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本業不振に加え、不意を打った「高級時計への投資」が引き金に 音響機器OEMメーカー(株)日特の破たん

 いつの時代も異業種交流会や経営者セミナーと銘打ったイベントは活発だ。講師、参加者らが会話を交わし、新たなビジネスチャンスが交錯する。だが、玉石混交の話には、危うい出会いも紛れ込んでいる。
 イヤホン製造を手掛ける(株)日特(TSR企業コード: 510071996、大田区)は、OEMメーカーの老舗だ。長年、大手音響機器メーカー製品を手がけ、ピークの2000年3月期の売上高は11億4,200万円をあげ、業界では知られる存在だった。
 一世を風靡したポータブルプレーヤーからスマホで音楽を楽しむ時代が一気に到来すると、イヤホンも有線からワイヤレスに人気がシフトした。だが、先述の大手音響機器メーカーは有線イヤホンを強みにしていたため、片足打法からの脱却が課題だった。
 2014年、創業者の前代表が会長に退くと、A氏が社長に就任した。A氏は長年の課題に取り組み、他メーカーからのOEM受注や先述の大手メーカーにワイヤレスイヤホンを提案するなど、事業の再構築を図った。こうした努力が実り、2006年3月期に約4億円まで落ち込んだ売上高は、2016年9月期(決算期変更)は約8億円まで回復した。
 しかし、受注は安定せず、2020年9月期は再び4億3,206万円とピークの半分以下に落ち込んだ。利益も2206万円の最終赤字に転落した。


復調への糸口を探るも

 経営再建を目指し、社外に活動の幅を広げようとA氏は2019年春、「コミュニケーション」をテーマにしたビジネスセミナーに参加した。そこでロレックスなど高級ブランド時計に投資していたM社の代表・X氏と出会う。当初は受講者の間柄に過ぎなかったが、2019年秋、A氏がX氏に「(日特の)経営が大手1社の下請けで芳しくない」と自社の苦境を吐露したことで事態が動き出す。悩みを聞いたX氏は、「短期で確実に出口の見えるロレックスへの投資」話を持ち掛けた。
 2019年11月、日特はM社と高級時計への投資取引に踏み出した。X氏が語る「製造業は長期スパンのビジネス。短期で結果を出せるビジネスを導入しないと経営バランスがよくない」との甘言が投資を後押しした。A氏はその後、M社を相手取った訴訟で、この言葉を忸怩たる思いで述懐している。
 日特は、まず約300万円を投資した。すると翌12月、27万円の利益を得られた。これでA氏はX氏の術中にはまり、2020年1月には日特とM社はコンサルタント契約を結ぶに至った。アドバイスは2020年7月発売の日特オリジナルイヤホン「newspring」の開発、人材育成など多方面に渡った。

関連会社や個人でも投資にのめり込む

 毎月のように投資を続けた高級時計は、ロレックス、パテック・フィリップ、オーデマ・ピゲなど高価な人気ブランドばかり。1回の投資リターンは7~10%と順調だった。こうして2020年春からは投資先は日特に加え、関連会社の(株)ステージアップ(TSR企業コード: 298020068、大田区、2022年4月破産開始、以下ステージ社)、そしてA氏も個人で投資にのめり込んでいった。
 コロナ禍で高騰する高級時計への投資は、一見順調に見えたが、2020年11月ごろM社からの入金が初めて遅れた。X氏は「日特とM社は第三者(実際に時計を販売する会社)との契約で、商品を最終的に担保にとっている。だから入金は可能だ」などと説得した。だが、2021年2月の入金分が日特とM社の最後の投資取引となった。

M社から入金がない

 2021年2月、日特は約1,200万円をM社に振り込んだ。日特へのリターン予定額は1,300万円で、8%超の利益率を見込んだ。
 ところが、入金予定の3月中旬を待ってもM社から入金はなかった。そのまま10日が過ぎた頃、突然、M社から「事業の継続が困難なため、終了の方向で調整中」と連絡が入った。慌てたA氏は、再三連絡を試みたがなしのつぶて。すると8月にX氏からA氏に「新規事業を始めたが、見込みばかりで疲弊している。M社を倒産させるかもしれない」と連絡が入った。A氏は再び連絡を試みるも、投資金は返還されないまま。ついに11月に入り、日特はM社を相手取り東京地裁に不当利得返還請求を提訴した。

日特(破たんの構図用)

‌日特の「告示書」(画像には加工をしています)

コロナ禍で本業も生産工程に支障

 この間、本業のイヤホン製造も苦境に陥っていた。コロナ禍で協力工場のある中国・深圳が2020年初めからロックダウンされ、工場が稼働停止に追い込まれていた。さらに、材料調達や人員確保に支障を来し、大手メーカーへの納品は数カ月遅れ、業績悪化に歯止めが掛からなくなっていた。
 それでも2020年7月、自社オリジナルイヤホン「newspring」の発売にこぎ着けた。この商品は優れたオーディオ製品の賞にノミネートされるほど評価は高かった。だが、希望小売価格は16万円。市場のニーズとは合致せず、ユーザー拡大とは縁遠かった。

存続のために奔走

 2020年9月期の売上高は4億3,206万円と伸び悩み、金融債務は3億円以上を抱えていた。借入返済は月600万円以上に達し、2021年夏、中小企業再生支援協議会に支援を求め、1年間の元本返済猶予を受けた。この間、新しいイヤホンブランドの開発に着手する一方、M&A仲介会社に登録した。スポンサーも探したが、2021年9月期の最終利益は約4,000万円の赤字で、在庫の9,000万円が不明という社内体制も露呈した。スポンサーも現れず、2022年には東京都事業引継ぎ支援センターにも登録したが、時すでに遅し。危うい投資話に浮かれ、M社から返済もないまま、2022年4月25日、東京地裁に破産を申請した。


 各種サイトや雑誌には様々な「おいしい投資話」が転がっている。最近も人気芸人の投資をめぐるトラブルが報じられたばかり。
 日特は、自社損失は1,200万円だが、代表や関連会社を含むと総額約3,000万円が消えた。セミナーに起死回生の思いで参加し、藁にすがる思いだった高級時計への投資話も、“貧すれば鈍する”。コロナ禍で先行きが不透明な時代こそ、石橋を叩く経営が必要だ。


(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年8月5日号掲載「破綻の構図」を再編集)

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