「2024年問題」で6割の企業が「マイナス」影響 人件費上昇など、影響は幅広い業種に広がる
~ 「2024年問題に関するアンケート」調査~
2024年4月、これまで適用が猶予されていた建設業や運輸業などで時間外労働時間の上限規制が始まる。この「2024年問題」で、「マイナス」の影響が生じるとみている企業が6割(構成比61.9%)に達することがわかった。産業別では、トップが卸売業の73.0%で、規制対象となる建設業(同69.3%)、運輸業(同72.7%)を上回った。円滑な流通システムの構築を担う卸売業は、配送コスト上昇や納品スケジュールの見直しなどが避けられないようだ。 「2024年問題」 の影響は、産業界全体に広がる可能性を示唆している。
「マイナス」影響としては、規制対象となる建設業と運輸業では「稼働率の低下による利益率の悪化」が回答率57.5%でトップだった。また、「稼働率維持に向けた人員採用による人件費の増加」が同44.4%で続き、利益率低下や人件費上昇を懸念する企業が多くみられた。
建設業と運輸業以外では、「物流や建設コスト増加による利益率の悪化」が回答率73.2%と、圧倒的に多い。次いで、「稼働率の低下による納期の見直し」が同25.8%で、納品スケジュールへの影響も懸念されている。
時間外労働時間の上限規制の適用まで半年を切った。少子化やコロナ禍からの経済活動の再開などで、中小企業ほど人手不足が深刻化している。こうした状況を背景に、「2024年問題」の課題意識が産業界全体に波及し、浮き彫りになってきた。稼働率の低下を防ぎ、円滑な業務を遂行するには、各産業、各企業の個別対応では難しくなってきた。課題解消には、各産業がより業務連携を深め、生産性の向上を目指す必要がある。
※ 本調査は、2023年10月2日~10日にインターネットによるアンケート調査を実施し、有効回答5,151社を集計・分析した。
※ 資本金1億円以上を大企業、1億円未満(資本金がない法人・個人企業を含む)を中小企業と定義した。
Q1. 2024年4月1日以降、これまで適用が猶予されていた自動車運転業務(トラックドライバ―など)や建設業にも時間外労働の上限規制が始まります。こうした「2024年問題」について、貴社の経営への影響は次のうちどれですか?(択一回答)
「マイナス」影響が6割以上
「2024年問題」について、マイナス影響が発生すると回答した企業は5,151社のうち3,189社で、全体の6割(構成比61.9%)を占めた。
内訳は、「大いにマイナス」が構成比19.3%(995社)、「どちらかというとマイナス」が同42.5%(2,194社)だった。
企業規模別では、「マイナス」と回答した企業が、大企業で同68.0%(467社)、中小企業で同60.9%(2,722社)と、大企業が中小企業を7.1ポイント上回った。
【産業別】「マイナス」回答の構成比トップは卸売業の73.0%
産業別での「マイナス」回答の構成比トップは、卸売業で73.0%だった。卸売業はメーカーと小売業をつなぎ、円滑な流通システムを構築する役割を担っている。運輸業の時間外労働の上限規制が適用されると、配送コスト上昇への対応や納品スケジュールの見直しなどが必要になり、流通の効率化に影響を及ぼしかねない。
次いで、時間外労働の上限が規制される運輸業(構成比72.7%)と建設業(同69.3%)が続く。建設業や運輸業は、残業や休日出勤で受注をこなすケースが多く、規制適用後はこうした時間外労働時間を削減する必要がある。工期や納期の遅れ解消には人員確保に動く必要があるが、確保のための人件費の上昇も懸念される。特に、物流を担いあらゆる産業と密接な関係にある運輸業は、影響が様々な産業に波及する可能性が高い。
10産業のうち、「マイナス」と回答した企業が半数を超えたのは6産業あった。「マイナス」と回答した企業の割合が最も低い産業は、情報通信業の21.3%だった。
一方、「プラス」と回答した企業の割合が最も高かったのは、規制の対象となる運輸業で8.5%だった。悪い面ばかりが多く連想される「2024年問題」だが、長時間労働が常態化したドライバーの労働環境の改善につながる。こうした側面から「プラス」と捉える企業も散見された。
