「うるおいある未来」と地域金融の使命 ~肥後銀行・笠原慶久頭取 インタビュー~ 2026/1/7
人口減少や高齢化が進むなか、地域金融機関の在り方に注目が集まっている。政府は「地域金融力強化プラン」で、金融仲介機能のブラッシュアップや地域経済に貢献する力のさらなる発揮を求める。
TSMC進出に湧く熊本県だが、生産年齢人口の減少など日本全体が抱える課題を共有している。融資やコンサルティング機能を発揮し、地域を良くするには何が必要なのか。東京商工リサーチは、肥後銀行・笠原慶久頭取に聞いた。
笠原慶久(かさはら よしひさ)頭取
慶應義塾大学経済学部を卒業後、1984年富士銀行(現・みずほ銀行)入行。熊本支店長や法人業務部長などを務め、2011年みずほ信託銀行へ転籍。同行常務執行役員を経て、15年肥後銀行に入行、取締役常務執行役に就任。18年肥後銀行代表取締役頭取、19年九州フィナンシャルグループ代表取締役社長に就任、現在に至る。
―2025年7月25日に100周年を迎えた
100周年だからといって、何かが劇的に変わるわけではない。ただ、100年という年月は非常に重みがある。戦争や金融危機、リーマン・ショックなど、数々の困難を地域やお客様と共に乗り越え、歩みを止めることなく今日まで来た。その事実自体に、大きな意味があると感じる。
当行は創業時を除き、赤字を出したことがない。堅実な経営を重ね、地域を支え続けてきた結果だ。100周年にあたり、「100年分のありがとう、うるおいある未来のために」というスローガンを掲げた。まずは支えてくださったお客様、地域の皆さま、そして役職員やOBの方々への感謝を、しっかりと言葉にしたいと考えた。ただ、感謝を示すだけでは前進にはならない。次の100年に向けて、お客様や地域の皆さまと共に歩んでいくという決意を示している。
―次の100年に向けたビジョンは
将来について聞かれることは多いが、「どうなるか」よりも「どうしたいか」を考えることが重要だ。人口減少など、ある程度見えている未来はあるが、それを成り行き任せで受け入れるだけでは、豊かな社会は築けない。
人口が減っても潤いある社会を実現するためには、生産性の向上が不可欠だ。そのためにはDXへの投資や、付加価値の高い商品・サービスの創出、人材への継続的な投資が必要になる。私たちはこれを「意志のある未来」と呼んでいる。意志を持ってリスクを取り、地域と共に成長していくことが、100周年を迎えた当行の決意だ。

インタビューに応じる笠原頭取
―経営する上で、特に大切にしていることは
当行では企業理念を最上位に位置づけ、いわば憲法のような存在と考えている。理念を守る限り、その先で何をするかは現場が考え判断する。中央から細かく指示を出すのではなく、現場に裁量と責任を持たせることを重視している。
採用や与信判断も同様だ。人手が足りないと現場が判断すれば、現場の責任で採用してよい。与信についても、数字やAIだけでは測れない経営者の覚悟や信頼性は、実際に接している担当者でなければわからない。最終的には「人が判断する銀行」であり続けたい。
―地域との関わりで果たすべき役割は
地方銀行は、地域の未来に大きな影響を与える存在だ。例えば、TSMCの熊本進出も、単に企業が来るだけでは意味がない。県内企業が設備投資や人材育成を行い、サプライチェーンに参画してこそ、地域に経済効果が残る。その後押しをするのが、私たちの役割だ。
SDGsやDXについても同じ。社会貢献としてではなく、本業として取り組まなければ、企業も地域も持続的には成長できない。熊本県のSDGsやDXに対する意識の高さが全国トップクラスである背景には、金融機関として自らが積極的に取り組んでいるほか、継続的な地域経済への働きかけも寄与していると考えている。
―金融機関同士の連携にも力を入れている
これまでのデフレ期は競争による消耗戦だったが、これからは協調の時代だろう。金融機関が連携し、自治体と力を合わせて地域全体のパイを大きくすることが重要になる。協調融資や電子決済サービス、中心市街地の再生など、共同の取り組みを通じて地域の成長を支えたい。結果的に各行の業績も向上する。
―読者へメッセージを
人口減少の中で成長する鍵は、「SDGs」「DX」「人への投資」の3つだ。年齢や性別、国籍にとらわれず、多様な人材が能力を発揮できる環境を整えることが、企業の競争力を高める。その結果、地域も銀行も共に成長でき、うるおいある未来を実現できる。
2026/1/7
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