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[破綻の構図]ユービーエム(株) ~ 業容急拡大と「空白の1週間」の必然 ~

 連絡が取れない――。
1月31日以降、下請けや納入業者の悲痛な声が東京商工リサーチ(TSR)に相次いだ。渦中となった建築工事のユービーエム(株)(TSR企業コード:293588309、江戸川区、以下UBM)は、ほとんどの債権者が連絡を取れない「空白の1週間」を経て、2月6日に東京地裁へ破産を申請し、8日に開始決定を受けた。関係者が債権や現場の行方を案じて過ごした1週間はあまりにも長い。
投資用マンションのRC工事で急成長したUBMだが、裏側では2020年末からネガティブ情報が集まっていた。UBMに何が起きていたのかTSRが迫った。




投資用マンションRC工事で急成長

 UBMは1991年10月に設立された。建築・リフォーム工事や建築材料卸を手掛け、2014年4月期までの売上高は3億~4億円、当期純利益も数十万円程度の推移が続いていた。
そんなUBMが「飛躍」する。投資用不動産向けのRC工事に参入したのだ。首都圏を中心とした比較的小さい土地に、5~10階建てのマンションやビルを建設。2015年4月期に6億3,545万円だった売上高が、2018年4月期には20億1,833万円へ3倍に伸長した。さらに売上高は、2019年4月期に38億8,215万円、2020年4月期に67億5,948万円と倍々で推移し、2021年4月期の売上高は103億7,428万円と、100億円を突破した。2022年4月期は105億393万円だった。
この間、2018年にいわゆる「シェアハウス・かぼちゃの馬車」問題で不動産融資の不正が発覚し、個人投資家向けの与信が厳格化された。当時、UBMはTSRの取材に対して、「富裕層や企業向けが主体で、大きな影響はない」と回答。業績はその言葉通り、拡大していった。


UBM


UBMの資金繰りの柱

 UBMが連絡難になった後、内情をよく知る人物がTSRの取材に応じた。
「UBMの資金繰りのカギは、個人投資家の手付金」とした上で、「基本的に(個人投資家からは)工事代金のうち2~3割を手付や着工時に回収することが多かった」と明かした。これに対し、業者への支払いは、工事進捗に応じて15日締めの翌月末払いを条件とするケースが多かったとみられる。UBMにとって有利な決済条件で、個人投資家からの受注が増えるほど手元資金が増加し、資金繰りが楽になる構図だ。
一般的に、業者からの受注は案件規模が大きいため高額になりやすく、売上規模を確保しやすい。ただ、決済条件が自社に優位にならないことも多く、資金繰りの厳格な管理が必要になる。また、利ザヤ(粗利)が「叩かれる」(業界関係者)ケースも少なくない。
前出の内情を知る人物によると、「2021年までは個人投資家と業者からの受注割合は、ほぼ1:1だったが、2022年は業者からの受注割合が高まっていた」という。
TSRが独自入手したUBMの破産申立書には、「(2021年頃から)竣工時に代金の60%や80%を支払うといった形で、支払時期が極端に後ろ倒しされた契約が増加した」と記載されており、証言内容とのリンクを伺わせる。

