米国輸出管理規則(EAR)の基礎知識と2025年9月改正法への備え
2025年9月米国輸出管理規則改正について
2025年9月、米国の輸出管理規則(EAR)の改正が発表されました。その内容として、これまでは規制リストに掲載されている企業との取引のみを制裁対象としていたのを、改正後は当該企業を実質的に支配している事業体との取引も制裁対象とする「関連事業体ルール」が適用されることになりました。
その後、当該関連事業体ルールは、2025年11月10日から2026年11月9日までの適用停止が発表されましたが、特段の延長がない限り2026年11月10日からあらためて施行することになります。実質的に支配している事業者の特定には株の保有割合から資本関係を明確にする必要があり、またそれが海外企業となるとその調査も簡単ではないことから、海外輸出をおこなっている日本企業にとって大きな負担となることは明確です。猶予が与えられている期間で早めの対策をおこなうことで施行再開後も引き続きスムーズな海外輸出がおこなえるといえます。
ここでは、まずEARの基礎知識を説明し、その後に改正内容のポイント、そしてその備えについて紹介いたします。
EARの基礎知識
EARとは具体的に何に基づき何を規制しているものか、その上下階層を明確にすることで全体が把握しやすくなります。
下記に構造を図式化しましたのでご覧ください。
EARの上下階層
輸出管理改革法(ECRA: Export Control Reform Act)
2018年、第一次トランプ政権により立法。軍事転用の恐れがある米国の新興技術や基盤技術の国外流出を防ぎ、安全保障を確保する目的。特に中国やロシアなどの競争国やテロ組織への技術流出阻止を意図したものと言われています。
輸出管理規則(EAR: Export Administration Regulations)
2025年9月に改正されたが、「関連事業体ルール」は2026年11月9日まで停止
ECRAに基づき、戦略物資や民生・軍事両用品の輸出・再輸出・国内移転を規制することを目的に米国商務省 産業・安全保障局(BIS)が管轄する規則。
規制品目リスト(CCL: Commerce Control List)
EARに基づき、規制の対象となる品目・ソフトウェア・技術を定めたリスト。
エンティティリスト(EL: Entity List)
CCL掲載品目を輸出・再輸出する際に米国商務省 産業・安全保障局(BIS)の許可が必要となる事業体や個人などが掲載されたリスト。ただし、BISの審査方針は「原則不許可」であるため、実質的には「NGリスト」の意味合いが強い。
図の通り、EARは2018年に立法されたECRAという法律に基づき制定された規則で、実際の運用においてはCCLやELでルール化されています。そして、冒頭の「実質的に支配している事業体も制裁対象とする」というのは、ELの対象範囲が拡大されたことに起因しています。
では、なぜ米国の規制が日本に影響があるのかというと、EARではCCLで指定された品目の輸出・再輸出・国内移転を規制していますが、ここで特に重要なのは「再輸出」の規制が含まれている点です。EARにおける再輸出とは、米国で製造された製品を日本へ輸入し、それを第三国へ輸出することや、米国の技術やソフトウェアを使って日本で製造された製品を第三国へ輸出することです。そのため、特に製造、半導体、防衛、通信、AI分野において米国の技術を用いた製品を第三国へ輸出している日本企業にとっては影響必至と言えます。
なお、EARに違反した場合は懲役や罰金に加え、米国からの輸入や米国製品の第三国からの輸入、米国製品や技術を用いた製品の再輸出が禁じられ、海外取引に多大な影響を受けることとなります。
再輸出のイメージ

EAR改正の重要ポイント
では次に、2025年9月のEAR改正における重要なポイントである「制裁対象の拡大」について、改正前後の図を用いて説明します。
EAR改正前
改正前は輸出先企業だけが規制対象のため、当該企業がELに掲載されているかを確認すれば問題ありませんでした。

EAR改正後
改正後はBISが新たに「関連事業体ルール(affiliates rule)」を導入したことで、輸出先企業に加え、当該企業の株式を直接的または間接的に50%以上保有している「実質的に支配している事業体」も規制対象となります。さらに、ELに加えて軍事エンドユーザーリストの「MEUリスト」や、米国の財務省(OFAC)により米国人の関与の禁止を定めた企業・個人リストの「SDNリスト」にもその適用範囲を拡大することになります。そのため、株の保有比率から資本構造を明確にし、実質的に支配している事業体すべてに対しEL掲載を確認しなければならなくなります。
具体的な例を2つ紹介します。
例①
輸出先に対し、株主Aは株を直接50%保有、株主Dは子会社の株主Bと株主Cを経由して間接的に50%保有していますが、仮に株主Aか株主DがELに掲載されていた場合は輸出先も規制対象となります。

例②
輸出先に対し、株主Aを経由して株を30%保有している株主Cと、20%保有している株主Bの株を合算すると50%となりますが、仮に株主Bと株主CがELに掲載されていた場合は輸出先も規制対象となります。

なお、50%に満たない場合は50%ルールの適用はありませんが、BISが提示している「取引に不正の可能性があると疑うべき兆候」、いわゆる「レッドフラッグ」に該当することになり、追加のデューデリジェンス実施などが求められています。また、株の保有割合が特定できず50%ルールの適用が判断できない場合は、取引前にBISから許可を取得するか、適用可能な許可例外を特定する必要があります。
このように、EAR改正後はELの確認以前に、輸出先企業を実質的に支配する事業体を特定する作業が発生するため、かかる工数が大幅に拡大します。そのため、海外輸出をおこなっている企業さまからは「どのように実質的に支配する事業体を特定すればいいのか?」というお問い合わせを多数いただいております。
以下は、TSRがご提供しているEAR対策ソリューションです。
EAR対策が可能なサービス
TSRの業務提携先であり、全世界6億件超の企業データベースを保有するDun & Bradstreet(D&B)が提供している以下3つのサービスでEAR対策が可能です。
| サービス名 比較項目 | D&B Onboard | D&B Risk Analytics – コンプライアンス・インテリジェンス |
D&B DataBlock | |
|---|---|---|---|---|
| 提供方法 | オンライン | オンライン | オンライン API バッチファイル |
|
| 株主情報の取得方法 | Webで個社レポートを購入 | Webで個社情報を確認 | 各ツールからCSV、JSON形式で提供 | |
| 二次以降の株主情報取得 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 実質的支配者の確認 | 〇 | 〇 | 〇 | |
| 規制リストスクリーニング | 〇 ※オプション |
〇 | × | |
| モニタリング(変動通知) | × | 〇 | 〇 ※API連携が必要 |
|
| 概要 | 実質的支配者や資本系列情報の他、企業情報、メディアや制裁リスト等のスクリーニングなどコンプライアンスチェックに必要なあらゆる情報や機能を搭載。 | 取引先の実態特定、メディアや制裁リスト等のスクリーニング、モニタリング&アラート、各種リスク指標の取得など、コンプライアンスリスク管理を効率的にする機能を網羅。 | D&Bが保有する企業情報をカスタマイズしてご提供。利用方法に応じてオンライン、API、バッチファイルでの提供が可能。 |
TSRではお客さま毎に異なる課題に対しベストなソリューションをご提案いたします。EAR対策でお困りの方、これから米国企業や製品のお取り扱いを始めようとお考えの方、現状の運用見直しをご検討されている方など、少しでもご興味がありましたら是非お気軽にお問い合わせください。
「最新記事」一覧を見る