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私的整理を巡る葛藤=2023年を振り返って(2)

 コロナ初期に「1社も潰すな」との強い意向が示され、大胆かつ迅速に資金繰り支援が実行された。緊急避難的な措置の反動は、アフターコロナ局面では倒産の増勢を招く。これは政策担当者や金融機関、与信関係者の間では共通認識だった。
 コロナ関連の資金繰り支援は、持続化給付金などの「給付型」、新型コロナ特例リスケジュールなどの「リスケ型」、ゼロゼロ融資などの「貸付型」に大別される。リスケ型と貸付型は負債の部にのしかかり、いずれ弁済期を迎える。倒産の激増は政治イシューになりやすく、この時限爆弾の処理は慎重かつ周到な用意が求められた。
 コロナ禍の真っただ中。昼間でも人影がまばらな霞が関を歩くと、資金繰り支援スキームをひねり出す一方で、そこから生じる過剰債務への対応に頭を悩ます担当者に出くわした。当時、それぞれの担当者は一様に「転ばぬ先の杖」と評して対応にあたっていた。
 その「杖」の1つは、準則型私的整理である「事業再生ADR」の運用円滑化を念頭にした産業競争力強化法の改正(2021年8月)だ。「実質的な多数決(5分の3)の導入」(政策立案者)で、成立の予見可能性を高めた。事業再生ADR手続きで5分の3以上の合意を得た内容は、法的手続き(倒産)に移行しても裁判所が考慮し、金融債権者の債権放棄額に大差ないとの理屈だ。ただ、改正後の試金石となったマレリホールディングス(株)(TSR企業コード:022746064)の事業再生ADR手続きは海外債権者の合意が得られず、2022年6月に民事再生(簡易再生)に移行した。
 今年、手続きに深くかかわった再生実務家は、関係者との会合で「準則型私的整理へのマーケットのさらなる理解が必要」と強調した。債権者が反対する理由の1つに、賛成後に2次破たん(債務減免承諾後の倒産)した場合の責任問題があるとされる。債権放棄額に大差ないのであれば、「倒産のレピュテーションによる事業価値の毀損を極力防ぐべき」との倒産村の共通認識が必ずしも通じないことが露呈した。
 認識のすれ違いは一部の債権者だけなのか――。準則型私的整理を巡っては、2022年4月に「事業再生ガイドライン」の運用が開始された。利用状況を網羅的に把握する機関が現時点では存在せず詳細は不明だが、東京商工リサーチ(TSR)の取材では、2022年度(4-3月)は約30社の計画が成立した。ただ、成立にも関わらず、「廃業型」手続きでは特別清算を並行させるケースが相次いだ。いわゆる「ゼロ円弁済」も許容される手続きだが、特別清算を申し立てる負担は大きい。債権者側にも相応の理屈はあるが、運用改善も必要だ。
 また、「再生型」手続きでは債務者の取引先が頭を悩ませるケースが少なくない。債務者の手続き入りの事実を知った場合、取引先は進捗を知るすべがない。法的整理への移行もあり得るため、与信判断は硬化せざるを得ないことになる。
 コロナ禍で間口が広がった準則型私的整理は、普及するにつれ、倒産村の良心を債権者に伝えきれていない側面が見え隠れする。2024年は手続き利用のさらなる増加が見込まれる。原則非公開の手続きでは、その意義の伝え方と情報開示の在り方を巡る悩みは尽きない

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