• TSRデータインサイト

大手と中小の業績格差が拡大 ~ 2021年「道路貨物運送業の業績動向」調査 ~

 全国の道路貨物運送業者2万6,698社の2021年(1月期-12月期)の売上高合計は、21兆6,823億5,700万円(前年比1.1%増)と2年連続で伸びた。新型コロナ感染拡大による在宅勤務や外出自粛などでEC市場が拡大し、大手を中心に宅配貨物需要が高まった。
最終損益が判明した1万5,525社の当期純利益合計は、4,089億8,400万円(同6.0%増)だった。ただ、コロナ前の前々期から徐々に赤字企業が増え、最新期は21.7%の企業が赤字だった。
国土交通省が発表した2020年度の宅配便実績は、巣籠り需要の増加などで48億3,670万個(前年度比約11.9%増)と大幅に増えた。宅配貨物運送市場の拡大を追い風に、大手の好調に業績を伸ばしたが、2020年度の国内自動車貨物輸送量は2,134億1,900万トンキロ(前年度比84.9%)に落ち込んでいる。1社あたりの売上高は減収が続き、大手と中小企業の業績格差がコロナ禍で広がった。
2022年1∸5月の道路貨物運送業の倒産は合計94件(前年同期比40.2%増)に達し、2月を除き5月まで前年同月を上回って推移している。燃料価格の高止まり、人手不足などの影響で中小運送業者の業績は厳しさを増しており、今後の道路貨物運送業者の動向に目が離せない。

※本調査は、東京商工リサーチの企業データベース(390万社)から、日本産業分類(小分類)「道路貨物運送業」のうち、一般貨物自動車運送業と貨物軽自動車運送業、集配利用運送業を対象に2021年1月期~2021年12月期を最新期とし、3期連続で業績比較が可能な企業2万6,698社(最終損益は1万5,525社)を抽出し、分析した。

最新期の売上高は1.1%増

 全国の道路貨物運送業2万6,698社の2021年(1月期-12月期)の売上高合計は、21兆6,823億5,700万円(前年比1.1%増)で、2年連続で増収となった。
2021年は拡大した宅配便需要を取り込んだ大手を中心に、売上高を伸ばした企業が多かった。
一方、当期純利益の合計は4,089億8,400万円の黒字(前年3,857億3,200万円の黒字、前年比6.0%増)だった。コロナ前の2019年の3,887億5,600万円を5.2%上回った。

業績動向

損益別、赤字企業が2割

 最新期で損益が判明した1万5,525社中、黒字は1万2,155社(構成比78.2%)に対し、赤字は3,370社(同21.7%)と2割を超えた。
赤字企業の構成比は前期(2020年)が19.0%(1万4,950社中、2,846社)、前々期が15.7%(1万4,387社中、2,259社)だったが、2021年は初めて2割を超えた。
また、2021年に50億円以上の黒字を計上したのは6社(前年5社)、50億円以上の赤字を計上したのは1社(前年1社)だった。

業績動向

最新期は減収企業が増収企業の1.4倍

 2021年の対前年増減収別(対象2万4,377社)は、増収企業が7,256社(構成比29.7%)で、2020年より759社(9.4%減)減少した。
一方、減収は1万690社(同43.8%)で、2020年より1,850社(20.9%増)増加した。

業績動向

売上高5億円未満が75%超

 2021年の売上高別は、最多は売上高1~5億円未満の1万3,135社(構成比49.8%)。次いで、1億円未満が6,734社(同25.5%)、5~10億円未満が3,242社(同12.3%)と続く。
売上高5億円未満が75.3%を占め、道路貨物運送業の大半を中小・零細事業者が占めている。
売上高100億円以上の244社のうち、1000億円以上は6社にとどまり、大手の寡占化が進んでいるようだ。

業績動向

従業員数は10~50人未満、資本金別では1千万円~5千万円未満が最多

 従業員数別では、10~50人未満が1万4,483社(構成比54.2%)で最多。次いで、5~10人未満の4,386社(同16.4%)、5人未満の2,745社(同10.2%)と続き、5人未満から50人未満が2万1,614社(同80.9%)と8割を占めた。
資本金別では1千万円~5千万円未満が1万4,842社(構成比55.5%)で最多。次いで1百万円~1千万円未満が9,789社(同36.6%)、5千万円~1億円未満が1,017社(同3.8%)と続く。

