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「雇用調整助成金」の不正受給公表が累計1,446件 全国ワーストは愛知県、年商を上回る不正受給は31社

第9回 「雇用調整助成金」不正受給企業調査

 全国の労働局が10月31日までに公表した「雇用調整助成金」(以下、雇調金)等の不正受給件数が、2020年4月から累計1,446件に達したことがわかった。不正受給総額は463億7,025万円にのぼる。
 2024年10月公表は35件で、4月(23件)に次いで今年2番目の低水準だった。都道府県別のワーストは愛知県の196件。次いで、東京都180件、大阪府166件、神奈川県114件と、大都市が上位を占める。
2024年は1-10月累計は526件で、前年同期(576件)を8.6%下回り、ピークアウトの兆候も見え始めた。

 東京商工リサーチ(TSR)の企業データベースで設立年月を調べると、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降の起業が74社あった。また、直近年商を上回る不正受給額を受け取っていた企業も31社あり、コロナ禍の雇調金特例措置を逆手に取った可能性も出ている。

 雇調金はコロナ禍で迅速な支給に対応するため、手続きを簡素化した特例措置を講じた。だが、2023年3月に特例措置が終了後、1年以上を経過して現在も不正受給の公表が後を絶たない。不正受給の公表企業に対しては、助成金の全額返還など金銭的ペナルティに加え、悪質性が極めて高い場合は代表者など関係者の逮捕まで踏み込んでいる。
 こうした企業や代表者は、コンプライアンス(法令順守)意識の欠如を理由に、金融機関や取引先のクレジットリスク引き上げも避けられないだろう。
 雇調金等は、事業主と従業員の双方が負担する雇用保険料のうち、事業主負担分を積み立てた「雇用安定資金」を主な財源とするセーフティーネットだ。公平な制度維持には、制度を悪用し不正受給した企業には厳しい姿勢で臨むことが求められる。

※ 本調査は、雇用調整助成金、または緊急雇用安定助成金を不正に受給したとして、各都道府県の労働局が2024年10月31日までに公表した企業を集計、分析した。前回調査は9月18日発表。

雇調金不正受給公表件数・受給金額推移

雇調金等の不正受給公表は合計1,446件、2024年は前年を下回る可能性

 全国の労働局が公表した雇調金等の不正受給は、2020年4月から2024年10月31日までに1,446件に達した。支給決定が取り消された助成金は合計463億7,025万円で、1件あたり平均3,206万円。
 月別公表は、9月39件、10月35件と2カ月連続で40件を下回った。2024年1-10月累計は526件で、前年同期(576件)を下回り、通年でも前年を下回る公算が高い。
 公表された1,446件は、「雇調金」だけの受給が833件で約6割(57.6%)を占める。このほか、パートタイマー等の雇用保険被保険者ではない従業員の休業に支給される「緊急雇用安定助成金」だけが198件(同13.6%)、両方の受給は415件(同28.6%)だった。

都道府県別ワーストは愛知県、東名阪で上位

 地区別では、最多は関東の542件(構成比37.4%)。次いで、中部285件、近畿256件、九州121件、中国95件、東北60件、四国46件、北陸25件、北海道16件の順。 
 前回調査(2024年7月発表)と比べ、増加率は東北が7.1%増(56件から60件)で最も高く、九州7.0%増、四国6.9%増が続く。一方、北陸と中国では前回調査以来、公表が無かった。
 都道府県別は、愛知県が196件で最多。9月と10月の公表も最多の15件で、200件に迫る。
 次いで、東京都180件、大阪府166件、神奈川県114件まで4都府県が100件を超えた。このほか、千葉県68件、広島県60件、福岡県56件、栃木県53件、埼玉県41件、三重県38件、京都府34件、宮城県と群馬県、新潟県が各29件の順。
※ 各都道府県の労働局が公表した所在地に基づいて集計しており、本社所在地と異なる場合がある。

産業別 飲食業などのサービス業他が約5割

 雇調金等の不正受給が公表された1,446件のうち、TSRの企業情報データベースで分析可能な1,093社(個人企業を一部含む)を対象に、産業別と業種別で分析した。
 産業別では、サービス業他の496社(構成比45.3%)が最多だった。次いで、建設業141社(同12.9%)、製造業126社(同11.5%)の3産業が100社を超えた。以下、小売業72社(同6.5%)、卸売業と運輸業が各71社(同6.4%)が続く。
 産業を細分化した業種別では、「飲食業」が155社(同14.1%)で最多。「建設業」141社、人材派遣や業務請負など「他のサービス業」が107社で続き、上位3業種が100社を超えた。このほか、旅行業や美容業など「生活関連サービス業,娯楽業」84社、経営コンサルタントなどの「学術研究,専門・技術サービス業」74社、「運輸業」71社、ソフトウェア開発などの「情報サービス・制作業」50社、「不動産業」42社、「宿泊業」30社、「医療,福祉事業」28社の順。

雇調金不正受給公表企業 産業別・業種別

業歴別 10年未満が4割超、特例措置後の起業は74社

 雇調金等の不正受給が公表された企業で、業歴が判明した1,089社について分析した。最多は、10年以上50年未満の493q社(構成比45.2%)で半数近くを占めた。次いで、5年以上10年未満303社(同27.8%)、5年未満146社(同13.4%)が続き、10年未満が合計449社(同41.2%)で4割超に達した。
 一方、業歴100年以上の老舗企業23社を含む50年以上は合計147社(同13.4%)で1割超にとどまった。
 なお、雇調金の特例措置が始まった2020年4月以降の起業は74社で、9-10月で16社増加した。

雇調金不正受給公表企業 業歴別

年商対比 年商以上の不正受給が31社

 直近の売上高が判明した482社について、不正受給額と対年商比を分析した。最多は、年商比10%未満の172社(構成比35.6%)で3割超を占める。年商比の小さい順に多く分布し、50%未満が402社(同83.4%)と8割超を占めた。
 一方、年商比100%以上と年商を上回る不正受給は31社(同6.4%)が判明した。売上規模を大きく上回る不正受給は、常識的には考えにくいだけに、その理由を追求すべきだろう。

雇調金不正受給企業 対年商比別


 コロナ禍での雇調金支給は、営業自粛や人流抑制などで休業や営業縮小を余儀なくされた企業で働く従業員の雇用維持に寄与し、事業規模を問わず多くの企業が支給を受けた。
 一方で、迅速な支給を目的とした手続きの簡素化を悪用した不正受給が頻発した。厚生労働省によると、各都道府県労働局の遡及調査で発覚した不正受給は非公表企業を含めて、2024年9月末で3,603件、支給決定取消金額は815億5,000万円に及ぶ。
 コロナ禍の特例措置は2023年3月に終了したが、不正受給の公表は後を絶たない。公表された企業は、コンプライアンスやコーポレートガバナンスの不全企業としてみなされ、取引先や金融機関からの信用低下を避けられない。また、違約金と延滞金を受給金額に加えた返還を求められるため資金難に陥る可能性もあり、公表企業の動向が注目される。

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