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中小企業庁に聞く!「中小企業活性化パッケージNEXT」の狙い ~ 「資金繰り支援の多様化」と「支援の質のボトムアップ」 ~

 9月8日、経済産業省と財務省、金融庁は「中小企業活性化パッケージNEXT」(以下、NEXT)を公表した。関係各所は、中小企業の収益力改善、事業再生、再チャレンジ促進への取り組みを強化しているが、施策のさらなる浸透を目指す。
 東京商工リサーチは、パッケージの策定に携わった中小企業庁事業環境部金融課・来島慎一課長補佐(総括)と古川せひろ課長補佐に、中小企業を取り巻く現状やNEXT策定の意図などを聞いた。


―このタイミングで「NEXT」を作成した意図は

来島:新型コロナウイルス感染拡大から2年以上が経過し、中小企業を取り巻く環境が変わってきている。「足元の緊急的な危機をどのように乗り切るか」を主眼に2020年春以降、取り組んできたが、求められる支援策も徐々に変わってきている。足元での資金繰りの課題・ニーズは、「新規に借り入れたい」よりも「既に借りているものを返せるか」にシフトしてきている。
 また、多くの事業者が「事業再構築補助金」を活用しているように、(コロナ禍初期のような)緊急時の運転資金よりも業態転換や事業再構築、新分野進出といった前向きな取組への資金が必要な状況だ。こうした点を踏まえ、「経済環境の変化を踏まえた資金繰り支援の拡充」、「中小企業の収益力改善・事業再生・再チャレンジの総合的」支援を打ち出した。

―「資金繰り支援の拡充」について。NEXTの公表後、「ゼロ・ゼロ融資が終了」との報じ方が目立つ

来島:いわゆる「ゼロ・ゼロ融資」については、0.9%金利を引き下げ、一定の要件を満たせば利子補給で無利子化するという二段階の仕組み。この無利子化部分は終了するが、0.9%金利を引き下げる部分、すなわちスーパー低利・無担保融資は今後も継続する上に、貸付限度額も3億円から4億円に引き上げる。「無利子融資」はなくなるが、伴走支援型特別保証の保証限度額の引上げも含めて拡充部分にも是非フォーカスしていただきたい。

中小企業庁

‌取材に応じる中企庁・来島課長補佐

―「借換保証」も打ち出した

来島:民間金融機関でゼロ・ゼロ融資を受けた事業者の返済開始のピークは来年春~夏だろう。それを意識して「借換保証など中小企業の返済負担軽減策の検討」を打ち出した。具体的な制度設計はこれからの検討だ。(検討のスケジュール感については)政府全体の経済対策等のスケジュールに依る。ただし、返済開始のピークが来年春~夏なので、もちろんそこに間に合わせる必要がある。

―「事業再構築」や「新分野進出」に積極的な企業などに限定するのか

来島:資金繰り支援をウィズコロナにあわせて転換させるという中で、借換を促す政策目的をどのように設定するかであるが、検討段階なので、具体的に申し上げられることはない。

―3月の「活性化パッケージ」で打ち出した「収益力改善」「事業再生」「再チェレンジ」をNEXTでも踏襲した。ただ、事業再生に陥ることを望んでいる企業ばかりではない

来島:中小企業再生支援協議会(現:活性化協議会)時代は、事業再生にフォーカスされてきたが、これからは事業再生フェーズに陥る手前、すなわち収益力改善フェーズでの支援がより一層重要になる。そのため、活性化協議会に加えて、認定支援機関による収益力改善支援を強化する。

―「認定支援機関は玉石混合」との声も聞く

来島:そうした声があることは承知している。そのため、「収益力改善支援実務指針」(仮称)を策定し、支援の質のボトムアップを図りたい。

―策定時期は

来島:年末にかけての見込み。研究会 には、士業の方や金融機関も含めて実務経験者に参加いただいているので、それぞれの立場から現場目線で議論していただくことになる。

―「事業再生」では「再生系サービサーの活用」を打ち出した。再生系と記載した意図は

古川:サービサーは、再生を意図していると一般からは必ずしもみられていない。「再生系サービサートライアル」 の申込書を提出いただいた先を再生系サービサーと呼んでいる。再生系サービサーと活性化協議会が連携し事案を創っていくイメージだ。

―事業再生ADRなど準則型私的整理との棲み分けは

古川:事業再生ADRにおいて再生系サービサーとの連携を否定する趣旨ではないが、再生系サービサートライアルでは、中小企業が活用することの多い活性化協議会との連携を想定している。


中小企業庁

‌中企庁・古川課長補佐

―NEXTで活性化協議会の在り方は変わるのか

来島:事業者の皆様には、何かあってからではなく前もって相談に来てほしい。そのために活性化協議会の体制を強化している。

―経営者が自ら協議会に「駆け込む」のか

来島:まずは経営者の方に「このままで大丈夫か」との視点を持っていただきたい。ただ、自身で早期に気づくのは難しい。日頃から事業者と接点がある税理士をはじめ認定支援機関が経営者に促していく形を指針の中でも位置づけたい。

―「経営者との対話」では、同じ目線での対話を目指す観点で「ローカルベンチマーク」がある

来島:研究会の中でもローカルベンチマークや経営デザインシートを活用すべきとの意見を頂戴している。すでに有用なツールはある。それも用いながら、どのように実践するか。認定支援機関には、経営危機の察知や経営者への行動の働き掛けをやってもらいたい。

―中小企業庁としてのサポートは

来島:既にメニューとしては経営改善計画策定支援事業(405事業)や「プレ405」がある。その実効性を高めるため、認定支援機関には指針に沿って支援してもらう。これまでは(内容に)バラつきが多かったとの指摘も多かったので、指針を通じて支援事業の質を向上させたい。


  • 中小企業収益力改善支援研究会。事務局は中小企業庁。第1回会合は2022年8月31日開催。
  • 2022年8月1日スタート。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年10月3日号掲載予定「WeeklyTopics」を再編集)

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