【業種別】Q1で「大いにマイナス」、「どちらかというとマイナス」と回答した上位15業種(母数20以上)
「食料品製造業」が86.8%でトップ
業種別では、「マイナス」と回答した企業の割合が最も高かったのは、「食料品製造業」で86.8%だった。
食料品は、人手のかかるバラ積み貨物が多く、荷待ち時間や荷役時間が比較的長い。一方で、受注から納入までの期限が短く、ドライバーの1日あたりの労働時間が長くなりやすい。時間外労働の上限規制が適用されると、今まで残業で対応できていた配送量を捌くことが難しく、配送計画を見直す必要が出てくる。
「マイナス」と回答した企業の割合が8割を超えた業種は、11業種だった。また、上位15業種のうち、製造業が8業種と半数以上を占めた。
Q2. どのようなマイナスの影響を受けそうですか?(複数回答)
「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が67.9%でトップ
「2024年問題」によるマイナスの影響としては、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が67.9%(2,079社)と、全企業では最も高かった。ウクライナ情勢や円安などを背景に、エネルギーや原材料など様々なモノの価格が上昇し、企業の業績を圧迫している。「2024年問題」によって運賃や作業費などのコスト上昇も予想され、さらなる業績悪化が懸念される。
時間外労働の上限規制の対象となる建設業と運輸業では、最高が「稼働率の低下による利益率の悪化」で57.5%(370社)と半数を超えた。次いで、全体トップの「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が48.0%(309社)、「稼働率維持に向けた人員採用による人件費の増加」が44.4%(286社)と続く。
利益率の悪化のほか、すでに顕在化している「人手不足」がより深刻化し、人件費の上昇を懸念する企業が多い。また、「時間外手当の減少による従業員の離職」が22.7%(146社)あった。時間外手当の減少でドライバーの収入が減ることから、従業員の離職につながることを心配する企業も少なくない。
建設業と運輸業以外では、「物流・建設コスト増加による利益率の悪化」が73.2%(1,770社)と圧倒的に多かった。次いで、「稼働率の低下による納期の見直し」が25.8%(625社)、「稼働率の低下による利益率の悪化」が17.7%(430社)と続く。
利益率の悪化のほか、稼働率の低下で納品スケジュールに支障が出ることを懸念する企業が多くみられた。
建設業や運輸業で時間外労働の上限規制が適用される「2024年問題」は、「マイナス」影響が発生すると回答した企業が6割(構成比61.9%)を占めた。上限規制の適用まで半年を切り、行政主導で様々な対策が進められている。
建設業は、賃金のもとになる労務費の目安を設け、適切な価格転嫁を促す施策が進んでいる。また、2024年から現場監督になるための国家試験の受検要件が緩和され、19歳以上であれば学歴や実務経験の有無を問わず、受検が可能となる。
運輸業は、外国人労働者の在留資格である「特定技能」に自動車運送業を追加し、深刻な人手不足を補う施策が検討されている。また、輸送手段を鉄道やフェリーなどに転換する「モーダルシフト」を進め、自動車による長距離配送を減らす目標も掲げられている。一方、荷主側の取り組みでは、段ボール箱などのバラ積み貨物をパレタイズし、荷待ち時間の削減やドライバーの荷役負担の軽減に取り組む企業もみられる。
時間外労働の上限規制を前にして、様々な産業への「マイナス」の影響が議論されているが、これまでは運輸業者や建設業者がこうした負担を長時間労働で肩代わりしてきた実態がある。 今後は一部の産業、企業に負担を強いるのではなく、産業界全体で負担を共有し、軽減するための取り組みを進めることが求められる。