• TSRデータインサイト

フリージアグループ・佐々木ベジ会長 単独インタビュー(前編)ラピーヌの変革は「既存顧客が居なくなる前提」

 若い世代を中心に「百貨店離れ」が進み、2020年以降は新型コロナによる消費低迷も深刻だ。メイン顧客のミドル・シニア層の来店機会が減り、百貨店を主戦場にする中・高価格帯のアパレルブランドは冬の時代が続く。
 2020年9月、「不振・倒産企業の再生請負人」として知られるフリージア・マクロス(株)(TSR企業コード:291065422、千代田区、東証スタンダード、以下フリージア社)の佐々木ベジ・取締役会長は、百貨店向け婦人服大手(株)ラピーヌ(TSR企業コード:570221234、千代田区、東証スタンダード)の代表取締役社長に就任した。
 一方、フリージア社は投資先の1社で婦人フォーマル老舗の(株)東京ソワール(TSR企業コード:291181210、東京都港区、東証スタンダード)と経営方針や役員人事を巡り対立。東京ソワールの買収防衛策の発動にまで発展している。
 東京商工リサーチは、百貨店アパレルの現状や東京ソワールとの関係について佐々木ベジ氏に訊いた。


―2020年秋にラピーヌの代表取締役就任から1年半が経過した

 アパレルは依然厳しい環境下にある。だが、2021年の秋冬物から原価低減に取り組み、直近決算は無事黒字で着地できた。粗利率は、私が就任してから10ポイント以上改善した。
 原価低減のために3つの施策を実施した。1つは、仕入業者としっかり交渉すること。従前は(商品が)入ってきた値段の5倍の定価で売る、つまり積み上げ方式を採ってきた。メーカー側も色々と融通を効かせて臨機応変に対応してくれてはいた。一方で、業者持ち込みの企画や先方が売りたい生地の商品など「業者さんありき」の企画も少なくなく、マーケットを無視した状態だった。
 あと2つは「少量多品種生産」からの転換と「ブランドミックス」だ。

  • 2022年2月期の経常利益(連結)は1億7,800万円の黒字(前年同期は15億9,800万円の赤字)、最終利益は1億5,500万円の黒字(同21億3,500万円の赤字)

ベジ会長

‌取材に応じる佐々木ベジ会長

―少量多品種生産の課題は

 ロットが小さいと1商品当たりの在庫も少なくなり販売機会を逃しがちだ。また、1型あたりの数が少ない分、品物の値段が上がってしまう。これまでは1型あたり数十枚~100枚程度だった生産数を1型あたり数百枚に改めた。一方で、型数を大幅に絞った。
 これまで、ある意味で「顧客中心主義」だった。ラピーヌにも様々な層の顧客がいらっしゃる。その顧客データに沿って商品を作ってきた。ただ、あまりにも顧客が多岐に渡るため、顧客数の割に商品生産の総量は少なかった。既存顧客を意識するあまり、新規顧客を狙ったマーケット向けアイテムがなく、マーケットが求めるものと商品が必ずしも一致していなかった。既存顧客が高齢化すると、将来的な期待は薄くなる。そこで新しい顧客を呼び込めるようにしよう、と方針転換した。

―型数を絞り込めば、ロットを増やせて販売単価は抑えられる

コストが削減できることで百貨店ブランドとしての品質も保ちながら、従前から3割ほど安い価格で提供できるようになった。トップスで1着1万円台~5万円だ。

―デザインやコンセプトが変わることで既存顧客が離れる恐れがある

 今までのファンはどちらかというと値段を気にせず、「ブランドが好きだ」という方々だった。これを既存顧客が居なくなる前提で、新しいお客様にどう提案していくかを意識した。以前のメイン顧客層は60~70代だが、将来的に減っていく。
 そこで、それより若い世代の方も「欲しい」と思える商品展開にシフトした。第一段階は、通りすがり、店の前を素通りするような方が思わず足を止めてしまうような魅力的な商品を揃える、たまたま我々のアイテムを購入してくださった方にファンになってもらえるように。若い人も年配者も欲しいと思うものはそう変わらない。