 道路貨物運送業界は人手不足や燃料費高騰など、対応すべき課題が山積している。人手不足は、トラックドライバーの長時間労働や低賃金の改善が急務になっている。2020年度のドライバーの年間労働時間は全産業平均の2,100時間と比べ、大型トラック運転手は2,532時間と432時間も長く、一方で年間所得額は全産業487万円と比べ、大型トラック運転手は454万円と約7%低い。
こうした環境を嫌気し、若年層ドライバー希望者が増えない悪循環が業界の人手不足に拍車をかけている。また、業界全体は、時間外労働に年間960時間の上限規制が設けられる2024年問題への対応も迫られている。
5月30日現在、軽油の価格は全国平均小売価格148.2円(経済産業省資源エネルギー庁発表)と7週連続で下落傾向にはあるが、依然として価格の高止まりが続いている。これが経営に大きな負担になっている。また、荷主と下請運送事業者との適正取引について、中小・零細企業は荷主に対する立場が弱く、適正な運賃・料金の収受が厳しい状況も残している。
2021年の道路貨物運送業の休廃業・解散は、459件(前年比0.2%増)だった。2021年はコロナ関連の支援効果が残り、全体では10.7%減少しただけに、微増とはいえ道路貨物運送業の増加が気になる。コロナ禍は落ち着くが、経営体力の脆弱化や後継者不在を背景に、倒産に追い込まれる企業や休廃業、解散、M&Aを選択する業者が増える可能性が高まっている。

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

2024年1-6月「負債1,000万円未満」倒産 261件 2010年以降で3番目の高水準「破産」が約98%

2024年上半期(1‐6月)の全国企業倒産(負債1,000万円以上)は4,931件で、年間1万件を超えるペースで増勢をたどっている。また、負債1,000万円未満の小規模倒産も261件(前年同期比6.9%増)で、2010年以降では3番目の高水準となった。

2

  • TSRデータインサイト

2024年上半期「バー」「キャバクラ」等の倒産47件 過去10年で最多、コロナ禍と物価高で変わる夜の街

コロナ禍が落ち着き、街にはインバウンド需要で外国人観光客が増え、人出が戻ってきた。だが、通い慣れたお店のドアは馴染み客には重いようだ。2024年上半期(1-6月)の「バー,キャバレー,ナイトクラブ」の倒産は、過去10年間で最多の47件(前年同期比161.1%増)に急増した。

3

  • TSRデータインサイト

上半期の「飲食業倒産」、過去最多の493件 淘汰が加速し、「バー・キャバレー」「すし店」は2倍に

飲食業の倒産が増勢を強めている。2024年上半期(1-6月)の飲食業倒産(負債1,000万円以上)は493件(前年同期比16.2%増、前年同期424件)で、2年連続で過去最多を更新した。現在のペースで推移すると、年間では初めて1,000件超えとなる可能性も出てきた。

4

  • TSRデータインサイト

2023年の「個人情報漏えい・紛失事故」が年間最多 件数175件、流出・紛失情報も最多の4,090万人分

2023年に上場企業とその子会社が公表した個人情報の漏えい・紛失事故は、175件(前年比6.0%増)だった。漏えいした個人情報は前年(592万7,057人分)の約7倍の4,090万8,718人分(同590.2%増)と大幅に増えた。社数は147社で、前年から3社減少し、過去2番目だった。

5

  • TSRデータインサイト

「想定為替レート」 平均は1ドル=143.5円 3期連続で最安値を更新

株式上場する主要メーカー109社の2024年度決算(2025年3月期)の期首の対ドル想定為替レートは、1ドル=145円が54社(構成比49.5%)と約半数にのぼることがわかった。 平均値は1ドル=143.5円で、前期から14.5円の円安設定だった。期首レートでは2023年3月期決算から3期連続で最安値を更新した。

TOPへ