためには、付加価値を取っていくモデルへの転換が不可欠です。特に農業分野においては、農業産出額は全国トップクラスである一方、流通構造の中で価格決定力を十分に持てていないという構造的課題があります。

このため、ブランド戦略の強化や6次産業化の推進を通じて、単なる原材料供給から脱却し、加工・販売まで含めたバリューチェーン全体で価値を取り込む体制を構築する必要があります。「安くて良いもの」から「高くても選ばれるもの」へという転換は、生産者の所得向上のみならず、地域全体の競争力強化にも直結します。

さらに重要なのは、視点を国内市場に閉じず、グローバル市場を前提とした戦略へと転換することです。熊本にとって台湾やアジア諸国は地理的・経済的に近接しており、従来の「地方対東京」という構図ではなく、「熊本対アジア」という視点での市場認識が求められています。こうした発想の転換が、今後の成長の鍵を握ると考えています。

木村敬知事がインタビューに応じる様子
インタビューに応じる木村敬知事

輸出の弱さの背景と海外展開への挑戦

―九州・熊本は輸出が弱いとの指摘があります

ご指摘の通り、熊本を含む九州地域の企業は、これまで国内需要を主軸として事業を展開してきた歴史があり、海外市場に対する積極的なアプローチは限定的でした。その結果、販路開拓力やブランド発信力といった点で課題を抱えているのが実情です。この背景には、商社機能の不足、さらには海外展開に伴うリスクへの心理的ハードルの高さなど、複合的な要因があります。したがって、これからは企業が安心して海外に挑戦できる環境整備が不可欠となります。

現在は、TSMC進出を契機に関係が深まった台湾を起点として、企業間マッチングや金融機関同士の連携強化など、具体的な支援策を講じています。まずは台湾市場で成功事例を創出し、それをモデルケースとして横展開することで、地域全体の海外志向を高めていく考えです。その上で、東南アジアやその先の国々へ段階的に市場を広げていければ熊本・九州はますます発展していけると感じています。

「使う産業」創出の重要性

―半導体の経済効果と今後の戦略については

半導体関連投資による経済効果は極めて大きく、今後10年間で約11兆円規模の押し上げが見込まれています。これは単なる設備投資の増加にとどまらず、関連産業の集積や雇用創出、さらには地域ブランドの向上といった多面的な効果を伴うものです。しかしながら、持続的な成長を実現するためには、「作る産業」の集積だけでは不十分です。今後は半導体を活用した「使う産業」、すなわちAI、ロボティクス、自動運転、医療・ヘルスケアなどの分野における新産業創出が不可欠となります。

そのため、産学官連携による研究開発拠点の整備や、スタートアップ支援の強化などを通じて、イノベーションが連鎖的に生まれるエコシステムの構築を目指しています。「熊本サイエンスパーク構想」はその中核を担うものであり、単なる工業集積地から高度な知識集約型産業拠点への進化を図っていきます。

木村敬知事がインタビューに応じる様子
インタビューに応じる木村敬知事

交通渋滞・用地不足への対応とインフラ整備

―インフラ面の課題について教えてください

熊本県が抱える課題の一つに渋滞問題があります。熊本市は全国でも上位に位置するほど深刻な状況にあり、通勤時間の増加や物流効率の低下といった形で経済活動に影響を及ぼしています。

このため、幹線道路の整備や交差点改良に加え、アクセス道路の新設などを総合的に進めることで、交通の円滑化を図っています。

さらに、企業進出の加速により工業団地や産業用地の不足も顕在化しており、新規用地の開発や既存用地の高度利用を進めています。加えて、半導体産業に不可欠な工業用水や排水処理インフラについても、将来的な需要増を見据えた計画的整備を進めており、持続可能な産業基盤の確立に取り組んでいます。

人材確保と育成 半導体時代への対応

―人材面での取り組みはいかがでしょうか。

熊本には10大学、3短大、1高専があり、年間4,500人以上の新卒者が輩出されますが、これをいかに地域内に定着させるかが重要な課題となります。

そのため、半導体関連分野に対応した学部・学科を新設したり、県立高校や私立高校にも半導体コースを作ったりしています。

こうした取り組みにより、人材の「量」と「質」の両面での強化を図るとともに、県外流出の抑制とUIターンの促進を通じて、持続的な人材基盤の確立を目指しています。

くまもとサイエンスパークのイメージ
くまもとサイエンスパークのイメージ(熊本県提供)

熊本は「挑戦と共創のフィールド」

―最後に企業へメッセージをお願いします。

熊本が持っている東アジアへの地理的優位性に加え、くまもとサイエンスパークの取組みは、他地域にはない強みと言えるでしょう。

さらに、熊本は震災からの復興過程において、「創造的復興」という理念のもと、新たな価値創出に挑戦してきた歴史があります。

企業の皆様にとって、熊本は単なる立地先ではなく、「共に成長し、新しい価値を創り出すパートナー」となり得る地域です。ぜひこの良き流れを活かし、新たな挑戦の場として熊本を選んでいただきたいと考えています。

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