―ブランドミックス戦略とは

 ラピーヌには6つのブランドがあるが、商品は6ブランド各々で企画していた。それぞれの顔(ブランド)は大事だが、各ブランドで一部の商品を共通で販売して効率化を図っている。各ブランドそれぞれに売れ筋があれば、他ブランドでも販売することで数が売れる。数が売れるとコストをさらに下げることができる。
 売れる形、売れる色は、ブランド間で重なってしまうケースは結構ある。色や形はトレンドで左右される面があり、まったく別の会社で同じようなデザインの商品を展開してしまうケースもある。同じ会社の別ブランドで同一デザインの商品が並ぶこと自体は問題にはならない。
 ただ、日本人の体形にフィットしたデザインや、好まれやすい中間色の商品の充実、品質、機能性をしっかり考慮、工夫するようにした。今までより、だいぶ踏み込んだ商品企画となっているので、うちのデザイナーも大変になった。

―百貨店アパレルに携わって、現状をどう見るか

 百貨店は売れないままずっと低迷している。百貨店アパレルの商品を企画する人たちもそのムードを引きずり、どうしても元気がなくなってしまう。 そのため、既存顧客頼りの商品ばかりを生み出してしまう。
 その先には商売効率の悪化が待っており、さらに新規顧客も減少する。(百貨店の)フロアを通る人は決まっていて変わらない。その悪循環は業界全体がそうだろう。
 ただ、何だかんだ言っても、百貨店は駅に近く、良い場所にある。そこで何をやるか。アパレルが売るのは「ファッション」という文化で、これは一種の情報だ。「この情報は良い」とお客様に思ってもらうことが肝心だ。なので、我々はお客様が「これだ」と思える形、色、素材、風合いなどを、根拠を持って発信する。その根拠が重要だ。

(続く)

(東京商工リサーチ発行「TSR情報全国版」2022年5月11日号掲載「WeeklyTopics」を再編集)

人気記事ランキング

  • TSRデータインサイト

【解説】秀和システムの法的整理、異変察知は「船井電機より前」

(株)秀和システム(TSRコード:292007680、東京都)への問い合せは、船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の破産の前後から急増した。ところが、あるベテラン審査マンは「ERIが弾けた時からマークしていた」と耳打ちする。

2

  • TSRデータインサイト

2025年3月期決算(6月27日時点) 上場企業「役員報酬1億円以上開示企業」調査

2025年3月期決算の上場企業の多くで株主総会が開催された。6月27日までに2025年3月期の有価証券報告書を2,130社が提出した。このうち、役員報酬1億円以上の開示は343社、開示人数は859人で、前年の社数(336社)および人数(818人)を超え、過去最多を更新した。

3

  • TSRデータインサイト

1-6月の「訪問介護」倒産 2年連続で最多 ヘルパー不足と報酬改定で苦境が鮮明に

参議院選挙の争点の一つでもある介護業界の倒産が加速している。2025年上半期(1-6月)の「訪問介護」の倒産が45件(前年同期比12.5%増)に達し、2年連続で過去最多を更新した。

4

  • TSRデータインサイト

船井電機の債権者集会、異例の会社側「出席者ゼロ」、原田義昭氏は入場拒否

破産手続き中の船井電機(株)(TSRコード:697425274、大阪府)の第1回債権者集会が7月2日、東京地裁で開かれた。商業登記上の代表取締役である原田義昭氏は地裁に姿を見せたものの出席が認めらなかった。会社側から債務者席への着座がない異例の事態で14時から始まった。

5

  • TSRデータインサイト

1-6月の「人手不足」倒産 上半期最多の172件 賃上げの波に乗れず、「従業員退職」が3割増

中小企業で人手不足の深刻な影響が広がっている。2025年上半期(1-6月)の「人手不足」が一因の倒産は、上半期で最多の172件(前年同月比17.8%増)に達した。

TOPへ