UBMの決算分析

 UBMが公表した決算を分析すると興味深い内容が浮かび上がってくる。
業容が拡大し始めた2018年4月期は、期末時点の現預金(5億2,746万円)が工事未払金(4億5,101万円)を上回っている。未成工事支出金は6億5,990万円、未成工事受入金は4,800万円で、債務の支払いに懸念を感じさせない。一方、2020年4月期は未成工事支出金が14億4,089万円、未成工事受入金が11億408万円へそれぞれ急増した。特に未成工事受入金の伸びが顕著で、個人投資家からの入金が資金繰りを支えた可能性がある。
翌2021年4月期は未成工事受入金が15億9,020万円へ増加したものの、未成工事支出金も20億2,482万円へ急増。また、2020年4月期に8.2%を確保していた粗利率(売上高総利益率)は、2021年4月期に7.0%へ低下している。業容急拡大の軋みが、決算書に表れ始めている。
2022年4月期は様相が一変する。売上高は前期並みの105億393万円だったが、未成工事受入金が8億7,414万円へ半減。現預金は、2021年4月期の12億3,684万円から9億4,566万円へ減少した。一方で、未成工事支出金は24億8,210万円まで増え、工事未払金は2021年4月期の10億5,533万円から15億2,378万円へ増加した。赤字工事の散発や支払いサイトの長期間化などが疑われる状況だ。また、2022年4月30日(2022年4月期最終日)は土曜日で、月曜日に支払いを回していた場合はバランスシートが膨らみやすい。
破産申立書ではその点に触れた上で、「同月末日払いの買掛金等の支払前の額となっており、支払を織り込んだ実際の現預金額は7,045万円程度にまで減少」と言及している。実際は資金がショート寸前だったのだ。また、支払い後のバランスシートは急速に「しぼむ」ことになり、増収が続いた受注状況にも陰りが生じていたとみられる。

UBM


そして連絡難へ

 UBMの運命の日となった2023年1月30日。夕刻、TSRに「従業員を集めて重大なアナウンスがあった」との情報が入った。その後は連絡が取れなくなり、進行中だった工事73件はストップした。
ある下請け業者は、「30日までUBM担当者と連絡を取り合っていた。31日朝、現場に行ったらUBMの社員が誰もおらず驚いた」と肩を落とした。工事現場を訪ねると、別の下請け業者が黙々と現場の整理を進めていた。
別の下請け業者は、弁護士と相談の上、資材などの無断使用や移動の制限をする張り紙を現場に掲示した。突然の連絡難は、関係先の大混乱を引き起こした。
破産申請は2月6日で、従業員へのアナウンスから1週間を要した。ある債権者は「企業活動なので破たんすることは仕方ない。ただ、これだけの規模の会社にも関わらず、終わり方があまりにもお粗末だ」と憤る。

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工事が止まったユービーエムの現場

 破産申立書には、破産開始決定日に関する「上申書」がUBMの申請代理人より提出されている。それには、「代金不払いに憤った債権者が現場を荒らしているという情報が申立人代表者のもとに入ってきており、早期に現場の保全を行う必要がある」と記載されている。代理人も混乱のなかで最善を尽くした様子が伺える。



破産の複合的な原因

 破産申請時点の負債総額は、債権者197名に対して18億4,161万円。金融機関やリース債権者を除く一般債権者は174名に達する。
破産申立書には、建築資材の高騰で利益が減少し赤字となる案件が増加したが、施主に転嫁できず、損失が膨らんだ旨が記されている。さらにUBMの元幹部が主導した架空取引における訴訟で信用が低下し、金融機関から無担保で資金調達を受けられなくなったとも記載されている。加えて、UBM側の調査では同幹部による赤字見通しの工事受注も資金繰り悪化の要因の一つだったという記載も確認される。
業容急拡大の軋みは、受注先や利益率、収支バランスの変動として顕在化し、契約トラブルや資材高騰と転嫁の遅れも重なった。


 破産申立書によると、UBMの社長が代表を兼務する企業の法的手続きの予定はないという。一部の債権者は、UBMと同社の関係を訝しんでおり、丁寧な説明が必要だろう。
取締役会議事録によると、UBMが破産申請を決めたのは1月30日。一方、申請代理人に破産手続きを一任したのは2月1日だ。
「経営者は最後の最後まで事業継続のために頑張りすぎる」(再生実務家)傾向にあるが、事業継続を断念した際の影響も加味しないと、大きな混乱をもたらす。
事業停止時の対応を企業や経営者の最終的な評価の拠り所にする審査関係者は少なくない。
規模拡大に管理部門の整備は追いついていたのか。教訓の多い破たん劇だ。



(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2023年2月14日号掲載予定「破綻の構図」を再編集)

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